カシャギ 2
ルンビエの社の本殿に入るのは初めてだったが、扉が閉じると、外の喧騒が嘘のように消えてなくなった。耳鳴りがするほどの静寂のなか、イバリノミに着替えたイルククたち三人は齢百を超える巫術士ホマルクメイ婆がカシャの鏡に神降りの儀式を執り行うのを緊張しながら見つめていた。ヤスフルデの枝をふるたびに細く小さな背中が固く震えた。カシャの鏡は磨いた青銅でできていて、七寸の丸い鏡のまわりをカシャ神の紋様が取り囲んでいる。その鏡を覗くのだと思っていたが、実際は違った。突然、ホマルクメイ婆がうつ伏せに倒れたかと思うと、鏡からあらわれたのは身の丈九尺を超える青い武人であり、カシャ神そのものであった。カシャ神はイバリノミをまとい、堅い顎を布で隠し、高く結った髪にはうっすら赤い炎を帯びたフミリを二本差していた。右手に太刀を、左腕に丸い盾をつけていた。
――若人たちよ。
カシャ神は三人に語りかけた。
――我が鏡よりさだめを覗くがよい。
そういって左腕につけた丸い盾を差し向けたが、それはまさに磨かれた鏡であった。
三人がカシャ神の運命の盾から己が未来を覗いているあいだ、外では里じゅうの人間が集まって、三人が儀式を終えて出てくるのを待っていた。影術士たちはなかで何が行われているか知っていたから、あの魂まで震える一時のことを思い、まるで過去を見るように目を細めていた。
本殿の扉が開き、ホマルクメイ婆があらわれ、それに続く三人の顔が隠されているのを見ると、村人はどよめいた。一度に三人の影術士が生まれるとは。縁起がいいとみなは手を打ち、いつもは濁り酒は一杯までにするガヴルナも影術士となった三人に焼き物のひと瓶を全部飲まないと顔を隠すと言われ、二杯、三杯、一本、二本と行くうちに、これはとんだザルだと大人たちが囃し立て、気がつくと、自転車に乗ったサヤトに肩車をされて、両手を広げて、笑っていたのだが、翌日には二日酔いの頭痛でなぜあんなことをしたのか、こたえの出るあてのない頭をしきりに傾げていたのだった。