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「ナンナイッチャ」

私はまだ、夢の中にいるようだった。

焚き火の光がぼやけて見える。

体が熱く、喉が焼けるように渇いていた。


(うう……彼らは、何をしている……?)


視線を動かすと、古代人たちが鍋を囲んでいた。

焚き火の炎に照らされた三人。


一人は丸い体つきで、太い腕をしている。

もう一人は背が高く、肩に獣の毛皮をかけていた。

そして中央にいる少女――あの仮面の娘。


丸い男が低い声で何かを言う。

「コイバカナノ、ツボジャナカカ?」

長身の男がうなずき、笑った。

「サスガ、カミサンジャナ」


(……言葉が……少しだけ、分かる?)


鍋の中では何かが煮立っていた。

少女は腰の袋から丸薬を取り出し、カラカラと鍋に落とす。


ぶくぶくと泡立ち、強い香りが広がる。

それを土器の器に移した長身の男が少女に渡した。


「サア、デキタゾ」


少女は静かにうなずくと、私の体を起こした。

支えている腕の力は意外に優しい。


「ノメバイ」


唇に土器の器が押し当てられた。

苦い匂い。

私は思わず顔をしかめた。


「う……」


「ミナノメ!」


少女の声が鋭く響く。

「ノコスナ!」


逃げ場のない強さ。

飲み込んだ瞬間、舌が痺れた。


「ゲホッ、ゲホッ!」


喉の奥に熱が走る。

意識が遠のき、視界が白く染まった。


少女は微笑んで言った。


「ナンナイッチャ」


(……笑ってる?)


そのまま私は倒れ、闇に沈んだ。



どれくらい時間が経ったのだろう。

目を開けると、焚き火のそばで少女が指示を出していた。


「ノコッタトバ、ヌッテヤレ」


丸い男が鍋に残った黒いどろどろをナイフでこそぎ取る。

それを私の腕の傷口に塗りつけた。

強烈な匂いと痛み。


長身の男は布を持ち出し、丁寧に巻いていく。


ユキヒコが少し離れたところで見つめていた。

不安と、興味の混ざった眼差し。


(彼らは……私を助けているのか?)



その後、古代人たちは一晩中、私の看病を続けてくれた。

私は何度も目を覚ましては、何か苦いものを飲まされ、

また眠りに落ちた。


熱の中で、声が遠く響く。


「クスリバ、ヨーケ、キイチョルンヨ」


(薬……効く? あの娘の声だ……)



朝。

陽の光が差し込む。


私はまた眠っていた。

その傍らで、ユキヒコと少女が並んでいた。


ユキヒコが言った。

「また寝ちゃった」


少女が微笑む。

「ヨーケ、キイチョルンヨ」


二人の間に、少し沈黙が流れた。


「……ぼ、僕の名前はユキヒコ」


少女は首をかしげる。


「お父さんはタカシ」


「……」


「君の名は?」


少女が目を見開く。

長身の男と丸い男が顔を見合わせた。


「ワノナ?」


ユキヒコは頷いた。

「そうだよ! 僕の名前はユキヒコ。お父さんがタカシ」


男たちは笑って繰り返した。

「ユキヒコ、タカシ!」


そして丸い男が嬉しそうに叫んだ。

「カミサンガ、ナバ、モラシタッ!」


少女は少し考えてから、彼らに短く指示を出した。

「ナラバ、ワラモ、ナバ、アカソカイ」


朝日が森を照らす。

少女は振り返り、まっすぐユキヒコを見た。


「ワノナハ、カヤッタイ」


「……カヤ?」


「カヤヒメト、ヨビナッセ」


少女は少し照れくさそうに笑った。

ユキヒコの胸が熱くなる。


「カヤ姫……」


言葉が自然に口をついて出た。


少女――カヤ姫はうっすらと頷いた。


丸い男が名乗る。

「ワノナハ、マグリジャ」


長身の男も胸を張る。

「ワシハ、ドグリッタイ!」


「ドグリ……マグリ……!」


ユキヒコは笑った。

「……カヤ姫」


カヤが小さく頷く。


その瞬間、火の粉が空へ舞い上がった。



――私が意識を失っている間、

ユキヒコは古代人たちと交流を深めていた。


思えばこの出会いこそが、

私とユキヒコの運命を分ける最初の分岐点だったのかもしれない。


カヤ姫は12歳です。

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