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「これから――邪馬台国との戦が始まる」
朝靄が山を包み、世界がまだ眠っている。
一筋の矢が白兎を射抜いた。
弓を引く少年の名は――ユキヒコ。
彼の胸には、割れたストラップが揺れていた。
それだけが、彼が“現代の子”であった証。
彼が見下ろす高千穂の空は、果てしなく青い。
(お父さん……覚えてますか? あの日見た、この空を)
スマホを握る。画面には父タカシと母アカリの笑顔。
だが電池残量は∞――。
あの光を境に、彼らは時を越えたのだ。
森を抜け、男が現れる。
鹿の毛皮をまとい、槍を手にした狩人――アシカビ。
「ユキヒコ、兎が獲れたか!」
二人は笑い合い、焚き火を囲む。
だがその夜、山の向こうに無数の松明が灯った。
風が鳴り、地が揺れる。
仮面の兵たちが列をなし、埴輪の顔が闇に浮かぶ。
「これから――邪馬台国との戦が始まる」
アシカビの声に、ユキヒコは弓を握りしめた。
そして、倭の地に新たな夜明けが訪れる――




