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パーティをクビになる、俺。

「ラス、パーティを去ってくれ」


 ここはギルド内、丸テーブルが置かれた場所。

 俺は目の前の男に、お馴染みなってしまったセリフを言われた。

 これで五度目のクビ宣告だ。

 とりあえず、今回は何がダメだったのか聞いておこう。


「理由を聞いても?」

「あんたは、貸してあげた第一段階の魔導書すら覚えてこない。俺たちは一応、第三段階の試練を攻略するために結成されたパーティ、魔法が使えないのは論外だ」


 やはりこのパターンか……

 上位段階の挑戦者になるにつれ、魔法に対する信頼が厚くなる。

 それはもう、信仰に近いものになっていた。

 俺は今まで、言葉巧みに魔法が使えないことを誤魔化していたが、まさか貴重な魔導書を貸してくれるとはな……

 優しさが仇となったわけだ。

 俺は苦手意識を持ってしまった魔法に、今更取り組む気はない。

 きっと、嫌気がさした他のパーティメンバーから苦情が入ったのだろう。


「それに戦いの途中で、いつの間にか消えてるじゃないか。パーティを置いて消える奴を仲間とは呼べない」


 それは誤解だ。

 こいつらは平和ボケしすぎている。

 俺はただ単純に、殺気を感じ次第(しだい)対処していただけだ。

 門の中は常在戦場。

 遠距離からの狙撃、はたまた隠密系の魔法や魔導具による死角からの奇襲、何でもありの殺し合いなのだ。

 それを分かっていないとは、このパーティは長くない。

 しかし、このリーダーの男は、ギルドで4回目のクビ宣告を受け少し落ち込んでいた俺に声をかけ、そのうえ魔導書まで貸してくれた、優しい人だ。

 少し忠告をしてやろう。


「それはだ……」

「でも、顔は良いからな。愛人にしてやっても……」

「話は終わりか? 俺は忙しいからな」


 前言撤回(ぜんげんてっかい)

 こいつも他と同じ、どうでもいい存在だった。

 俺は立ちあがり、そのままギルドの出口へ向かう。


「もうこの街に、あんたを入れてくれるパーティなんてねーぞ!」


 男の声が聞こえたが、興味ない。

 それならそれで、計画を変更するだけだ。




 ギルドの外、”門”の前にある広場で、俺は空を見上げ、今までの挑戦者人生を振り返った。


 騎士団から長期休暇を貰い、俺はある街を拠点とした。

 名前はキュドサック、挑戦者たちに”袋小路”だと呼ばれる、門の街だ。

 そう呼ばれるのには理由があった。

 まず、挑戦者が生涯をかけて乗り越えられるのが、第三段階の試練だと言われている。

 この街の門は、第二段階から始まり、第三段階まで確認されていた。

 よって、ここには挑戦者の最終的な”現実”が集まっているのだ。


 街に着いた俺は、パーティに入れてもらうことにした。

 第二段階以上のボス敵に、流石に一人でトリックショットを決めるのは厳しい。

 以前成功した例は、本当に偶然だ。

 敵意に反応するタイプのボスに、おあつらえ向きな通路の出口。

 まるでチュートリアルのような環境は、俺のためにあったと言っても過言ではない。


 敵を引き付けてくれる仲間。

 俺を空中に飛ばしてくれる仲間。

 そしてなにより、俺をボスまで導いてくれる仲間。

 パーティの存在はどうしても必要だった。


 だが、結果はこの有り様だ。

 第二段階以上の挑戦者で、魔法が使えない者などいない。

 騎士団から”借りて”いる魔導具は持っているが、ほとんどが上位段階の物のため、基本的には使っていなかった。


 でも、最初に魔法が使えるかどうか、普通聞くと思うのだが……

 まあ、顔採用というやつだろう。

 戦闘で実力が知られると、俺はすぐにパーティから追放された。

 そもそも、魔物との戦闘にほとんど参加していなかったというのもある。

 

「最近、第二段階平和になったよな」

「ああ、今じゃ第一段階より楽だって言われてるぜ」

「ただ、素材がな……」


 ちょうど、門から出てきた挑戦者たちの会話が聞こえた。


 門の中の空間は、他の”門”とも共有している。

 一つの段階に対して、試練は一つしかないのだ。

 そして脱出用の穴は、入った”門”へと繋がる。


 俺は殺意に敏感過ぎて、第二段階の挑戦者狩りをひたすら狩った。

 門の内部は平和となり、一般挑戦者が自由に行動できるようになった。

 その結果、第二段階産の素材価格はストップ安だ。


「はあ……」


 俺は大きな溜め息をつく。

 師匠からの教えと、騎士団での仕事柄、殺気に対する癖が抜けない。

 正直、門内部のいざこざなんて、勝手にやってくれというスタンスだ。

 

 なのに、もう終わりかもしれない。

 俺が魔法を使えないことは、この街の挑戦者たちに広まってしまった。

 さて、どうしたものか……


 独りでやるしかないか、と諦めかけていた時、高く可愛らしい声が広場に響いた。


「あなたたち、どいてくれるかしら」


 いつもなら、よくある挑戦者同士のトラブルだと無視していたが、俺の視界に入ったのは溢れ出る強大な魔力。

 その大きさは、あの姫騎士すら超える。


 俺は気になって、魔力を出している張本人を確かめた。

 その正体は、勝気な表情で自分より二回り大きな男たちを睨みつける少女だった。

 急所を守れるだけの露出度の高い鎧。

 鎧と呼べるのかも分からな代物だが、それ自体にも強い魔力がみえる。

 純白の髪はサイドで結ばれ、綺麗なツインテールだ。

 見た目と声、そして振る舞い、全てが一致した非常にしっくりくる人物……気になる。


「だから、あなたたちのような雑魚に興味はないの。不愉快だから視界に入らないで」


 パーティに勧誘しようとしている男たちに、あくまでも強気な態度で出る少女。

 ……ん? どこかで見たような……

 彼女の姿に、俺は少し見覚えがあった。


「優しく誘ってやったら調子に乗りやがって! 少し痛い目見たいようだな」


 一番前に立っていた男が、顔を赤くして少女に掴みかかろうとした。

 あいつ、さっき俺をクビにした男だ。

 彼のことは、直前の記憶のはずなのに、俺は完全に忘れていた。

 もう次の相手を誘っているのか……


「っと、まずいな」


 俺は右足を踏み込み、一足(ひとあし)で男と少女の間に割って入る。


「街中でそれはまずい。やるなら門の中でしろ」


 少女の右手に流れた魔力。

 その量から見て、最低でも第二段階以上の魔法を使用する気だったのだろう。


「お前は用済みだ、邪魔するな」


 俺の姿に、男が更に怒り出す。

 短期間で二度も振られたのだ、余裕がなさそうだ。


「いや、君たちのために言ったんだ」

「お前には関係ないと言ってるだろ!」


 男が剣を抜いた。

 もう見境がなくなっている。


 俺は呆れてしまった。

 武器を使うというのは、明確な殺意の認定だ。

 残念だが、対処させてもらおう。


「よかったな、ここが門の”外”で」


 俺は右腕をしならせるようにして、拳で男の顎下を揺らした。

 男の取り巻きどもが焦って、武器を出す。

 それは悪手だと思うが……


 俺は小さくため息を吐き、屈むことで男の身体に隠れ、取り巻きの死角に入る。

 そこそこ腕が立つ挑戦者のようだが、一瞬の出来事には対応できまい。


 取り巻きの一人が一歩足を進め、倒れる男の横に出る。

 俺はそれに合わせ、身を低くしたまま、右足を蹴り上げた。

 男の陰から現れた足は、取り巻きの顎をかちあげ、同じように気絶させた。


 そして最後に残った取り巻き。

 目の前の状況を理解できず、固まっていた。

 こいつは対人戦闘に慣れていないようだ。


「連れていけ」


 俺が強い殺気を当てると、最後の取り巻きは、気絶した二人を引きずるようにして道の奥へと消えて行った。

 ほんの短い間ではあるが仲間だった人たちだ……やっぱり何の感情も沸かない。

 思い返してみると、あいつらは全員、つまらない存在だった。


「あ、あの、あの!」


 背後から(うわ)ずった声が聞こえる。


「なんだ?」

「こ、これ!」


 手渡されたのは、指輪。


「べ、別にそういう意味じゃないの。勘違いしないでよね!」


 プイッとそっぽを向いて、今日日(きょうび)聞かないセリフを言い放つ少女。

 俺は感心していた。

 やはり見た目と言動がしっくりくる。


「大丈夫だ。この魔導具を俺に渡したのには、理由があるのだろ?」

「意外と素っ気ないわね……」

「ちょうどいい、俺も君に興味がある。とりあえず名前を聞かせてくれ」

「わ、私に!? 興味!? えと、あと……」


 顔を真っ赤にした少女は、呼吸を整え、精一杯胸を張り答える。


「私はリュゼ。知ってると思うけど、英雄を継ぐ者よ」


 そう言った彼女は、とても誇らしげだった。

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