侵攻 6
第十五師団の砲兵陣地の爆発は相当なもので、その炎は何度も内側から外側へと巻き上がりながら山よりも高い位置に炎の輪をつくり、ランカの里を震わせた。
それはセイハ村を捨てつつあったイルククの目に見えたし、ライコウ村で防いでいるサヅタヤの目にも見えた。
カマン池の守備兵が全滅したことでついに共和国兵はルンビエの社まで到達することができるようになった。
地獄師団はダンバレイ村の南、ガッタナ砦で前進が止まっていた。
ウースールらはよく防ぎ、また日も暮れると、敵の篝火のあいだにある闇を縫うように走り、夜討ちをかけることもできるようになった。
だが、度重なる砲撃で砦は崩壊寸前だった。砲弾はガッタナ岩にも命中し、岩はふたつに裂け、リム爺の竹小屋が押しつぶされた。
リム爺はそのころ、ダンバレイ村の南集落の西にある木立のなかに身を潜めていた。
赤と青の師団旗はリクニの家に立っていて、伝令や連絡士官の行き来の激しさから、そこに師団長がいるのは間違いなかった。だが、その家のまわりを常に五人から七人の兵士が見回り、道にも十人以上の兵士がいる。用意のいいことに木の板で塀と門を高くしたので、外から狙い撃つことができない。暗闇から虚をつけば三人くらいは倒せるだろうが、そのあいだにルドゥ将軍に逃げられては意味がない。そのとき、砦を目がけた一斉砲撃の光が地を慌ただしく点灯し、真っ赤な火を引く砲弾が砦を容赦なく耕した。
もう、ウースールたちはもたない。
リム爺は猟で使う火縄銃を背負い、木立から物音を立てずに走り出すと、集落を南北に貫く道へと着いた。
いくらランカの影術士と言えど、単身で司令部に斬り込むものがいるとは思わなかったので、守備兵たちの反応が遅れた。
リクニの家の門に立っていた兵士がかじっていた青いリンゴを捨て、立てかけた銃に慌てて飛びつくと、
「よいしょ」
と、掛け声ひとつで背中から斬って捨て、門をひらりと飛び越した。
「おい、何を騒いでいる!」
少佐の肩章をのせた男が戸口に姿を見せる。
「あっ」
「よいしょ」
鞭のようにしなったリム爺の刀身が肋骨を立て続けに切り割り、少佐が屠られ損ねた野獣のような悲鳴をあげた。
戸口の柱に抱きついたまま、吐血まじりの悲鳴をあげている少佐を捨て置き、なかへ飛び込むと参謀将校が三人、つなげたふたつの折り畳み式テーブルの上に銀の燭台を点し、ローストビーフにナイフを入れるところだった。
ぽかんとしている手近な士官を袈裟懸けに斬って捨てると、残りのふたりは慌てて逃げ出した。
――大将はどこだ?
厨の扉が開き、シャツとズボンだけのルドゥ将軍がピストルをまっすぐリム爺に向けながらあらわれて引き金を引いた。
こめかみから血を噴きながらリム爺が倒れると、すぐに守備兵たちがなだれ込み、リム爺の骸を囲んだ。
「たかだか老人ひとりにここまでたどり着かれるとは。警備隊長は銃殺刑だ」
将軍がリム爺の横腹を蹴飛ばすと、そのままぐるっと回転しながら背中の銃をまわして腰だめに構え、将軍の顔を撃った。
抑揚のない大きな悲鳴がその喉から迸り、火のついた顔を必死におさえながら、後ろに下がる。
――ヨナ。わしもいま逝く……。
兵士たちはリム爺の体に数十発の弾丸を撃ち込んだ。




