第九話
彼女を送り届けて、と。
親友の王女達に頼まれた。
まあ、送迎はお手のものだ、と思いながら、第一王女と第二王女と都の外れまで並んで走った。
峠の分かれ道で、二人は名残惜しそうに、別れの挨拶をした。
一方彼女は車の中で、気が抜けたような様子だったので、そのままにしておいた。
帰りの車中、目まぐるしく過ぎ去ったこの世界での事を思い返すとやはり、にわかに信じられない、今でも夢か現かと言った状態だ。
ゴトゴトと、来た道を戻りながら、外の景色を眺めつつ黄昏ている彼女になんて、言えばいいのか、言葉を探していると。
ありがとう。
と、ポツリと、言ったと思うと、続けてごめんなさいと、謝ってきた。
暫く考えて、俺は。
いいよ、気にしなくて俺には。お前さんが、勇気を振り絞り、後悔のないように無我夢中でやった事。
称賛に値するよ。
偉いよ、おまえさんは。
そう言いながら。
彼女の頭を二、三回掌でトントンと撫でた。
彼女は、
声をださず、押し殺して泣いていた。
国に帰り、これは、女としてのけじめです、私がこの駆け落ちにあなたを巻き込んだのですから、あなたに累が及ぼすことは決していたしません、と。
単身父親である王と、妃に釈明に出向いた。
それは、一番最初に出会った時の、凛とした彼女に戻っていた。
その後、若干のゴタゴタがあったが、親友の第一王女の根回しもあったのか、すぐに問題として取り上げる者はいなくなったみたいだ。
その後、暫く滞在してこの異世界でのお爺さん話を聞いたり、その後の現実世界での爺さんのことなどをお互い話してから、現実世界に戻った。
峠の駐車広場だった。
そうか、ストーカーに、追い落とされた手前のところまで、戻ったのか。
気が付くと、カーラジオから、ニュースが流れていた。
久しぶりに文明と出会った気がした。
ストーカーが逮捕された、と。
・・・県境の峠で車を追い落とした事件の続報です、と。
その後、目撃情報により、容疑者逮捕に至った。
容疑者はこの他に余罪があるらしく、今後の捜査に・・・。
と、言ったところで、ラジオを消し、朝日が登るのを横目でみながら、アクセルをふみこんだ。
現実世界に帰って来ても現実は続くわけで。
暫く連絡が取れなくて、二、三の小言を先輩から言われただけで早速に、今晩もヘルプがかかった。
今度は、社用のワゴン車が用意出来るとのことだった。
夜中運転をしながら、まあ、どうってことのない日々が続くんだろうな、と。
指定された店の、指定された時間で待っていた。
後部スライドドアが勢いよく開き、後部座席にドカドカ乗り込できた嬢が俺に話しかけてきた。
車、変えたの?
聞き覚えのある声。
ハッとして、ふりむくと、ニッコリと笑った王女と第一王女、第二王女がそこにいた。
なぜ、どうして、と、混乱していると。
勇気をださなきゃダメって言ったのは貴方でしょ。
王女。
それにおじいさまのお約束、まだ果たせていませんよ。
第一王女。
お姉様の想い人ってどんな人か気になって付いてきちゃいました。
第二王女。
あー。
俺。
そう言いながら次のセリフを考えてると。
この世界は貴方の世界とは理の外、これくらいは簡単。
そして、三人声を揃えて。
貴方の部屋での飲み直さない?
彼女達は、悪戯っぽく微笑んだ。
フッと笑いが込み上げてきた。
あーいいねえ、強いよ俺は。
そう言って、俺はアクセルを踏み込んだ。
その頃、異世界、王女達のいた世界の片隅で。
何!あの、伝説の白い車の持ち主の孫がこの世界に舞い戻って来ただと。
玉座に座っていたそれは、報告を聞いて玉座のひじ掛けを握りつぶした。
いえ、孫そのものは、彼の世界に帰って御座います。
然れども、王女三人は伝説の車の孫に会うため共に、彼の世界に行った様子。
側にいた家臣であろう、異形の者は情報を付け加え上申した。
玉座のそれは、
我がおばあ様を裏切り、そして蔑ろにした恨み、わらわがおばあ様に代わり晴らしてくれるわ!覚えておれ!
羽衣を翻し、怒りに目を紅く染め、立ち上がり四方につんざき、響くほど叫んだ。
禍々しい甲冑を身に纏い、しかしその間から覗く、白い透き通った艶かしい姿態は、コントラストに映えていた。 【第一部 了】(続く)
ここまでお付き合い下さり、誠にありがとうございました。いかがでしたでしょうか。
本来なら、冒頭のキャバ嬢も一緒に連れて行く設定でした、あと、おじいさんの冒険譚、おじいさんと王女と第一王女のおばあさんとのエピソード、最後のシーンに出てきた甲冑、現実世界に帰ってからのエピソードなど、すこしエッチな描写も設定はあったのですが、とんでもなく長くなりそうだったので、今回はパイロット版としてお楽しみいただければと、思っております。
いずれにいたしましてもここまでお付き合い下さり、心より感謝申し上げます。




