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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第二章 聖剣の神子

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第四十五話 エルフとリッチの会合

 季節はすでに冬である。高山に位置する寺院の外は激しい吹雪に閉ざされていた。白一色の世界。そこはすでに人の生きられる環境ではない。しかしそんな吹雪の中にたたずむ寺院の中は嘘のような暖かさに包まれている。


 その寺院の奥まった一室でルドルフとアリアナがテーブル越しに向かい合っていた。部屋の扉を固く閉ざした上でエアロベールの魔術がかけてあり、ここでの会話の内容はほかの誰にも伝わらない。


 暦はもうすぐ新しい年を迎える。節目を前にして現状と今後の確認をするための会合であった。


「セラちゃんはどう? 順調?」


「順調もなにもあったもんじゃないな。よくわからん成長速度だ。半年の間に並の魔術師なら五年はかかることをやってのけている。正直化け物を育てている気分だよ」


 セラは相変わらず熱心に毎日の魔術の鍛錬をしていて、半年前に目標にしていた中級のエナジーショットを半分の詠唱時間で発動させるという課題をついこの間クリアしていた。一瞬で魔術を覚えてしまう能力に比べると大人しく見えるものの、この上達速度も驚異的といっていい。そしてそのひたむきさはある意味派手な才能よりも得難いものである。


 覚えている魔術が十分に使いこなせるようになるまで、新しい魔術の習得は控える方針でやってきているが、ルドルフは最近またいくつかの新しい魔術をセラに教えていた。


「私の引きの強さ! 冴えすぎてて怖いわ」


 報告を聞いてオーバーな身振りで天を仰ぐアリアナにルドルフはずっと気になっていることを聞く。


「ところでセラはいつ本当に神子になるんだ?」


 セラは世間的には神子とされているが、実際はまだ神子にはなっていない。これから神子の試練という儀式を経て神子になり、異能と呼ばれる力を授かることになっている。その力は神託で課された『神の使命』と呼ばれるミッションを果たすためのものだ。


「そうねぇ……いつでもかまわないんだけど、だったら逆にもう少し精神的に大人になってからがいいかなって。一応神子になる目安は成人以上とされているけど……」


 たしかにセラの言動は実年齢よりやや幼く見える。すでに十五歳と成人の年齢に達しているのだが、初めて会った頃は小さな背丈も相まって少し大人びた十歳と思ったほどだ。実際はちょっと子供っぽい十五歳だった。その頃に比べると背丈も精神もいくらか成長は見られるが、それにしてもまだ幼いことは否めない。


「バルドはどうしてあの年で神子に?」


 成人が目安なら六歳で神子になったバルドはどうなのだろう、とルドルフはふとわいた疑問を口にする。


「彼の場合はもともと体が弱くて成人するまで生きられるかどうかわからない状況だったの。なので例外的に早く神子にしたといったところね」


 今や健康優良児の見本のようなバルドにそんな過去があったとは意外であった。


 バルドといえばあれからめっきり精神も安定し、物を壊したり人に怪我をさせたりする心配はまったくなくなっている。セラやラエルともうまく馴染んで、すでに距離感もかなり近い。


 剣の鍛錬にひたむきに力を入れていて、剣聖ジルベルトが週に二度稽古をつけにきてくれるほか、それ以外の時間は教えてもらった型の練習や、ルドルフやベルタを相手にした組手などをして過ごしていた。


 その剣術への熱量は魔術に取り組むセラを彷彿とさせる。格別に突出した剣才を持つという風ではない。しかし神子として得た無尽蔵の体力ゆえに、時間さえあれば本当にずっと修練に取り組んでいる。勢い、練習量に比例して順調な上達を見せていた。


 ただしアリアナからこれも教えてほしいと頼まれていた魔術に関しては、初歩中の初歩であるセンスマジックの呪文すら覚えられる気配がない。座学で教えることは割とすぐに理解するのだが、自分の魔力を使う感覚がどうにもつかめず苦戦しているようであった。


「魔力もそこそこ大きいから魔剣士にしたらさらに跳ねるかと思ったけど……肝心の剣のほうがおろそかになったら本末転倒だし、ひとまず魔術の方はストップしましょうか。そこは補助系の魔術でサポートしてくれる従士を見つけた方がいいかもしれない」


 そのアリアナの判断にルドルフも異存はない。そも魔剣士の使う自己強化の魔術は一般の魔術師の使うエンチャント系の魔術ともちょっと違っているので、ルドルフにもうまく教えられるか自信がなかった。


 それからルドルフは話ついでにラエルのことをどう考えているのか尋ねた。あのやんちゃ坊主がどういう位置づけでここにいるのか、正直少し測りかねている。


「あの力は頼もしいけど、どうなのかしらね」


 刹那の色彩にセラの従士になることを打診したのはアリアナだが、そのアリアナにとってもラエルが付いてきたことはイレギュラーだった。火や水などを操る様を見せてもらって、シャーロットよりはるかに大きな力を出せることはわかっている。が、せっかくのその力を活かす機転や判断力に欠けている、というのが彼女のラエル評である。


 今のところは積極的に何をさせようとは考えておらず、さりとて追い出す理由もないので置いているといったところだ。本人はセラの従士になると言っているが、本気かどうかはわからないし、もちろん不適格とみなせば拒否することもできる。


「まあ五年あるから、その間の精神的成長に期待ね」


「五年?」


 ルドルフは思わず疑問形で応じたが、その五年が何なのかはすぐに直感した。


「リッチキング討伐は五年後になるということか」


 アリアナはニヤリと笑った。


「そう、五年。確定ではないけれど、リッチキングの討伐は五年後を予定しているわ。聖剣の神子サイラスを主軸に据えて、剛力の神子バルド、不死の神子セラ、それとあと一人の神子を加えた四人の神子を投入する予定よ」


 リッチキングのもとにはかつてその討伐に失敗した三人の神子が強力なアンデッドと化して配下についている。それに対抗するため、こちらも相応の数をそろえるというわけだった。


「バルドについては一応まだ内々の話だから、くれぐれもよそには漏らさないでね」


 真剣な話はそこで終わり、あとはとりとめのない雑談タイムとなった。


「それにしてもセラは不死の神子と呼ばれているのか。初めて聞いたぞ」


「世間的にはアンデッドを従える異能と思われているから。なかなかカッコイイ二つ名よね」


 先ほどまでの真剣な顔はどこへやら、軽く和やかな空気が流れる。


 その中でルドルフが思いつくままに聞いた。


「もう一人の神子って言うのはもしかしてラエルがなる可能性はあるのか?」


「いいえ、候補はほかに何人かいるわ。何度も言うけど彼は今のところ盤面の外だから。それにあんまりいい異能を得られそうにない。面白い人材だけど神子としてはないわね」


 アリアナはまた少し真面目な顔になった。


 神子となった時に授かる異能は人によって生まれた時から決まっているらしい。エルフの中でも幾人かは人間が秘める異能を見抜く目を持っているのだとか。神子にすることで幼いバルドの命を助けたのも、なるほど、バルドが強力な異能を持っているとわかっていたためだということだろう。あの怪力と鉄の肉体はシンプルだが大したものだ。


「セラの異能もあらかじめわかっているのか?」


「もちろん。秘匿事項なので教えられないけど。まあ優れた魔術師と非常に相性のいい異能とだけ言っておきましょうか」


 アリアナはそう言って軽くウィンクした。

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