侵攻 2
サヅタヤは二十人余りの隊を任されていた。
そこにはサキリも一緒で、セイハ村の住人が多い。
既にセイハ村には共和国兵によって火がかけられ、稲もまたその穂を炎になめとられている。
そのセイハ村で大きな爆発があった。その火柱は雲を焦がすほどで火だるまになった兵隊たちがごろごろと斜面を転がり落ちている。
「辞書を引きながら、パナシェ語で書いておいたんだよ。危ないからここに火をかけるなって」村の花火師であるゴルが言った。「言う通りにしないから、ああなる」
「なかなか幸先がいいな」セイハ村で大工をしているカイエンが笑う。
サヅタヤ隊はセイハ村の北をまわり込もうとしていた。平野はもはや共和国兵にあふれることが分かっていたので、山麓から狙える敵を探していたのだ。
観察していて気づいたのだが、今度の兵士はボロを着ているものがいなかった。以前の侵攻では裸足のものが多かったが、今回の侵攻では兵士たちはみな黒い革靴にボタンで留める脚絆をつけている。
――物資を優先的に配給される精鋭か。だが、前の戦を知らない。
セイハ村の住人が自分たちの村を共和国兵のたいまつの暴虐にゆだねたのは焼き討ちをする兵士たちはその結束が乱れがちになるという戦の常道を知っていたからである。
燃え上がる炎は征服の象徴であり、必要以上に人を高揚させる。敵は恐れるに足りないという思いが強くなり、その慢心が突破口を産むのだ。
それに炎そのものの音も近づくサヅタヤたちの足音や気配をかき消してくれる。セイハ村のものたちは焼き討ちの報復をするといい、戦意は旺盛だった。
馬にまたがり、旗手を従えた高級士官――焼き討ちを指示した連隊長だった――を見つけると、サヅタヤ隊は攻撃を開始した。
突如、青い稲のなかからあらわれたランカ勢に動揺しているあいだに七名の共和国兵が斬り捨てられた。
連隊長の配下はみなセイハ村の放火と略奪に夢中で自分たちの指揮官の命が狙われていることに気づかない。
白いカツラをかぶった連隊長のそばにいるのは旗を片手に剣を抜いた若い少尉だけで、サヅタヤに切りかかってきた。
サヅタヤは背中に負った太刀を抜き、相手の胴を狙うと見せかけて、左右の手の位置を素早く入れ替え、相手の肩口にしたたかな斬撃を叩き込む。旗を手放し、血を噴きだす肩を押さえながら倒れた少尉を飛び越す。連隊長が抜きざまの一撃を食らわそうとするが、それを鍔元で受け、剣が離れて敵が突くより先に足元に転がっていた連隊旗を蹴り上げる。旗に包まれた連隊長をサヅタヤへ瞬速の刃でもって、胸を二度突き通す。
太刀を抜き、旗で血を拭っていると、サヅタヤのすぐ後ろで顎ヒゲの大男が斧を振りかざしていた。
「ゲッ!」
男は斧を振り上げたまま呻き、真横に倒れる。その背にはサキリが放った矢が深々と刺さっている。
藪に隠れた許嫁にさっと手を振ると、サヅタヤは覆面を曳き下ろして、撤退の指笛を吹いた。




