侵攻 10
ルンビエの社の本殿からヤーンア街道沿いに南に伸びる出城はその尾根の上を木柵と土塀で固め、街道と出城のあいだに濠を設けていた。濠に落ちた兵が互いに連絡するのを防ぐ目的で濠のなかは土塀で分断されている。
早朝、地獄師団が到達すると、街道に陣取り、矢弾の応酬を繰り返した。他の師団も北と東から攻め始めていたので、黒色火薬の白く乾いた煙が流れ、三歩先に象が立っていても気づきそうになかった。
急ごしらえの砲兵陣地から榴弾が発射され、炎に焦げた土が降り、出城を黒煙が包み込み。
守備側からの反撃が止んだ。砲撃による損害は予想以上に激しかった。尾根はつまみ食いされたケーキのように大きくえぐられ、いくつかの建造物も燃えている。
地獄連隊のバイエンヌ連隊第一大隊長は麾下の梯子部隊に濠に降りて、出城へ梯子をかけるよう命じた。梯子部隊のほとんどは釈放と引き換えに徴兵されたミランヌヴィルマの懲役囚だった。
頬にナイフの傷痕を残し、額に泥棒の焼き印をされた男たちはこんなことなら黙ってムショにいればよかったとぶつくさ言いながら、梯子を背負って、濠へ落ちた。
「おい、何だよ、この壁はよぉ」
「邪魔くせえったらねえぞ」
梯子部隊が濠へ降りていく。だが、濠を分断する土壁は思ったよりも高く、進むのに難渋しているとき、無人と思われた出城から何かが投げられ、身動きが取れない梯子部隊へと落ちた。爆音と悲鳴。ちぎれた腕が灰色の爆風の上をくるくるまわりながら飛んでいく。
他の濠穴にはまり込んだ梯子部隊のあいだでパニックが伝染し、逃げようとするが、壁が高く退くこともままならない。
特別な炸薬を装填した焙烙玉が導火線から白い煙を引きながら、宙を飛び、分断された梯子部隊をひとつずつ吹き飛ばしていく。
風は南から吹き、黒煙と硝煙がさらわれて、消えていくと、梯子部隊が蒙った凄惨な被害が嫌でも目についた。攻城梯子はバラバラで他には裂けた武器や中身をぶちまけた背嚢などが散乱し、首と肋骨がなくなった死体や両腕が吹き飛んだ死体で足の踏み場もなかった。
「くそったれめ」
大隊長は帽子を地面に叩きつけた。
「第二部隊!」
だが、第二部隊は梯子を捨てた。
「冗談じゃねえ!」先頭にいた大男が言った。「死にに行くようなもんじゃねえか。おれはごめんだぜ」
大隊長は銃身の長いピストルを抜いて、大男の胸に狙いをつけた。
「行け」
「くそくらえだ。この――」
厚紙の袋が破裂したような銃声。大男は顎を引いて、自分の軍服の胸にじわじわと広がる暗赤色の染みを見た後、信じられない表情で大隊長を見てから、その場に崩れた。
「行け!」
兵士たちは慌てて梯子を拾い、濠に降り、死体を踏みながら前へ進む。
味方が出城に銃撃と砲撃を続け、敵をけん制した。銃弾が飛び跳ね、燃えながら堂が内側へ閉じ込むように崩れ、黒煙が延々と北へ流れ続ける。
第二梯子部隊は出城のすぐ下までたどり着き、梯子をかけた。同時に濠を区切る壁を崩して、相互の移動をしやすくする。
「よーし、出城に攻め込むぞ」
そのとき風向きが変わって出城の黒煙がバイエンヌ大隊のほうへ流れてきた。焼けた木の妙に香ばしいにおいがして、大隊は煤まみれになりながら、真っ暗な煙のなかで銃剣をつけたまま突撃に備えた。煙は濃く、息をするのも苦労するほどで、肩が触れ合うほど近くに立つ仲間の顔も分からないほど視界を奪っている。
「ぎゃっ」
誰かが叫び、黒い影が倒れる。
すぐに白んだ太刀の光が走り、またひとり転がるように倒れた。
「敵だあ!」
サヅタヤは精鋭二十名とともに古木の洞に掘った秘密通路からするりと抜け出て、黒煙のなかで狼狽している共和国兵へ襲いかかった。
目の前を防ぐ影を厚金つくりの太刀が斬る。濡れた筵の束を叩き切ったような音がして、次々と倒れる共和国兵は完全に自制心を失い、慌てて逃げ出した。大隊長はおそらく逃げようとした兵士を斬り殺そうとしたのだろう、背中から撃たれて死んでいた。
サヅタヤたちは敵兵がいないことを確認すると古木の洞へ逃げ込み、最後のサヅタヤが苔で固まった土の皮を入り口に引き上げ、出城へ戻った。




