侵攻 12
ルンビエの社は既に北と東からも攻め込まれ、生き残った守備隊が本殿に集まっていた。多くの影術士を産んだ本殿がランカの最後の地となることは避けられなかった。
サヅタヤは目前まで迫った滅びに対して狂ったように戦った。斬り、薙ぎ、突き、刎ねた。だが、本殿を囲む濠にはアリ一匹這い出る隙間もないほど敵兵が密集し、豆粥のように濃い弾幕が白漆喰の塀を削っていった。影術士までが囲み撃ちにされて次々と倒れていく。
本殿で長老と巫術士のホマルクメイ婆が自害したときいたのは午後三時のことだ。若者たちも自殺同然の斬り込みで次々と命を落とし、里のものたちは自身の運命を受け入れ始めてしまった。
――認めぬ。ランカが滅んでなるものか。
サヅタヤはふたりの戦士が囲み打ちにされているのを見つけた。ふたりはかなりの共和国兵を斬り捨てていたが、片割れがついに銃剣で脇腹を刺されると、そこから切っ先を連ねた軍刀にいっせいに襲いかかられた。
全身を血みどろにしながら戦っているのが、自分の両親だと気づいたとき、サヅタヤは刺し違える形で両親を囲む敵を破ろうとしたが、父ケナクが吠えた。
なんと言ったのか分からなかった。鬼神のごとく戦うサヅタヤは言葉すら忘れていたのだ。次の瞬間、ケナクは笑うと若きころ慣れぬ詩まで送って恋い慕った妻とうなずきあい、短刀でお互いの心臓を刺し貫いた。
――守れ。そう言ったのだ。
だが、なにを。そのとき、本殿へ戦えぬ幼い子どもたちが逃げるのを助けるひとりの影術士の姿が目に入った。
サキリだった。二本の小太刀で縦横に斬り結び、少しでも多くの子どもたちを避難させようとしていた。だが、銃撃は無情に撃ちかかり、半分以上の子どもが本殿の階段前で倒れていた。
――サキリを、子どもたちを守らねば。
サヅタヤが塞がる敵の刃をかいくぐり、地に転がってから跳ね上がると、一拍遅れて兵士の首が飛んだ。そして、デタラメにサーベルをふりまわす騎兵を真上から太刀で首の付け根へ刺し貫く。
そのとき、サキリは三人の敵と対していた。だが、四人目がいることにサキリは気づいていなかった。後ろから緑のフロックコートの文官姿のノエル・カステルノウがまるで図書館にでもいるように静かに、ごく普通に歩いてきていた。敵兵たちもその登場に戸惑っているようだ。
カステルノウが銃を振り上げ、サキリの頭を撃った。
サキリの高く結った髪がほぐれ、折れたフミリが空へ飛んだ。サキリは膝から崩れ、小太刀を握ったまま横に倒れた。
サヅタヤの喉から野獣のごとき咆哮が迸り、途端に目の前の兵士が脳漿のまじった血を噴き上げて倒れる。飛びかかった相手に肘からぶつかり、鼻を潰すと、まわし蹴りで道からどかし、続くふたりは一太刀で首を刎ねた。カステルノウへ突きを送る。だが、手ごたえはなかった。太刀がハバキから指二本分のところで折れていたのだ。
頭を激しく打たれ、像がぶれた。指、手、腕が自分の意思から離れ、そして最後には意識が飛ぼうとしていた。
――無念だ。
倒れ、薄れていく意識のなか、サヅタヤがきいたのは本殿ごと焼き殺される子どもたちの断末魔だった。




