侵攻 1
十二万の兵。
それがランカへ殺到する。
十四歳から六十五歳の戦える男女を集めても、千八百に届くかどうか。
ルンビエの社の大広間に各村の主だったものが集まって評定が開かれた。
遊撃により敵の虚をつく戦法に変わりはないが、敵が多すぎた。
それに前回の失敗で敵の警戒が厳しくなっていることは間違いない。
今度の戦いにはランカが滅ぶか否かがかかっている。
その技と術でもって百倍の敵をしのげるかどうか。
ランカの誇りがかかっているのだ。
「戦えぬものたちはどうする?」レイェガがたずねた。
「ルンビエの社に退避するしかあるまい。ここは橋を落とせば、深い濠に囲まれた城塞となる。ここによって戦うしかあるまい」イルククの父ケナクが言う。「だが、この籠城は援軍の期待できない籠城だ。可能なら外に逃がしたいが、ホマダリ、ザンジャ、サーワの道は既に敵におさえられている」
「わしらは逃げたりせぬ。先祖より受け継ぎ守り続けたこの土地。滅ぶのならともに滅ぶのだ」今年で八十二歳になるタースーが言う。
その後、詳細な戦術が練られた。
以前の侵攻以来、ランカの里のあちこちに小さな砦がつくられるようになっていた。
これが遊撃部隊の出撃拠点となる。これらの砦は地下道を持ち、周囲の岩場や林から秘密裡に外に出ることが可能だ。砦に敵を引きつけ、地下より砦を脱出し、包囲している敵兵の背後を脅かし、混乱に持ち込み、敵将を討つ。
イルククは彼の住むライコウ村近辺の遊撃隊に選ばれた。そのまわりの森や山のことなら自分の庭のように知っている。杣人しか使わない道はもちろん獣がたまに通るだけの道にも通じていた。弓と手裏剣を身につけ、ターカとともに出かけるとき、ガヴルナとばったり出くわした。
「エージャ。里を出なかったのですか?」
「うん。ボクもここにはお世話になった。それを捨てて逃げるのはちょっとね。とはいえ、ボクはまったく戦えないのだけど」
「エージャ、いまからでも遅くありません。どうか里の外へ逃げてください。ランカのものは難しくとも、外国人のあなたならまだ通ることができるかもしれません」
ガヴルナは首をふった。
「多少は医学、というか包帯の巻き方を心得ているつもりだ。怪我をしたら、寄ってくれ。ボクは自分の家にいる」
「エージャ……カシャの加護のあらんことを」
「きみたちにも」
ガヴルナは自分の家がある丘へと帰っていった。
三十人の遊撃隊の頭はライコウ村の影術士テンチャで武勇の名高く弓の名手として知られている。その広い肩を追って、イルククたちはムルベ滝の南を通る山道を目指した。
大きな合歓の樹をぐるりとまわるその道は地形に沿ってうねっていて、森から森へと枝を飛ぶように走ることで敵の存在を無視して部隊は動くことができる。山肌の岩陰や老木の枝の上に矢をつがえ、手裏剣を手に溜めたランカの戦士たちは敵を待ち受けた。
日は高く上り、晩夏の木漏れ日が道に点々と落ちている。イルククが上った楡の木は菰がかかった廃屋の上にあり、道は北東からやってきて、廃屋の前で曲がり、北へ伸びている。
敵兵があらわれた。先頭は青い軍服に黄色い襟の選抜歩兵で二つに折り曲げた帽子を頭にのせ、油断なく周囲に目を配っていた。蛇行する山道が歩兵隊であふれたそのとき、ランカ勢の攻撃が始まった。
音もなく飛んできた矢は全て馬にまたがった士官たちを射抜いた。すかさず炮烙玉が投げつけられ、隊列で爆発した。これは殺傷というよりは煙幕の意味が強く、視界を奪われた歩兵たちの無駄撃ちを誘う目的があった。
イルククの矢は耳に金の輪を通した剛直そうな士官の眉間を貫いた。見れば、仲間たちは位置を知られぬよう枝から枝へと飛び、テンチャは弓の達人と言われるだけのことがあって、敵の頭上を飛び過ぎながら、矢を放ち、不運な歩兵は頭を串刺しにされる。
先導部隊は慌てて後退し始めた。だが、それと同時に不吉な風音が甲高く鳴り始め、落下した砲弾が爆発して、樹々を薙ぎ倒した。
「あっ」
ランカ勢のふたりがそれに巻き込まれて地面へ落ちる。
敵は自分たちの味方がいることを承知で砲撃を行っていた。
すぐに歩兵が逆襲に転じ、地面に降りたふたり目がけて突進してきた。ふたりは怪我をして動けなかった。倒木を盾にして突進してくる敵へ短剣を放っていた。イルククも寄せ手の頭上に矢を射かけたが、焼け石に水だった。ふたりの戦士を屠るために数百の歩兵が森の地形や下生えを無視して殺到しようとしていた。
テンチャが退却の指笛を吹いた。
ふたりのすぐ上にいたイルククは退こうとしなかった。だが、下のふたりはイルククに、行け!と叫んだ。
「わしらの分も戦ってくれ!」
「ランカの里を頼むぞ!」
イルククがその場を離れたとき、ふたりは小太刀を抜き、敵と斬り結んでいた。たちまち地の道を断たれた歩兵が真上に銃を放ちながらたたらを踏んで倒れた。ふたりはそれから存分に斬り結んだが、多勢に無勢で深手を負い、敵の手にかかるくらいならばとお互いを刺し違えて自害した。




