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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第三章 竜の名付け親

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第百話 銀壁の神子

 リッチキングの討手がやってきたというのにルドルフたちは落ち着いていた。実はその討手こそが、ここに来た本命の目的だったからだ。


「ん? あれは……よし、当たりだ」


 先頭に立つ人影を確認したアクィラは満足げににまっと笑った。そしてルドルフを近くに招き、セラたちほかの三人に対して少し離れたところで固まって身構えるようにと指示した。


「手筈通りにな」


 不敵な笑みを浮かべたアクィラが言った。


「あれっ? そこにいるのって、もしかしてアクィラちゃんじゃない?」


「よお、奇遇だな。イーリスも王様野郎の指示でここまで来たのか?」


 そこにしばらくしてやってきたのはアンデッドとなった神子の一人、イーリスである。額に輝くサークレットとたっぷりとした黒髪が印象的だ。アクィラはそのイーリスと気軽に声を掛け合った。


「やだ! ここしばらくどこ行ってたの? まったく顔を見なくて心配してたんだから」


 背後に仰々しいオークゾンビの一軍を従えながらも、イーリスは緊張感のない笑顔で再会の喜びをかみしめる。


「まあその話はあとでいいだろう。それよりもあいつらだ」


 アクィラは槍でセラたちを指し示す。バルドを前衛にセラ、ラエルは後ろに控え、それぞれに身構えてアクィラたちと対峙する姿勢を取っていた。


「それよりもなにその服。どうしたの。どこで手に入れたの」


 イーリスはそのアクィラの言葉を無視して、アクィラの来ている服に食いついてきた。何の変哲もない旅装だが、なにしろきちんと服の形を保っている服である。対するイーリスの服装はといえば、ボロボロの革鎧にぼろ布を巻いて補強したものだ。それはなんとか胴を覆っているが、手足は剥き出しで裸足と言うみすぼらしい姿だった。二百五十年という歳月の重みである。


「おい、仕事しろ」


「ごめんごめん、久しぶりだったからつい。でもいいな~」


「まずは仕事しろ。あとでいくらでも教えてやる」


 それでようやくイーリスはセラたちの方へ向き直った。


「あれね。侵入者って言うのは。まだだいぶ若い冒険者のように見えるけど……アクィラちゃんが瞬殺できないってことは、それなりの強敵みたいね」


 イーリスがアクィラの横に並んで真剣な顔をする。その背後にはルドルフと多数のオークゾンビが控えている。


「ああ、あれで大したもんなんだ。お前が来てくれて助かったぜ。油断しないでくれ。決して目を放すんじゃねえぞ」


「守りなら任せてよ。あ、オークたちを使う必要があったら言ってね。まあアクィラちゃんならいらないと思うけど」


 イーリスはそう言うとセラたちに意識を集中した。それを見て一歩下がったアクィラは再び悪そうな笑顔を浮かべる。


「よし、やってくれ」


 アクィラのその言葉とともに、ルドルフは長い腕でイーリスの背後から強く抱きすくめると、思い切り締め付けて動きを封じた。そしてそのまま骨の右手をその首にかける。


「きゃっ、なにアクィラちゃん? この骸骨はなに?」


 自分を拘束したまま耳元で呪文を唱え始めたルドルフに、イーリスは何事かと慌てた声を上げた。アクィラの従えるアンデッドと考えていたものが思いもよらぬ動きをしたことにうろたえている。


「なあに、悪いことはねえ。つまりこういうことだからな」


 アクィラは背筋を伸ばしてそう言うや否や、オークゾンビの群れが指示待ちで虚ろに棒立ちしている方向に右手を突き出して構えた。手の指を曲げて竜の牙に見立てる。白熱する炎のエネルギーがその手の中にわだかまり、数瞬ののち、赤竜のブレスと同じ炎が二百体近いオークゾンビたちをまとめて薙ぎ払っていた。


「ふん、いいね。やっぱ溜めが要るのが少し気になるが、そんでもこの威力なら悪くねえ」


 手に入れて初めて実戦で放った赤竜の炎の感想を満足そうに述べるアクィラ。彼女は日に三回、普通の炎とは比べ物にならない威力のこの炎を放てる。


「えっ……これは、どういうこと……?」


 続いてルドルフが腕を放すと、イーリスは腰砕けになってその場に力なくへたりこんだ。長い間自分を縛っていた枷が外れたのを感じ、かえって戸惑っている。たった今、ルドルフの死霊魔術がリッチキングの支配を解いたのだ。


「結局、リッチキングはアタシらみたいな外様のことなんか、なんとも思ってないのさ」


 首尾よくイーリスを罠にはめたアクィラは、解説を求められるとつまらなそうにそう言った。


 アクィラがルドルフによって人間の側に取り戻されたのはもう半年以上前のことだ。しかしイーリスはまだそのことを知らなかった。ただアクィラの姿を最近見ないなと思っていただけだ。


 つまるところ情報すらろくに共有されていない。アクィラはおそらくそうだろうなとヤマを張って一芝居打ったのである。


 もし思惑が外れていてもイーリスに人の裏をかいて嵌め返すなんて器用なことはできないので、悪くてただ普通に戦う羽目になっただけだ。戦っても守りに特化したイーリスは何ら脅威でないが、その場合、逃がさないようするには少し気を遣う必要があっただろう。全力で逃げに回られると捕まえるのは少し苦労したはずだ。


 ともあれ、このアクィラの計画こそが渋るアリアナの首を縦に振らせた計画だった。題して鉄壁の神子奪還作戦である。


 思惑通りにイーリスが来るかどうかはいくらか賭けであったが、アクィラの見立てでは、特に分の悪い賭けではなかった。彼女らはともに長く西寄りのこの場所近くに配置されていたからだ。案の定、ルドルフたちはその賭けに勝ち、計画は鮮やかに成就した。


「こんなにあっさり自由になれちゃうんだ」


 二百五十年という長きにわたる支配から解放されたイーリスはまだ呆然としている。


「なんか探し物しに来て、いらねえもん拾っちまったな」


「いらないもんって……ひどい!」


 アクィラがにやにやしながら軽口を叩いて絡むと、イーリスはようやく放心状態から回復した。


「ところで探し物って何を探しに来てたの?」


「待ちついでにトールたちの遺品を探してたのさ。まあさすがに見つからなかったがな」


 アクィラがさばさばと言う。


「トールさんたちがいなくなったのはここじゃないよ?」


「は?」


 しかしイーリスの思わぬ言葉にアクィラは間抜けな声を漏らしてしまった。


「いや、お前、祠のある場所って言ってただろう?」


 アクィラの従士の最期を見届けた誰かとは、ほかならぬイーリスである。


「薬の賢者様の祠のある場所って言ったでしょ。ここは闘神様の祠じゃないの」


 薬の賢者も闘神と同じような伝説上の偉人である。


 アクィラはこの辺りで祠といったらここしかないと思っていたのだが、実は別の祠が近くにあったのだ。要するに場所をまったく勘違いしていた。


 そのやりとりを聞いたセラはアクィラに心配そうなまなざしを送った。本命は鉄壁の神子の奪還であったが、遺品探しの方もアクィラは適当にやっていたわけではない。真剣に取り組んでいることが、見ていれば痛いほどにわかったからだ。


 イーリスの言葉を聞いたアクィラは、わずかの間放心していたが、やがてぷっと噴き出すと腹を抱えて大笑いを始めた。地面に転がってひっくり返るほどに笑っている。あまりに長いこと笑っているので、ショックで気が変になってしまったのかと不安になるほどだった。が、しばらくするとなんとか立ち上がり、まだ懸命に笑いを落ち着かせようとしながら言った。


「悪い悪い、でも本当におかしくなっちまって……でも、そんなことって、あるか?」


 油断するとまたツボにはまりそうになるのを、アクィラはなんとかこらえた。アンデッドには普段必要ないはずの呼吸を深く繰り返して、己のうちの笑いの波を懸命に受け流している。


「ハァー、こんなに笑ったのは本当に久しぶりだ」


 すっかり落ち着いたアクィラが周りを見ると、みな心配そうに自分のことを見ている。


「アクィラさん、大丈夫ですか?」


 セラが気遣うように言った。


「無駄骨どころじゃねえな。本当にすまなかった。まあ今日は早く休もうぜ。明日は予定通りにここを離れよう。アタシたちは平気だが、夜きちんと休まないとセラやラエルにはきついだろう」


 アクィラは自分の間抜けな勘違いについてみなに謝罪した。その吹っ切れた顔はイーリスの話を聞く前と変わらない。場所を間違ったのも何かの巡り合わせだと言って、あとはいつも通りに振舞った。

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