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土竜の王

 見入って動かないロシューに代表して俺が声掛ける。


「ロシュー」


「わかってる。行こう。彼の思いを無駄にしないためにも」


 ふらつくロシューの腕を支えた。


「おぶろうか?」


「……助かる。全く助けられてばかりだな私は」


 こうして俺たちはスチームタイタン体内内部へとその足を進めたのだ。ピューイの犠牲を振り切るかのように。


 スチームタイタン内部は意外にも入り組んでいた。おまけにどこもかしこも真っ白なため訳が分からなくなる。ロシューがいなければ一瞬で迷子だったろう。


(まあ、ロシューを放置して進んでもいけないようになってるってことなんだろうけど……)


 指示以外で彼が口を開かないためPTにはちょっと気まずい雰囲気が流れている。あのキッカも口を噤みチラチラとロシューのことを窺っているくらい。


 高峰は一番前を進み、何度目かの角を曲がったところでキッカが空気に耐えられなくなったかわざとらしく話題を振った。


「しっしかしあれじゃのー初めは綺麗と思ったのじゃが、こうも同じ景色が続くと飽きてくるのう」


 これに高峰が相槌をうった。


「確かにな、せめて敵でもでてくればいんだけどな。ソローゲーだとダンジョンで敵の巣とかなんだけどな」


「あーそれ分かるわ高峰」


「そのソロゲ?っていうのは?」


 ロシューが気になったらしいので俺が答えてやる。


「んーアンタらから見ると別世界みたいな感じかな?」


「別世界……稀人とは本当にとんでもないな」


「まあ、言ってしまえば俺らはー俺らは」


 ふと考える。彼らから見た俺達をどう表現すればいいかと。そして丁度いい例えを俺なりに見つけた。


「あれだ。世界の傍観者みたいな感じだしな」


「世界の傍観者……か。確かにそうかもしれない」


「つーわけでだ。終わったら俺らにも聞かせてくれよピューイの話」


「ふっいいだろう。ならクエストとして君たちに聞いて貰うことにしよう。報酬は宴会なんてどうだ?」


「おっいいねーそれ受ける受ける」


「キッカも受けるのじゃ」


 談笑して、ほんのちょっと明るくなった俺達はそのまま進み続けストーリーフラッグの立った場所に辿り着くのだった。


 そこは一目で中心だと分かる構造になっていた。巨大な円形広場。当然、壁は雲でできているけれど出っ張りが作られていたり、アルカナストーンが埋め込まれていて祭壇のようになっていた。


 何より重要な場所であると分かるのが真ん中に転がった壊れたスチームゴーレムの頭があることだろう。


 俺の記憶が確かならあれはロシューの母親だったもので間違いないはずだ。ロシューは俺の肩を叩いてこういった。降ろして欲しい星が教えてくれた場所についたと。


「一人で大丈夫か?」


 彼は自分だけで行くと言わんばかりに既に杖を取り出している。帽子とあいまって益々魔法使い感が増している。


「平気さ。例え亀でも前には進む。こんな所に来させておいて何だけどもしもの事があったら君たちは脱出するんだ」


「じゃがわしらは」


「分かってる。死なないって。でも、これはモグラの物語。さっきの彼が言ったように君たちは見ていればいい。君たちが背負うことはない」


 彼は杖に寄り掛かるように前に進みそして振り返った。


「大丈夫。これから先どうなるかは僕もわからないけど死のうだなんて思っていない。ピューイのためにもね」


 そういって彼があのゴーレムの前に立つまで俺達はその背中を見届けた。


 カランと杖が転がったのは彼がゴーレムの頭を掻き抱いたせい離れていたがシステムが俺達にその声を届けた。


「母上やっとお会いできましたね。申し訳ありません。こんなに掛かってしまいました」


 グスッと涙ぐむ音が聞こえれば女性の声が鳴って全員がぎょっとなった。


「ふふっまだ泣き虫なのねロシュー」


「母……上?」


 俺達も見たロシューの母親が現れた。けれどその姿は透明で死んだ存在とわかる。ぽわぽわとした光を帯びていた。


「嬉しいわ。その帽子も持っててくれているのね。うん、似合ってる」


「そんな……ありえない」


「始祖たちが私を代表として押してくれたのです。貴方に会うのだとすれば私であるべきだろうと」


「ですがっ」


 食いつくロシューに母モグラはコクリと頷いた。


「ええそう、例え一時とはいえ土竜に死者を蘇らせる力はありません。キーとなったのは彼ら」


 そういって母モグラが視線を向け、ロシューもばっと俺達を見た。


「稀人が……」


「天が我々に力が与えました。それが何者の思惑であれ、決められた定めであれ、我々は会うと決めたのです。土竜を導く未来の王に。ロシュー貴方にです」


「私が王?はははっはは無理ですよ母上。僕には無理です。コウカこそが相応しい。僕は愚鈍なモグラ。その上ほら足だって動きません。ずっと下に住んでいたから知り合いはいませんし、僕を王だって認める人だっていませんよ。民だって納得しない」


 そしてと少し俯いてロシューは続けた。


「それに僕はただ星に従っただけなのです。僕はモードモールに落ちた。あそこでの生活はそれはもう恐ろしいものでした。僕はただ星の導きに沿っただけ、海に板切れがあってそれに縋り付いたようなもの。僕は操り人形なのです。自分の意思で辿りついたわけじゃない。そんな者に王は務まりません」


「でも、ロシュー貴方は自らのアルカナハートを報酬として彼らに渡した。であればここに至った先は見ていないはず。何故貴方はここに立ったのです」


「それは……」


 母モグラの声が様々な声と混ざりだした。きっと始祖達の声なのだろう。


「第一、それが導きだとしても上に上がった時点で見て見ぬふりもできたはず。ロシュー私たちはモードモールの地でずっと貴方と共にあった。辛く険しいあの下界で貴方はそれでも私たちを気遣った。導きにない者まで気遣い貴方は救った。違いますか?」


「僕は……ただ母上を探して」


「理由なんてどうでもよいのです。貴方は救い続けた。我々は自らの間違いに気づきました。我々が探すべきは翼ではなく、竜の頭だったのだと。守るべきは誇りではなく慈しむ心だったのだと。そして我々がみるべきであったのは星ではなく、今現在という輝き」


「僕は」


「コラ!僕は止めなさいって言ったでしょ。王が僕ってカッコつかないんだから。ロシュー貴方の足は確かに砕かれてしまったけど、まだその腕がある」


 ロシューはじっと手を見つめ母モグラは続けた。


「貴方ならきっと掘れる。私たちとは違う天へと続く洞穴を。大丈夫、何たって私の息子なんですもの」


 二っと笑った母モグラにゆっくりとロシューは頷いた。


「ロシュー。いえ、新たなる土竜の王ロシュー・ドガティス。貴方に称号を与えましょう。その名、竜の頭ドラゴニア」


「ドラゴニア」


 ロシューの体が輝き、フワリと浮いた体が落ちた。大きな変化は無かったけれど、俺達から見えるネームドに変化がある。ロシュー・ドガティス・ドラゴニア。土竜の王が俺達の前で誕生したのだ。


 ◇◇◇


 その光景の美しさに俺達プレイヤーとサポーターは見惚れていた。雲の中にあって星屑のような煌めきを纏うモグラの王。神聖な空気を漂う儀式のようであったがその雰囲気をぶち壊したのが当の母親だった。


「まっこれも天の意思っていうのが気に喰わないところよね」


 ぐっと伸びをしてそう言う母モグラに目が点になった。ロシューもそのようで口元を引き攣らせている。


「え?母上?」


「ロシューいい?余り一人で気張らないことよ。このスチームタイタンを収めたことで貴方は英雄になるの。だから、きっと助けてくれる人はいるわ。いえ、それでなくても助けてくれるわよ。大体貴方って自己評価が低すぎるのよね。お父さんに似ちゃったのかしら」


「そっそういえば父上は?」


「お父さん?お父さん私が死んでショックで弱っちゃって溶けて消えちゃったわ」


(えー)


 オトン不憫。そういえばほぼ出なかったしと思ったが母モグラがフォローした。


「まあでもそれで良かったのよ。意識が残るってそんなにいいものじゃないから」


 それはモードモールにいた貴方ならわかるでしょっと母はいいロシューはコクリと頷いた。


「さっ名残惜しいけど行きなさい。もうすぐここは消えてしまうから」


 消えると聞き一瞬言葉に詰まったがロシューは俯かず真剣な視線を母に送った。


「母上、最後に一つだけ聞かせて下さい」


「何かしら?」


「天は……上には何があるのでしょう」


 そう言って二人は上を見上げた。


「さあ、それは天に上がった私たちも届いていない。善良なる神か、はてまた悪辣なる神か、あるいはそのどちらでもない無垢という名の戯れか」


 母モグラから色味の無い目を向けられ俺はゾクリとしたものを感じた。世界に浸っていたのに唐突にあれがAIであると自覚させられた気分だった。

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