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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第三章 竜の名付け親

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第八十二話 聖都からの呼び出し

 今年の春のアンデッド掃討前の神殿詣でには聖都まで来い。


 新年早々、神殿から届いた一通の手紙はルドルフの気分を著しく害した。グラナフォートから聖都アーケイルまでは王都を経由して片道で三週間ほどはかかる。往復で一ヶ月半である。いや、冬だと雪の山脈を越えるのにもっとかかるか。いずれにしろ、そんな距離をよく手紙ひとつで気安く呼びつけるものだ。


「これはどうにかならんかったのか。まるで嫌がらせだ。セラの鍛錬にも差しさわりが出る」


「ならないわね」


 ルドルフが苦情を申し立てると、アリアナはため息で応じた。


「神殿はいったいどういうつもりで。冬の旅で大切な神子を行き倒れにさせようというわけではあるまいな」


 聖剣の神子は亡くなったとされているし、実はバルドのことはまだ伏せられているので、現在は神子といえばセラだけだ。アンデッドを従えていることでウケが悪いとしても、その大事な神子をもう少し丁重に扱ってもいいのではないだろうか。


「冬の旅でもあんたがついてたらそんなことにはならないって確信してるんじゃない? 実際はこれガーモントからの呼び出しだから。あんたのことバレたのよ」


 アリアナがあっさりと告げる。想像だにしなかった事実にルドルフは口をパカっと開けて黙った。


「ガーモント……大神官様?」


 そのやり取りを目の前で聞いていたセラが軽く驚く顔となった。世情に疎いさすがの彼女も神官の最高位、神殿のトップを長らく務める大神官の名前くらいは知っていた。そしてそれがかつて殲滅の神子の従士を務めた、ルドルフとアリアナの従士仲間であることも。


 ルドルフはアリアナに責めるような視線を送った。ガーモントには絶対に言うなと言っておいたのに。何か企んでいるのか?


「私じゃないわよ。デ……」


 その視線を受け、反射的に心外の意を示そうとしたアリアナがそこで言葉を止める。


「?」


 言い澱むアリアナにセラが不思議な顔を向けた。


「別の共通の知り合いよ」


 アリアナはなんとか故人のはずの男の名を出すのを抑えることに成功した。言いかけた頭文字で真犯人が誰か、ルドルフには十分に伝わっている。


 デダルスか。


 あいつは何を考えているのか。そもそもアリアナに俺のことを教えた件といい、実は俺を滅ぼしたいのだろうか。


 ともあれ、ガーモントと聞くと神殿のこの無茶振りもうなずけた。あいつは少々常識が壊れているのだ。


 しかも大神官ガーモントは筋金入りのアンデッド嫌いである。だからおそらくはリッチを従えると言う不死の神子のことも、苦い顔で見ているに違いない。


 その下僕のリッチが実はかつての戦友であったと知ったとすれば、果たしてどんな気持ちとなっているであろうか。かつての仲間に自ら引導を渡してやろうと考えている説も濃厚である。


「……罠……か?」


「なんでよ。さすがに聖都にアンデッドは入れないし、呼び出されたのはセラちゃんだけよ」


 のっぴきならない危機に瀕したような、深刻な雰囲気を醸し出すルドルフにアリアナが吹き出した。


 ちなみに殲滅の神子の従士は半数以上がそれぞれ栄達していて、大神官、魔術師ギルド総会長、剣聖、東部戦線副司令といったお歴々となっていた。今も存命でその地位にあるのは大神官だけであるが。


「ぬう。行くしかないのか」


「行くしかないのよ。まあ、セラちゃんの見聞を広めるついでだと思って行きましょ。あなたは聖都の外まででいいから」


 そういうわけで一月上旬の寒空の下、ルドルフとセラ、それにベルタ、シャーロット、メアは旅支度を整えて馬車でグラナフォートを出発した。アリアナも同行する。アンデッド掃討が始まる前に戻るための慌ただしい出発だ。


 なおバルドはマルクとやることがあるため留守番。アクィラはアンデッドが聖都に入れるわけもないし行く用もないので同じく留守番。ラエルは気乗りしないからということで留守番となった。


 この地域は街道の伸びる平地なら雪が積もることは少ない。寒いことを除けば馬車の旅は順調に進んだ。


 そして外の厳しい寒さにもかかわらず、馬車の幌の中は暖かく保たれ快適である。ルドルフが設置した小型の魔道具の炉が、一同の過ごす荷台の中を暖め続けている。その三つの足の付いた金属製の小さな壺の中では、火の代わりに魔石の魔力が燃えて熱を発していた。


「冬だってのにこんなに楽な旅は初めてだ」


「そうなんですか?」


 ベルタが笑って言うと、セラが不思議そうな顔をした。


「普通は冬の旅なんてよほどの事情がなければ避けるもんさ。寒さで弱っちまうからね。でもこれなら全然平気だ」


 それでも吹きっさらしになる御者台だけは凍てつく寒さだが、そこは寒さをものともしないルドルフが座るのだから問題はない。


 にわかに決まって始まった旅だが、道中、セラが毎日みなと楽しそうにしているのを見ると、ルドルフもさほど悪くはなかった気がしてくる。


 十日目、ちょうど中間地点の王都で一泊し、そこから聖都へは東の山脈を抜けることになる。さすがにこの山中は深い雪である。ルドルフもここばかりはかなりの時間がかかると覚悟をしていたが、しかしシャーロットが意外な仕事をしてくれた。小さな雪玉のような精霊を転がして雪を除けてくれたおかげで、馬車は平地とほとんど変わらない速度で進んだ。


 聖都の美しい城壁が見えて来たのは当初の予定よりもずっと早く、旅に出てから二十日目のことだった。


「では、俺は寺院に戻っている。明後日の朝、この場所でまた会おう」


「了解。あとは私に任せておいて」


 その聖都の西門をはるかに見やる丘の上で、ルドルフは一同にいったん別れを告げた。聖都にはルドルフは入らない。いや、入れない。さすがに聖都の法術結界がアンデッドの侵入を許すことはないからだ。


「ついでにガーモントに言っておけ。水清ければ魚棲まず、もけっこうだが、もう少し組織の手綱を締めろとな」


「聞く耳持たずよ」


 ルドルフの忠告か文句かわからぬひと言にアリアナは苦笑で答えた。


 骸骨の魔術師は一行に見送られる中、転移魔術で姿を消した。

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