【短編怪談】心理テスト
────では、始めましょうか。
私はアキヅキユウコ。よろしくね。
今から、いくつか質問をしていくから、思った通りに答えてほしい。
そんなに緊張しないで大丈夫だよ。
ちょっとした心理テストみたいなものだから。ゆっくりでいいからね。
まず、──あなたのお名前を教えてもらえる?
そう、ケンジくんね。
今、歳はいくつかな?
うん、ありがとう。慌てなくて大丈夫だからね。
ケンジくんは、お友達とよくどんな遊びをするの?
うんうん。そうなんだ。あたしも好きだよ、その遊び。今度一緒にやろうか。
…かなり疲れているみたいだけど、最近ちゃんとご飯は食べてる?
…そう。じゃあ睡眠は?ちゃんと摂れてる?
あら、だめよ、夜はしっかり眠らないと。
慣れない場所だと、よく眠れないのかしらね。
一番最近見た夢って何か、覚えてる?
…夜中に水辺を歩いている夢、か。
…やっぱり、あんまり良い状態じゃないみたいね。
ちょっと休憩する?大丈夫?
…分かった。じゃあ、次の質問をするね。
ケンジくんにとって、“家族”って、どういう意味があると思う?
…ちょっと難しかったかな。ごめんね。
少しずつ、難しいことも聞いていくよ。がんばってね。
もし、過去のことをひとつだけ無かったことにできるなら、どれを選ぶ?
わからない?何でもいいんだよ。…思いつかない?
ケンジくんが今までで一番叱られたのは、どんな時だろう?
小学生のとき?友達のことをぶったとき?
ほんとにそうなのかな?
じゃあ、一番“許されないことをした”と思った瞬間は、いつ?
思い出せない?よーく思い出してみて。
…そう。
逆に、誰かに恨まれているかもしれない、って考えたことはある?
…わからないか。そうだよね。
わからないよね。“わかりません”って答えるのは楽だもんね。
────あの日の空の色を覚えてる?
あの日よ、あの日。
ケンジくんが、一番“許されないことをした”日。
4月の、桜が少しずつ散り始めていた頃だったかな。
あの日はずっと続いていた雨がやっと止んで、久々にすっごくよく晴れてたの。
よく覚えてる。ケンジくんも覚えてるよね。
あの日、ココネちゃんがどんな服を着ていたか、言える?
あの日、ケンジくんが会った女の子。ココネって名前なの。知ってた?
あの日、あの子は6歳だったわ。もう少しで7歳の誕生日だったの。
ほんとにおてんば娘でね。男の子にも負けないくらい、元気だった。
あの日はね。薄紫色の、ジャンスカ?っていうのかしら、
ベストとスカートが一緒になった、お気に入りの服を着ていたわ。
あの日の夕方、台所にカレーの匂いが残っていたの。
帰ってきたら一緒に食べるはずだったのに。
──ねぇ、ケンジくん。
テストで“わかりません”って答えたら、先生は丸をくれるのかな?
“覚えていません”って言えば、人を殺しても許されるのかな?
“責任能力がありません”って証言すれば、大事な家族を奪っても罰せられないのかな?
ねぇ、泣かないで。何で泣いているの?
泣かないで、答えてよ。
あの子は呼んでた?お母さんって。
お母さん、助けてって叫んでなかった?
あの子の手は冷たかった?温かった?
あの子は泣いてた?怖がってた?怒ってた?
あなたのことを掴む力は強かった?顔のどこに傷がついた?
最後まで生きる希望は捨ててなかった?
…さっきから、全然答えてくれないね。
……あなたはまだ、自分が“人を殺した”と認められないの?
これで、最後の質問。
────あなたは、生きる価値があると思う?
《注》上記は、指定入院医療機関にて入院中の触法精神障害者・川井健治氏(当時36歳)が日常的に繰り返していた発言(ほぼ独話に近い)を書き起こしたものである。
※ 内容は不明瞭なものも多く、推察により補っている箇所が多数
※ 身辺調査の結果、アキヅキユウコという人物は存在しないことが判明している