第三話
そなたのおじい様、そして私のおじい様でもある彼は、ある日、私のおばあ様と恋に落ち、そして私の母が生まれた。
さらっと、王女、彼女は言った。
ち、ちょっと待ってくれ。
そう言う俺の言葉が耳に入って無いのだろうか、彼女は話を続けた。
おじい様は、何かの召喚か、転生か転移なのか、詳しくは聞いていないが、そなたの世界からやって来た。
というのもその頃の我が王国は、魔王の侵攻で危機に瀕していた。
その攻撃を防ぐには。
七つのオーブとそれを操る賢者が必要だった。
それには、各地に散らばっている、オーブを取りに行き、賢者をさらってこなければならなかった。
オーブはそれぞれ地の果て、賢者は魔王の側近。
いずれも不可能に近かった。
だが、おばあ様は渾身の力で、勇者、そう、あなたのおじい様を呼び寄せた。
その白い車と共に。
なぜなら空は、魔王の制空権内、飛んで目的地には到底辿り着けない。
ならば地を這って行くしかない。
そこで、地を這う最速、最強の勇者を呼び寄せることにした。
召喚、転生、転移いずれかの力で。
それが。
おれが思わず、言うと。
そう、私のおじい様でもある、あなたのおじい様。
と、王女。
続けて。
その後、
おばあ様と共に、艱難辛苦を乗り越え、オーブを手に入れ、賢者を拐し何とかその力を得て魔王の侵攻を食い止め、そして。
魔王を倒した。
同じ苦しみを乗り越えた二人に、異世界の壁など無意味。
二人は激しく愛し合い、そしてお母様が生まれた。
そして、その娘が・・・。
ち、ちょっと待ってくれ。
俺は、彼女の次の言葉を遮った。
ちょっと待ってくれ、異世界がどうこうとか、何が何だか分からない、混乱しているところに、じいさんの昔話はおろか、目の前にいる娘と俺が・・・。
続けて、彼女は何か言おうとしたが。
ちょっとまて、じゃあ王女、君は従妹?
そうだ、と短く答え話を続けた。
そこで、暫くはそなたのおじい様と私のおばあ様は手に手を取り合い、幼いお母様と幸せに暮らしていた。
だが、ある時この王国に謀反が起こり、この国は再び危機に直面した。
政争と、外敵と戦う事はその意味も、敵も全く違う。
しかも自国の内紛如きで。
最愛の人を、政争の渦中に巻き込み、失いたくなかった。
その時、追手がおじい様を追わないよう咒をかけ、断腸の思いで、おじい様を元の世界に強制的に帰還させた。
おじい様は別れ際にこう言ったと聞いてます。
君や娘、孫たちに何か困った事が会った時、俺を呼べばいい、必ず俺は帰ってくる、この車と共に、と。
そして、いつかまた会うことを誓い合って。
だから、私の願いを叶えてもらうため、そなたをここへ呼び寄せたのです。
ちょっと待て、頭が混乱している。
一体誓いってなんだ。
願いってなんだ。
俺は聞いてないぞ。
しずかに王女は言った。
駆け落ちをするため。
はあ、駆け落ち?
俺は混乱に拍車がかかった。
駆け落ちするため、逃げるためじゃ。
語気が変わり、王女は繰り返した。
その願い、誓いの内容を聞いて思わず。
おいおい、お前さんのおばあ様は国の為に命がけで、俺のじいさんを呼んだんだろう。
なのに、その孫が自分一人の色恋沙汰で貴重な約束を使うなんて。
キッと睨み王女は言った。
或る時。
舞踏会で、わらわがある殿方を見初めたのじゃ。
殿方。
王子はわらわと、踊りを一緒に舞った。
その時の、トキメキは、男子のそなたらには決してわからぬものじゃ。
しかも殿方は、こう約束してくれたのじゃ。
はじめて、あなたのような女性に出会ったことは無い、一緒になろう貴女こそ運命の女だ、と。
その時、この恋は愛となってあのお方の為に、国を滅ぼしてもいいと思ったのじゃ。
そういって、胸に手を当て、少し赤らめていた。
俺は思った。
お医者様でも草津の湯でも、惚れた病は治りゃせぬ。ってよくじいちゃんも言っていたっけ。
それに、会ってすぐの女性に運命の女って、この王女、疑わねえのか?
だから、恋煩いって言うのか。
しかし、急に異世界か何かに呼び出されて、他人の色恋沙汰の、駆け落ちの片棒を担がされるなんて。
国を滅ぼしてもいいなんて、理屈も何もあったもんじゃない。
大体どうやって、駆け落ちなんてさせるんだ。
あ。
あのランタボで。
王女は言った。
そう、あの魔王を退けた伝説の車で。
私を王子様の所に届けてもらい、そして、誰もいない誰にも干渉されない場所で、ひっそり二人で暮らすのじゃ。
その瞳は夢見る乙女そのものだった。
で、彼とは話が付いているのか?
半分、やけくそで今の状況を受け入れるしかなかった。
ええ、指定された場所と時間は打合せ済み、後は落ち合うだけ。
詳しくは後ほど打合せしましょう。
そう言うと、着物の裾を右手で押さえ、裾が割れないよう、スッと立ち上がり、部屋の障子の前でも一度、座り直し障子を開けスッと出て行った。
その流れるような所作をみて、もう一度天井を見た。
まるでまだ夢の中に入るようだった。
この拙作に目を通していただき、誠にありがとうございます。




