1.春とナイフ
桜の舞う季節、新入生達が期待と不安と入り交じった心持ちで、
入学式を終えて校内を後にする。
そんな中、少年は皆とは逆方向に向かっていた。
だが、心は皆と同じ様に期待と不安を感じている。
慧華学園高等学校。
甲子園常連校で、入学時には厳しいセレクションが行われる。
少年はそれに見事パスして、慧華学園に入学したのだ。
ふと、少年の足が止まる。
「…」
投球練習が行われていた。
まだ体の出来上がらない細身の体型をした投手が、見た事も無い程キレの良いスライダーを投げていた。
流石に甲子園常連校である。
凄い投手がいるなと感心していたら、その投手と目が合った。
「何やお前?新入生か?」
「あ、はいS組の波川遥光です」
この投手に波川は見覚えがあった。
昨夏1年生ながらに背番号を与えられ、
甲子園のマウンドの先発を任された投手だ。名前は確か大野竣哉。
「波川…?どっかで聞いたような名前やけど…」
「言うてたやろ。俺らの後輩が来るって。ホンマ人の話聞いてへんよな」
「和谷さん」
「遥光も慧華野球部の一員やな」
和谷は遥光に優しく笑いかけた。
「はい」
それだけしか言葉は出なかったが、嬉しかったのだ。
和谷は中学の頃所属したチームの2つ上の先輩で、とても良くしてもらった兄貴的存在だ。
そんな和谷とまた野球が出来る事が遥光には何より嬉しかったのだ。
「ポジションはどこなん?」
「はい、投手経験もありますが、中学の時はショートやってました」
「遥光は中々ええで」
和谷が誇らしそうに言う。
「ふーん。せやけど内野は激戦区やしレギュラー取るんは厳しいやろな。
俺は1年からレギュラーやったけど」
「おい、大野あんまりいじめるなよ」
「すみません。まあ頑張りや」
それだけ言って、大野は再び投球練習を始めた。
「口は悪いけど悪いヤツじゃないからな」
「大丈夫です。気にしてないですから」
とは言ったものの、あまり良い気はしなかった。
確かにスライダーのキレは抜群だったし、
この強豪校で2年生ながら実質エースとして定着しているのだから、
実力があるのは確かだろう。
然し、あんな言われ方をしては癪に障る。
波川は、静かに闘志を燃やした。
絶対に夏までにレギュラーになる。それが遥光の目標になった。




