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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第三章 竜の名付け親

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第九十六話 獣人集落

 ダドリーについて歩き始めてから一時間も経たないうちに荒涼とした景色は終わり、平原の緑が青々と生い茂るどこか馴染みのある風景となった。セラたち生者はほっと一息つく。瘴気まじりの重苦しい空気から解放され、生き返ったような気持になった。


 そこからさらに一時間ほど歩くとダドリーたちの集落が見えてきた。


 集落には石や木で作られた家々が建ち、畑があり、家畜が辺りを歩いて草を食んでいる。焚火で何かを燃やしている者もあれば、狩りの獲物を解体している者もいる。こうしてみると人間の村と何も変わりがない。アンデッドと竜をのぞけばほとんどダンジョンの魔物しか見たことのないセラたちは、魔物が人間と同じような暮らしを営んでいることに驚いた。


「中でも獣人は人間とまったく同じような暮らしをしているからな。中央大陸の北の方に人間と共存している村もあったっけなぁ」


 興味深そうに眺めるセラたちにルドルフがうんちくを披露する。


 村人たちは、見ない顔が自分たちの村に入ってきたことを不思議そうに見ていた。が、よそ者に対する忌避はなく、なぜだかそこはかとない歓迎ムードがある。その視線の先にあるのはどうやらヌイの姿だ。


 一方でダークエルフのディアドロにはつれない視線を送っている。これはルドルフにとっては意外なことだった。エルフが人間たちから敬われているのと同じように、ダークエルフも魔物から一目置かれているのだろうと思っていたからだ。だがそれはどうも違うらしい。


 ちなみにルドルフはダドリーたちを助ける前から認識阻害の面をつけているので、彼らが怪しい骸骨を見た時にどういう反応をするかは未知数だ。


 一行はそのまままっすぐダドリーの家へと招かれた。


 ダドリーとは違ってほっそりとした奥さんと、ダドリーと奥さんの組み合わせをそのまま小さくしたような二人の子供が父の帰りを迎えた。見慣れぬ客たちの姿に家族は最初は不安そうな顔をしていたが、ディアドロに押し出されたヌイが挨拶すると、そのたどたどしい内容にもかかわらず、母と子供は嘘のように笑顔となった。


 ダドリーの家は家族四人で暮らしているとは思えないほどに大きい。この突然の来客にもまったく困らないほどの広さがあった。


 どうやら数年前に住み着いた新顔にもかかわらず、ダドリーはここの村長の地位を得ているようだった。力を持つ者がすべてを総取りする弱肉強食。それがどんな魔物に共通する価値観である。つまりダドリーはこの村における一番の強者なのだ。


 ダドリーの家族が親切にしてくれるせいで、ヌイもすっかり心を許している。同時にヌイと仲良くしているセラたちにも獣人の家族は親しく接してくれた。


「ヌイはここでずっと暮らしたいです。ここはまさに安住の地です!」


 夕食の時間に色々とごちそうが出されたのを見て、ヌイは有頂天になってそう言った。まだ小さな子供のくせに、安住の地なんて言葉よく知っているな、とルドルフは少しおかしくなった。


 和やかな夕食のあと、ダドリーは家族を居間から追い出し、客人たちの前で少し改まった態度になった。


「よければ昼間の話の続きを聞かせてくれないか」


 ダドリーがアクィラの方を見て言った。


「……かまわないぜ」


 アクィラは少しめんどくさそうにしながらも、死霊国の広がる仕組みについて話しはじめた。


 簡単にまとめて言えば、死霊国の瘴気に汚染されたその土地は、人間や魔物が死ねば死ぬほど拡大していく、という話をアクィラはした。瘴気は死体を自ずとアンデッドに変え、さまようアンデッドは瘴気の汚染を広げる。瘴気に汚染された土地はこれすなわちアンデッドの土地である。


「あのゾンビたちが自然に集まったものでないとは? ゾンビたちが集まる理由を知っているのか?」


「アンデッドどもを集める奴らと、そのアンデッドを連れて回って転々とする奴らがいるのさ。どっちも死霊国の親玉であるリッチキングの配下どもだが」


 ルドルフは死霊国に上陸した時アクィラに聞いた話を思い出した。ネクロマンサーが集め、集めたそれを誰かが運用するということか。


 死霊国の王であるリッチキングは自ら領土拡大を目論むことはしないが、一方で一度領地とした場所には強い執着を見せる。もし領内のアンデッドがたびたび排除されるようであれば、防衛措置としてある程度まとまった数のアンデッドを差し向ける。


 昼間見た滅びた集落は、これまでダドリーたちがたびたびアンデッドを狩ったことで、その防衛措置の対象となっていたのだ。今回またそれを打ち破ったことで、今度はさらに大きな戦力が派遣されるはず、というのがアクィラの見通しだった。


「と言ってもこっちから手を出さなければおそらく何もしてこない。が、次行ったら、あんたたぶん死ぬぜ」


 冷たい目で忠告するアクィラにダドリーは黙った。


「要するに死霊国の領域が広がらないようにするには、こっちから攻めなければいいってことだ。すでに取られた土地のことはあきらめな。どうせ瘴気に汚染されて誰も住めやしない」


「だがあの土地は私の故郷だ。何があっても取り返さないわけにはいかない」


 アクィラの言葉にダドリーは間髪入れずに答えた。これだけ話を聞いたあとでも諦める気はまったくなさそうである。


「へー。じゃ、死ねば? 馬鹿は死ななきゃ治らねぇってな」


 忠告を無視されたアクィラは興醒めして言った。ダドリーが話を聞かせてくれたことに感謝を述べてその夜はお開きとなった。

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