侵攻 8
セイハ村を失ったランカ勢は少しずつ西へと後退していた。
敵の占領地にはいくつかの遊撃部隊が残り、敵の後背を脅かし続けたが、共和国兵は陸続とあらわれ、ひとつまたひとつと包囲殲滅されていった。
リム爺の決死行は地獄師団を止めることはできず、天魚の月の三十一日、早朝、ウースールらが籠城していたガッタナ岩の砦が陥落し、守備兵は全員討ち死にした。
ライコウ村は北と南と東から攻撃を受けた。戦列歩兵の横隊が一斉射撃で村ごとランカ勢を薙ぎ倒し、イルククたちの生家も燃え上がった。
サヅタヤの隊は半分に数を減らしながら、ルンビエの社に撤退した。
空堀に囲まれ、いくつかの出城のようなものがあるルンビエの社は有事の城塞として籠れるようになっていたが、実際に籠城戦を行うのは長いランカの歴史でもこれが初めてだった。
サヅタヤは東側の出城に詰め、そこでサヤトと再会した。
「サヤト……」
「レイェガが死んだよ」
「そうか」
「イルククはどうした?」
「……まだ、ここに来てはいないらしい」
「確か、セイハ村の遊撃部隊か。無事だといいな」
「ああ」
「サキリは?」
「無事だ」
サヤトはいつものサヤトらしく笑った。「なら、おれと話してる場合じゃないぞ」
サヅタヤはサキリを探した。先ほどまで一緒にいたのだが、いまは姿が見えない。弓の弦がおかしいと言っていたので、どこかで弦を張りなおしているのかと思ったが、本殿のある境内の炊事場で子どもらを相手に串焼きにした鱒をふるまっていた。
許嫁はサヅタヤを見ると微笑んだ。ふと、夫婦となり、子宝に恵まれれば、このような景色を毎日見ることができるのだという思いが、心にじんわり広がった。
――父上も母上がわたしやイルククに夕餉をつくるのをそんなふうに見ていたのだろうか?
生き残らなければならぬ。
強く誓った。
生き残り、里を救うのだ。なんとしても。
サキリは串焼きを一本持ってきた。これまでろくに腹にものを入れていないことが急に腹の虫になって知らせてきた。
「まあ、サヅタヤさまのお腹でも虫はなくのですね」
「恥ずかしいところをきかれた。この鱒は?」
「わたしが取ってまいりました」
ルンビエの社まで退くあいだ、そんな余裕はなかったが、うまく時間をやり繰りしたのだろう」
「短いあいだにこれだけの鱒とは、漁人もサキリには敵わぬ」
「シヤンヤ村はその西にランカでも最も険しいアメイの山を抱えています。険しい山の川に流れる鱒や岩魚をよく子どものころ、とりました」
「そうか」
鱒で腹がくちくなった子どもたちがふざけて遊び始めた。まだ、外敵の襲来で味わった恐怖が残り、どこかこわばっているが、それでもだいぶ良くなった。
――そうか。そのために鱒を。
「サヅタヤさま」
隣に立ったサキリの細い指がサヅタヤの指に絡まる。
「わたしもはやくサヅタヤさまの子が欲しいです」
「わたしもだ」
サキリはサヅタヤの肩に頭を預けた。




