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二年後 1

 王都アシュボアの旧市街、刀剣鍛冶通りにある〈棘魚亭〉は訳ありな仕事を斡旋することで知られている。ある人物について調べてほしい、ある人物を護衛してほしい。ただ、さすがにある人物を殺してほしいという依頼は受けておらず、誰か死んでほしい人間がいるものは廃教会の〈名無し〉という酒場に行かないといけない。

 緩いウェーブのかかった髪を後ろで結んだ青年が〈棘魚亭〉のドアを開けると、煙草と安酒のにおいがムッとくる黄色い光に包まれた。船乗りと娼婦、近所の老人、年に二回やってくる物売りや巡礼。ときどき、治安の悪い旧市街を歩きたがる金持ちの息子がいることもある。

 青年がカウンターにつくと、片腕の店主がやってきて、エールを注いだ酒壺を持ってきた。

「終わったのか?」店主がたずねた。

「ああ」

 青年はそう言って、エールをあおった。

「女はもう家に戻っているはずだ」

「さっき使いが来てな。これを置いていった」

 革袋をひとつ、カウンターに置いた。金属がぶつかり合う音がした。守銭奴なら、なかに金貨が何枚入っているのか当てられる、そういう音だ。

 青年は中身を確かめずに懐に入れた。

「ひとつ、問題がある」片腕の店主が頭を掻いた。

「なんだ?」

「令嬢がお前に惚れたらしい」

「くだらない」

「何を話したんだ?」

「黙っていろとしか」

「なんだ、そりゃ?」

「賊はふたり倒したが、表に五人いた。騒がれたら厄介だから、そう言って口を塞いだ」

「それで王都で一番デカい金庫にカネを唸らせている商人の婿になれるのか? いい身分だぜ」

「興味ない」

「もらったカネは数えない。女に興味がない。地位も興味がない」

「それで?」

「おかしいだろ」

 フン、と青年は無視して、エールを少し口にする。

「まさか、男にしか興味がないわけじゃないよな?」

「当たり前だろ。おれを何だと思っている?」

 そういう青年は額にかかった髪を軽く端へ寄せる。端整な顔立ちは少し幼く見えるが、老成した目が印象で勝っている。まだ十八歳なのが信じられないというものもいた。

「まあ、こっちとしては手数料がもらえれば文句はない」

 青年は残ったエールを飲み干し、銅貨を二枚置いて店を出た。

 旧市街は寝静まるということを知らず、もとは修道院だった売春宿、もとは騎士団官舎だった賭博場が、どろっと濁った光をまとって、悪徳と金銭を交換している。青年のまわりを化粧の濃い酌婦が「ねえ、坊や。あたしと一杯やろうよぉ」とまとわりつく。その酒臭い息と皺を埋める白粉、古いタラを揚げる疲れた油のにおいが混ざって、いよいよ吐き気をもよおすものになる。

 そんなとき、青年は酌婦をじっと横目で見る。睨むの一歩手前の目線は若干の不快と大量の無関心でできていて、そういう目で見られると、たいていの女は青年から離れる。

「ふん! なにさ! そんな目で女を見る法ないだろう! 死んじまえ!」

 崩れ始めた刀剣鍛冶通りを西に外れて、階段の路地を登って下って、誰かがかけたままにした梯子で、マディアの丘のほうへ。丘は途切れ途切れの城壁に囲まれ、粗末な石造りの町が詰まっている。十ヤード以上真っ直ぐな道は皆無だし、十ヤード以上平らな道もない。青年はそんな丘の道を音もなくとっていった。レンガ工場の小さな裏庭に出ると、トッレ団たちが集まって、今夜押し込む商店について相談している。他人の稼ぎにケチをつけない掟がある。青年もトッレ団員もお互いちょっと見合うだけで、それ以上は何もしない。

 娼婦にも武装強盗にも無関心な青年の冷めた目を輝かせるものがあるとすれば、それは丘の頂上にある小さな家の窓に灯る光だけだ。家に誰かが帰っていると分かると、青年の顔がぱあっと明るくなって、凍りつくような冷たい目も温かく輝いた。青年はドアを開けた。

「エージャ! 戻られたのですね!」

 知り合いをたずねると街を三日間離れていたガヴルナが旅の荷物を解いているところだった。

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