表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

塔の下で、俺。

 廃墟の街並み、その中をひたすらに走る。

 石畳を蹴りながら、塔目指して先へ先へと進んだ。


「待ってよ……待ってってば!」


 目の前で上がる火柱。

 リュゼが放ったそれは、俺の進路を塞いだ。


「もういいわ、仲間にはなってあげる。でも、あなたの目的を教えてくれないと、私が何をすればいいのか分からないじゃない」

「確かにそうだ、申し訳ない」


 俺は頭を下げ、素直に謝罪した。

 塔の魅力に、体が勝手に動いていたのだ。

 先走った行動は、パーティの崩壊を招く。

 リュゼという大切な仲間を失いたくはない。


「う……やっぱり見た目だけは凛々しいわね……」


 リュゼが引き気味で俺を見てきた。


「俺はあの塔から、トリックショット……と言っても分からないか。つまりだな、カッコよく試練を攻略したいんだ。第二段階の試練、その相手は”魚”。奴は魔力に食いつく。つまり、リュゼが何かしらの魔法をこれの先につけて……」


 俺はアイテムポーチから取り出した長い糸を見せる。

 とても細い糸だが、立派な魔導具だ。


「えーっと、まさかだけど、門の中で釣りをしようって言うの?」

「そうなるな」


 俺は頷く。

 第二段階の試練は、ボスの真上に落ち、始まる。

 それに例外はない。

 そもそも、着地に失敗したら死ぬというクソゲーだ。


「はあ……私も諦めるしかなわね。きっといつか、王子様に戻ってくれるはずよ……」

「いや待て、俺は女だ」

「こっちの話よ、こっちの話」


 リュゼはやれやれといった様子で、首を振った。


「だけど、あなたほどの実力者なら自分でやったらいいじゃない」


 もっともなことを言われてしまった。

 俺は少し考える。


「どうしたの? 真剣な顔は私としても嬉しいのだけど……」

「リュゼ、俺はな……」


 打ち明けるしかない。

 これでダメだったら、また振り出しに戻るだけだ。


「魔法が使えなんだ」


 俺は彼女の目をしっかり見て、包み隠さず打ち明けた。


「そういうことなのね……はは、分かっちゃったわ。あなた、勉強苦手でしょ」


 リュゼはなぜか楽しそうに、俺に対して笑う。


「そうだ」

「……」


 俺はじとーっとした目を向けられた。


「はあ……自信満々に言うことじゃないわよ、普通」

「で、どうなんだ。幻滅したか?」


 少し緊張する。

 六回目にならなければいいが……


「魔法なんてただの手段よ、どうでもいいわ。むしろあなたの弱みが分かって、少し嬉しいかも」


 リュゼは俺の肩を叩き、塔へ向かって歩き出す。


「リュゼ……本当に成長したな……」


 俺はそんな彼女の背中に、優しく語り掛けた。

 ちなみに他意はない。

 この流れで、このセリフはしっくりくると思っただけだ。


 俺はこの”しっくり”というのを大切に生きている。

 それは自己満足の言い換えだと言ってもいい。


「はあ……もう、はあ……完璧なのは見た目だけね……」


 リュゼは大きな溜め息の後、小さく呟き、肩を落とした。




 それから俺は、リュゼと話しながら街の中央に立つ塔を目指した。

 塔の近くに試練へと続く穴があるはずだ。


「ラスって、元騎士だったの!?」


 話の流れで、俺は自分の出自を明かした。

 彼女は信用に値すると思ったからだ。


「そうだ。意外だったか?」

「いや、なんというか……見た目だけなら凛々しい騎士様って感じだから……納得するしかないわね」


 なんとも腑に落ちないといった様子だが、リュゼは受け入れてくれた。

 もちろん、真実を全て話したわけではない。

 ところどころぼかしながら、必要な説明だけをした。

 実際、俺はまだ騎士で、今はただ休暇中の身分だ。

 とっくに除名されているかもしれないが……


「聞かないのか?」


 俺の年齢で”元”騎士など、訳あり以外の何ものでもない。


「別にラスはラスだし。そもそも、私は身分とか、どうでもいいの……」


 少しだけ遠い目をしたリュゼ。


「ありがとな」


 そんな彼女の頭を、俺は撫でてあげるのだった。




 そんなこんなで塔の下まで辿り着いた俺たちだったが、そこで一つの問題が発生する。

 塔の入口周り、建物がなく広場となっている場所。


「道を開けてはくれないかしら?」


 リュゼが発した呆れ気味の声の先には、挑戦者狩りの集団がいた。


「アイテムポーチを置いていけ。殺して奪ってもいいんだぜ」


 一番偉いであろう男が、ニヤリと笑いながら俺たちに言った。


 根絶させたと思っていた第二段階の挑戦者狩り。

 見慣れない奴ばかりだということを考えると……


「知らないようだな」


 俺はアイテムポーチから、一本の棒を取り出す。

 落ちている木の枝のような、心もとない見た目だ。


「ラス、それ……」


 この場で気づいたのは、リュゼだけのようだ。

 それもそうだろう。

 なにせ、この”魔導具”は特別なのだ。


「なんだ? 挑戦者ごっこか? そんなおもちゃで俺たちを相手にしようなど、笑えるぜ」


 挑戦者の集団が、こぞって笑い出す。

 見たところ、第三段階の装備で身を固めたそこそこやり手の者たちだ。

 ただ、彼らはその先を知らない。

 だからこの棒が、ただの木の枝に見えるのだ。


「どいてはくれないんだな? 一応だが、殺意を確認しておく」


 俺は木の棒を突き出し、確認する。

 殺意を感じるには感じるのだが、とても薄い。

 彼らは、自分たちが優位にあると思い込んでいる。

 遊びでやっているような、そんな感覚なのだろう。


「二人とも上玉だな。お前たち、間違っても殺すなよ!」


 男が声を張り上げる。

 挑戦者狩りたちは、ニヤニヤと下卑た視線を俺たちに向けてきた。


「殺意、ないのか……」


 俺は落ち込んだ声を漏らしてしまった。


「なによ。ラスにとってのそれって、そんなに重要なの? サクッとやっちゃいましょうよ」


 リュゼが不思議そうに、俺の顔を覗き込んできた。


「俺はな、正直殺し合いの世界なんて、野蛮だと思ってるんだ……」


 前世では、平和な世界、平和な国でのほほんと生きていた俺だ。

 転生先のここは、そんな俺にとっては世紀末も同じ、無法地帯だ。


 しかし、仕事をしなければ食っていけない。

 だから俺は、一つのルールを自分に設けた。


 目には目を、歯には歯を、死には死を、だ。


 殺そうとしてくる存在には、殺しをもってお返しする。

 そう自分を洗脳することで、今まで生きてきた。


「意外ね。ラスって、もっと容赦のない人だと思っていたわ」

「そうか? 俺の行動原理は単純だぞ」


 リュゼはいったい俺に対してどんなイメージを持っているのか。

 俺は別に、殺しに飢えてるとかではないのだが……


「おい、なにいちゃついているんだ」


 挑戦者狩りの男が苛立ったように声を荒げた。


「待ってくれとは言ってない」


 会話の間、律儀に待ってくれた男。

 それも仕方があるまい。

 俺が出す殺気に、動けなかったのだろう。


「実力差は分かっただろ。そこからどいてくれ」


 殺意がない相手を、俺は仕留める気などない。

 穏便に済ませられれば、それでいいのだ。


「お前ら、()れ!」


 男が叫んだ。

 焦りのあまり、正常な思考が出来なくなっているようだ。

 俺の殺意にそのまま気絶していればいいものを、下手に実力があるせいで自ら死を選ぶことになるとは……


 奴らは俺を殺そうとしている。

 なら、俺も当然の行動をしよう。


「残念だ……」


 俺は本当にそう思っていた。

 しかし、師匠から教わった殺意に対する向き合い方は、俺の身体を自然に動かす。


 俺は手に持った棒を人間の首の高さに合わせ、横に振る。


 斬撃が光の弧となり、俺の正面、全てを切り裂いた。


「あー、これは、あー、うん……」

 

 やってしまった。

 倒れゆく塔を見ながら、俺は自分の過ちに気づいた。


 ──複数の敵を一度に相手するときは、打ち漏らしを防ぐため、可能な限り一撃で全滅させよ。

 師匠の教えだ。


「俺の塔がー」

「別にあなたのじゃないわよ……」


 土煙立ち込める第二段階の街。

 その象徴とも言える建物が今、消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ