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俺の爺さんが、その昔、異世界でブイブイ言わせていたのだが、孫の俺にその付けが回って来た話  作者: 吉高 都司


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第二話

 FR(フロントエンジン・リアドライブ)駆動、1800直噴4SOHC、ターボエンジン、空冷インタークラー、最高出力160PS,最大トルク22.0Kgf・m,当時のダートレース、ラリーなど席巻していた名車中の名車。

 この車の実物を初めて目にしたのは、じいちゃんの車庫だった、ブルーシートに包まれたそれは、小さい頃には特に気にしていなかった。

 特に荷物のそれは、車庫の中の風景と何も違和感がなかった。

 ただ、青いそれが有るんだと漠然と思っていた。


 車の免許を取って、車を探していた俺に、その夏じいちゃんから田舎に来るように言われ、じいちゃんに会いに行った。


 ランサー1800EXターボ

 通称ランタボ。


 そう言って、得意げに(くだん)のブルーシートをはがした。

 白い四角い奴、第一印象はそう思った、そして、己を知るものが己を乗りこなせ、と車自身が言っているようだった。


 俺が峠を駆っていた自慢の相棒だ。

 そう言って、その目は懐かしいもの、愛しいものを見る目だった。


 これをお前に貸してやる、練習しろ。

 待っている者がいずれ呼びに来るだろうきっと。

 その時はわしの代わりに頼む、と訳の分からない事を言っていた。

 この白い車と出会った時から俺の生活は一変した、それからというもの、暇があればじいちゃんの元に通い車の運転、峠を攻めに攻めていた。



 じいちゃんが昔走り屋だったと聞かされた時は正直びっくりした。

 いつも、会う度炬燵で、物静かにネコと一緒にいていると言うイメージが強く、夏休み、冬休み毎、長期の休みになると、じいちゃん孝行も兼ねて遊びに行っていた。


 俺は長期の休みでも仲間とつるんだりすることは無かった。 

 確かに俺は、学校でもどちらかと言えば、目立たない方で。

 逆に目立とうとせず、あまり干渉もせず、逆に干渉もされたくない、ついてくるものは拒まず去ってゆくものは追わず、と言った事を信条としていた。

 どちらかと言えば一匹狼、と言えば聞こえはいいが、コミュ障なだけなんだろう。

 だからと言って、舐められるのが嫌いだったから、喧嘩はしない事は無かった。


 だからなのかもしれない、ハンドルを握る俺が俺自身で、こいつを操り、そして峠を攻めていく、この自分を表現できる快感は、何物にも代えがたかった。



 それと同時期に、今までじいちゃんは真面目だったことを聞かされていた、その価値観が変わった事があった。

 ランタボで峠を攻める練習をし始めた頃。

 アルバムを整理していた時、白黒とカラーが混在していた、写真が箱一杯出てきた。

 いかにも昭和と言ったいでたちの、若者が、腕を組んで仁王立ちで、ズラッと、並んでいる写真を見た時だった、古い不良漫画や、古いヤンキー映画と呼ばれるものでしか見た事の無い若者が、特に真ん中ですごい睨んでいる。


 じいちゃんだ。


 見つかっちゃったか。

 その男が、おじいちゃんでね、昔は札付きの悪でねーと、げらげら笑いながら。

 おばあちゃんはそう言った。


 そうそう、お父さんは喧嘩と車が青春だったっていつも言っていた、と母が追い打ちをかけ、笑いながら。

 付け加えて、

 それを見てたから、私はお父さんと付き合う前は、よく合コンで、俺昔悪かったんだーって自分の昔が悪かったって自慢ばっかりの男は、この写真見せたら、尻尾撒いて逃げるんじゃないかなあ、昭和だ、本物だって。

 と、あんまり聞きたくない母の合コン話も追い打ちをかけて言ってきた。


 でも、今の時代の遥か昔。

 そんな気合の入っていた。

 青春を輝かしていた、じいちゃんがより一層大好きになった。

 猫を抱いているじいちゃんは仮の姿か。

 と一人苦笑していた。


 そんな大好きなじいちゃんも、寄る年波には勝てず、この前鬼籍(きせき)に入った。


 その数か月前に、何を思ったのか、倉庫にあるそのランタボお前にやる、今まで教えたんだ、きっとこの車を乗りこなせると思うからな。

 と言っていた事を思い出し、おばあちゃんに言って、引き取ることにした。

 じいちゃんの様に俺は乗りこなせるだろうか。



 ランタボ。

 じいちゃんは言った。

 そうランサー1800EXターボ、通称ランタボ、わしが青春を捧げた車だ、恋と喧嘩と冒険と。


 恋は多分向こうからやってくる。


 ああ、恋に関しては秘密だぞ。


 特にばあさんや、母さんには、な。


 と、じいちゃんは悪戯っぽく笑ってた。


目を通していただき、有難うございます。

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