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俺の爺さんが、その昔、異世界でブイブイ言わせていたのだが、孫の俺にその付けが回って来た話  作者: 吉高 都司


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第五話

 さようなら。


 彼女の、いつもの笑顔が消えその表情は知り合う前の、出会う前の、全くの他人に向ける表情のそれだった。

 俺に、何かが足りなかったのか、それとも彼女に他に好きな誰かが出来たのか、皆目わからなかった。

 ただ言えることは、自分自身に覚悟と勇気が無かった。

 ただそれだけだった。


 キャンパスを卒業し、社会に打って出たはいいが、何ごとも中途半端だった俺は、彼女を待たせに、待たせてしまった。


 覚悟が全くなかったのか。

 いや、そんなことは無い。

 何度自問自答を繰り返しても、答えは否だった。

 ただ、今日と変わらない明日が、夜寝床に入り、朝目覚めれば勝手にやってくる。そう信じて疑わなかった日々。

 ただそれを何も感じず受け取っていただけ。

 これでいいんだと自分自身を自分勝手に納得させていただけだったのかもしれない。


 そんなある日、別れを告げられた。 

 しびれを切らした彼女は、故郷に帰りお見合いをすると言って。


 ショックで、声が出なかった。

 あまりにも、日常が日常すぎて、何も変わらない日が続くと勝手に思い込んでいた。


 が、違った。

 終わりを告げた。



 震える手で、コップに入ったコーヒーを飲み下しながら。

 強がって、いいんじゃない、と言ってしまった。


 みるみる、彼女の表情は他人のそれに変わり、分かった、と一言言って出て行った。


 彼女は、その日から二度と目の前に現れることなく、ある日引越し業者がやって来て、彼女の物を根こそぎ持って行った。

 残されたのは、歯ブラシと、スリッパぐらいだった。

 俺は、初めて泣いた。


 爺さんが言ってたっけ、女ってのは、男に最後までしつこい位ついて行くが、女がついていかなくなったら最後、二度とついていかない。二度とな、と。


 暫く、砂を噛むような日々が続いた。



 多分憔悴しきった俺を見るに見かねたのだろう。

 そんな時、先輩からアルバイトの送迎を頼まれた。

 特に、やることも無く、家でふさぎ込んでいても仕方がない。

 そう思って、承知した。


 驚いた。


 送迎と言うものだから、介護か何か福祉関係と勝手に思い込んでいた俺も悪かったのだが、真夜中、繁華街の真ん中でワンボックスを止めて、夜の蝶の、お酒の入った蝶を送ることになってしまっていた。


 華やかな彼女達。


 ワル、とまではいかなかった俺は、それなりに喧嘩では負けることは無かった。

 悪い虫など寄せ付けない程度の腕っぷしと、身持ちの良さと。

 それが大前提。

 まあ、硬派と言えば聞こえはいいが、女性の扱い方が分からなかった事も考慮の中に入っていたのだろう。


 勇気と覚悟の無いだけの俺なのに。



 車の振動に揺られながら、現実世界での事を思い返していた。


 揺れる車内で、そんな俺に引き換え、助手席で彼女は彼女なりに、勇気を振り絞り行動している。

 隣で必死に地図と格闘している彼女を見て、俺に勇気と覚悟があればと思った。



 その横顔を見ていると、彼女は不意に指さした。 

 あの、峠の向こう、と指さした方向を凝視すると、キラキラ光る何かを見つけた。


 湖。


 そう、湖のほとりにある廃城で待ち合わせしてるの。

 彼女のそう言う、キラキラした瞳に、自分の苦い思い出が少し洗われるような気がした。


 そう言えば、追手と言えば、どうやら今の峠で、屋根を蹴っていた羽根の生えた者と、パトカーらしきものははいなくなっていた。

 異世界と言っても同じ生き物だ、体力が無尽蔵にある訳じゃない、空飛ぶと言ってもそれなりに体力は使うはずだ、途中で引き返したんだろう。


 待てよ、この車の燃料は、ガソリンは?そう思った時。


 彼女は隣で、この世界のことわりの外の物。

 だから、無くなることも無く滅する事もない。

 人の命以外は。


 そう言った。



 池のほとり、青い湖の側には確かに廃城があった、鳥が俺たちの気配を察して、慌てて数十羽と飛び立って行った。

 鳥の羽根と、枯れ葉が、舞った。


 廃城の門を潜り抜け、タイヤが砂利を踏みしめる音を響かせ、車寄せらしきとこまで、ゆっくり入って行った


 エントランス前でエンジンは、そのままにして、何時でも駆ることが出来るようにした。

 彼女一人、王子と落ち合うため、雑草が生い茂る城門の中に入っていった。


 周りは鬱蒼うっそうとした、木々に囲まれ、待ち合わせには。逢瀬おうせにうってつけの場所のようだ。


 日が真上に来て、そしてその角度がかなり移動した。


 まあ、盛り上がって、そうなっても致し方のないことだが、追われる身を自覚しているなら自重しろよ。


 と言いたい。


 まあ、いい。

 早めに、出発を促すため、俺も城のなかにはいった。



 案の定、響き渡る矯声きょうせい

 俺は頭をかきながら、其処そこいらにある石や、枯れ枝をわざと音が出るよう、投げた。

 二、三回それを繰り返すと、ようやく声はしなくなり、暫くして、ドタドタと慌てて、彼女と、その駆け落ち相手が、姿を現した。

 二人を見て、もう一度頭をかきながら、上気した彼女達を見てなにか言おうとしたが、やめた。

 一言行くぞと言って、車に戻った。


 彼女が、地図を見て、ナビをするため、助手席に乗り込もうとしたが、駆け落ち相手の王子が彼女の腕をつかんだ。


 おい、道案内がなけりゃどう行けばいい?

 俺が言うと。


 知らぬ男と隣同士など持っての他。

 王子はそう言った。


 俺は、 

 はあ、お前なに言ってんだ、俺は彼女さんに呼ばれて、お前らの駆け落ちの片棒かつがされてんだ、ふざけんな。

 続けて、

 彼女に向かって、おまえ、案内しろよ。と言った。


 おい、お前、貴様の様な下賎の者に、我妻になる彼女をお前呼ばわりするな。

 と、王子。


 下賎とはなんだ、てめぇ。

 俺はその駆け落ち相手の王子が詰め寄って来たので、俺も向かって行った。


 お互い、胸倉を掴みそうなくらいの距離になった。

 その時、その王子の膝がわずかに震えているのが見えた。

 こいつ。

 と、思ったその時


 森の向こう側から近づくものの音、蹄と車輪が地面を蹴る音。

 それらが近づいて来る音。

 今度は馬車か何かか。


 とにかく乗れ。

 と、俺は言って、クラッチを踏み込み、ギアを倒し込み、アクセルを全開に開いた。


 畔の、土、泥を巻き上げ、ホイルスピンしながら、ランタボはその場を離れた。



 

目を通していただき、誠にありがとうございます。表現として、如何でしょうか。多分大丈夫だと思いますが。いずれにいたしましても、目を通していただき、重ねてお礼申し上げます。

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