侵攻 4
耳輪をつけ、大きな口ひげを蓄えた赤肩章の榴弾兵の一分隊がセイハ村の外れにある農家の井戸に何かを投げ込んでいた。白い包みの柔らかそうなそれは赤ん坊だった。まわりにはイバリノミ姿の母親と乳母が倒れていて、その喉は大きく切り裂かれ、首はほとんど取れかかっていた。
「ガキばっかだ。何にもありゃしねえ」
「鶏もいねえ」
「他の隊が持ってちまったんだろ」
「なんかいいものはねえのかよ」
扉を叩き壊し、床を掘り、壁にかかった綴れ織りを銃剣で突いてみる。
壁の棚を開けると、突然旋風が巻き起こり、擲弾兵が悲鳴をあげる。血を噴きだす顔を押さえながら、逃げ出す。棚のなかには訓練用のイバリノミをつけた八歳くらいの少年とその妹らしい少女が隠れていた。すぐに仲間がかけつけ、少年を捕らえると、顔を切られた擲弾兵が、銃を手にし、
「おれが殺る」
といって、少年の胴を刺すと、そのまま持ち上げた。
少年の足が虚空を掻き、痙攣し、妹の名を口にしたときには妹は歩兵用の軍刀で首を叩き落されていた。
少年を庭へ投げ落とすと、仲間が顔を切られた男に座るよう言い、顔に包帯を巻き始めた。
「なにで切られたら、こんな深い傷になるんだよ」
「知るか」
「こりゃ一生残るな」
「うるせえ」
「もらえるもんは何にもなくて、顔切られただけなんて情けねえ」
「だまれ」
「軍曹。金目のものはもうありゃしませんよ。きっと南に逃げたんだ。地獄師団の総取りですよ」
軍曹と呼ばれた男が母屋の扉口に立った。目をぎょろぎょろさせて、何か言おうと口を開きかけて、うつ伏せに倒れた。その背には矢が刺さっている。
すぐにランカ勢が母屋のなかへ斬り込み、擲弾兵たちは次々と斬り捨てられた。最後に残ったふたりは銃と歩兵刀を捨てて、降伏した。
イルククは少年のそばに駆け寄った。
「影術士さま。キミルは、妹が――」
イルククは棚のほうにいるターカを見た。無言で首をふる。
「――大丈夫だ。無事だよ。よくやった」
「よかっ……た……」
イルククは少年のまぶたを閉じた。
外に生存者を探したものたちがやってくる。
「ダメだ。みな死んでいる。やつら、赤子を井戸のなかに――」
最後まできかず、イルククは立ち上がると中庭へ。ふたりの擲弾兵へ追いつくと、振り向いたほうの胸を一突きにした。
「あっ」
そう声が上がったが、抜き取った刃でこめかみに斬撃を叩き込み、手首を返して喉を切り裂く。
「何をしている!」隊頭のテンチャが叫び、もうひとりの擲弾兵に斬りかかろうとするイルククの手をつかむ。「そいつらはもう降伏した。無駄な血を流すな」
「でも、こいつらは!」イルククは叫び、涙があふれてきた。「こいつらはガリャンイーだ。殺すべきガリャンイーだ!」
「だが、抵抗の気を失ったものを殺すな。そんなことをしてもお前までガリャンイーに落ちるだけだ」
「じゃあ、どうすれば!」
銃声がして、テンチャの大きな体がぐらりと傾いだ。
テンチャが助けた擲弾兵が隠し持っていたピストルを撃ったのだ。
すぐまわりに戦士がこれを袈裟懸けに斬り捨てる。
イバリノミの襟に包まれたテンチャの太い首に赤い丸ができ、息を吸おうとあえぐたびに竹水鉄砲で押したように血が勢いよく噴き出した。
「どうして、あなたが――どうして――」
必死に傷を押さえるイルククにテンチャは何か言おうとしたが、あきらめたように長く息を吐き、絶命した。
誰かがイルククの肩に手を置く。ターカだった。
「泣いてる場合じゃないぞ。お前が隊を率いるんだ」
「――僕が」
「このなかで影術士はおれとお前だけだからな。おれはそういうのは向かない。だから、お前が率いるんだ」
「僕に、そんな――」
「みんなはお前に従うってさ。お前がやれって言うなら、捕虜も殺す。どうする?」
「――――」
イルククは首をふった。
「いや、ダメだ。そんなのはいけない」
ターカは安堵したように微笑んだ。
「じゃあ、おれたちを率いてくれ。おれたちはまだ死んでいない。里もまだ滅んじゃいない」
イルククはうなずくと、涙をぬぐって立ち上がった。




