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さよならマスター 風のピューイ

「稀人様っ」


 息を切らしたコウカ姫達が俺達の前までやってきた。彼女はぐっと遥か彼方のスチームタイタンを睨み、パウゼルに指示を出す。


「パウゼルっお願いします」


「はっ!稀人殿ここは我らにお任せ下さい。お前たち王子の言葉を聞いただろう今こそ我らが意地を見せる時ぞ!飛空石を守り、救助者を掘り起こせ」


 おーっと爪を掲げたモグラたちが動き回る。それを見て高峰が鼻をさすった。


「あいつらにここを任せるってことはまた姫さんは俺達に何かさせる気か?」


 彼女はぎゅっとドレスを握り締めた。


「兄が危機に瀕していると星が教えてくれました。身勝手なお願いだとは承知しております。ですが何卒兄上をどうかっ!私にとって彼はたった一人の家族なのです。そうです。4人で兄が渡した一つではアルカナハートは足りぬでしょう。私のものを、それに他の方にも用意」


 彼女が差し出そうとしたそれを俺はとどめた。そして胸からロシューのアルカナハートを取り出し見せる。


「俺達稀人には不思議な能力があるんだ。クエスト報酬は全員が受け取れる」


 だから必要ないと俺達全員がロシューのものを見せ彼女をキョトンとさせた。


「まっ依頼一個で4つは貰い過ぎなんじゃねえか?」


「高峰の言う通りじゃな。もう一つくらい依頼を受けても罰は当たらんのじゃ」


「私はマスターに従うだけです。まあ答えは出ているようですが」


 この物語の中で俺達の関係性もちょっとだけ変わった。特に高峰はクエストに対しても態度が変わったんじゃないだろうか。


「稀人様っ有り難うございます」


 ううっと泣いてしまったコウカ姫をキッカがねぎらった。


「ほれ、泣くでないわ。絶対とは言えんが其方の兄を連れ戻すことに全力を尽くすと約束するのじゃ」


「キッカ様ああああああ」


「うおっ爪が!刺さっておるのじゃああ!痛くはないがわしの一張羅があああ」


 キッカの優しさあるアホっぷりに皆で苦笑して空気が弛緩する。


「それでどうやって救うんだ?俺ら飛べねえぞ」


「流石に何かあるんじゃねえか?」


「お兄ちゃん」


 そうやって首を捻っているとあのピューイのマスターである女の子が現れた。最初のクエストで届けた子供である。その子がとても辛そうにしていた。


「ピューイがお兄ちゃん達に話があるって」


「話があるって言われてもどこに?」


 見当たらないと見渡せば上からピューイの声が聞こえてぎょっとした。


「エーマジェンシーエーマジェンシー。ロシューピンチ!ロシューピンチ!ロシュー恩人ロシュー恩人。ピューイ返すピューイ借り返す」


「いやいやいや」


「マジか」


 顎を上げた俺達は呆けてしまう。だって頭だけだったはずのピューイが空船となって飛んでいたから。まあ頭だけポンっと付けられた感じだけど何だろうか初めて見たはずだがどこかで見た既視感がある。


「稀人乗る。ロシュー助ける」


「成程な。だからこいつのクエストがあったってわけだ。乗ろうぜ桂木」


「ああ……」


 姫さん達との挨拶を交してキッカ、ルフ、高峰が乗り込んだが俺も向かいながらもちょっとだけ女の子とピューイのやり取りを見届けた。彼女はぎゅっとピューイを抱きしめていた。


「それがピューイのやりたいこと……なんだよね?」


「ピューイマスター大好き」


「私も好きよピューイ。王子様を助けたら絶対戻ってきてね」


 けれど彼は戻るとは告げず、マスター傍幸せだったとだけ語り空に浮き上がり始めた。女の子はじっと見つめていたがやがて耐えられなくなったのか母に泣きついた。不思議と彼女の声が俺の元に届いた。


「やだ……やだよママ。私のお星様がいってるのピューイ戻ってこないって。行かせたら戻ってこないって。やっと帰ってきたのにっもうお別れなんて……」


 その姿を見続けていると両親が俺にペコっと礼をしたため何となく俺も礼をした。俺たちを乗せたピューイはドンドン上がり、やがて彼らが見えなくなった。俺はコンコンっと彼の体となった鉄板を叩いた。


「なあ、お前いいのか?」


「ピューイ壊れてた ロシュー治して ピューイ生き返った マスター再会ロシューのおかげ 短くてもピューイ幸せ ピューイロシューに恩返し」


「そっか……」


「どうしたんじゃ流星?」


 キッカがやってきて俺はバタンとドアを閉めた。


「いや、なんつうか作り込まれてんなってさ」


 ん?っと首を捻るキッカの肩を叩き俺も中へ。内部は4人が寛げるくらいには広く、高峰がベンチに腰掛けていた。


「あれ?ルフさんは?」


「サポ収納に入れた。高いとこ苦手っぽいからな。全く性能差がねえつってんのに変な性格つけてんだな。ヴァラパラのサポーターってのは」


「確かにな」


 それから俺達はひと時の遊泳飛行を楽しんだ。何だかアトラクションのよう。流れる雲をふおおおっと窓に張り付くキッカ越しに見ていれば館内放送が鳴り響いた。


「エーマジェンシーエーマジェンシー。ロシュー発見、ロシュー発見」


「あれか?何かヤバそうだぞ」


 高峰のいう方をキッカと共に覗き込めば家ごと空を飛ぶロシューが攻撃を受けているのが見て取れる。どんどんバラバラになって残骸が飛び散ってゆき、彼もまたポーンっと外に投げ出されてしまった。


 のじゃっとキッカが悲鳴を漏らせばグオンっと機体が揺れ動き俺達は慌てた。


「ロシュー危険。ピューイ急行。艦内の皆様、シートベルト無 踏ん張って」


「ちょっ」


 急旋回からの急下降。俺達は悲鳴を上げながら横壁に激突した。ぐちゃぐちゃになったが俺は上に見える扉でピューイが引っ繰り返ったのだと理解した。そしてそこを抜けるようにロシューがスポっと落ちてきてPTリーダーだからか俺に直撃した。


「ぐへっ」


「ロシュー回収。ミッション達成」


「君たちは……それにその声ピューイなのか?」


 彼は驚き退くと、俺に手を差し出してくれたがそれを掴んで肩を貸す。


「アンタの妹に頼まれてきた」


「そうかコウカが……情けない。あれだけ大見栄を切って私はまた落ちるところだった。ありがとう稀人。それにピューイも来てくれたのか」


「ロシュー恩人、ピューイ救助。当然」


 感謝を伝えるようにロシューが撫でて、それでもさっきのはやり過ぎだと高峰は軽くピューイを小突いてからロシューに疑問を投げた。


「それで?モグラ王子。あれに飛び込む気らしいが平気っつうか。それで解決すんのか?」


「問題ない星が教えてくれた。あれは攻撃ではない。始祖たちが最後の願いを託しその手を差し出しているに過ぎない」


「町がぶっ壊されてたけど?」


「その手自体に攻撃性があるようなものだ。彼らは待っている。彼らの願いであった空を飛びあの場に到達できるモグラがくることを」


 ここまで聞き役になって黙っていた俺だが我慢できなくなってロシューに聞いた。


「なあ、あんたらが星、星っていうのはやっぱり」


「君たちはもう私の過去。アドラーの事も見たのだろう?その通り。アドラーが言ったように私たち土竜族の魂は上に上がる習性をもつ。そして遥か天空で漂っている。その記憶のようなものを星によるものと勘違いしたのだろう」


 まあ星になっているのだから強ち間違ってはないがなとロシューは苦笑した。


「のうロシューや。わしはコウカとお主を生きて戻すと約束したのじゃ。お主まさか死ぬ気ではあるまいな」


「稀人、僕は死ぬ気はないですよ。僕……私はあれを鎮めた後でやらねばならないことがありますから」


「なら、わしは全力で助力するのじゃ。お主もじゃろ?」


 流星と聞かれ勿論と首を振ればピューイもと彼も混ざろうとする。


「ピューイも!助力!即時到着!目標!全速前進ー」


「桂木俺は嫌な予感がしてきたぞ」


「俺もだ高峰」


「のじゃ?」


「「うああああああああああ」」


 ピューイが急加速して俺達は揃って悲鳴をあげた。稀に振動が起きて攻撃されているのが伝わってきたが気に掛ける余裕がない。ジェットコースターに似てる。俺は転がりながら窓からスチームタイタンにもう迫っていることに気づいた。


(マジか)


 突進。ピューイはスチームタイタンの目の中に突き刺さるようにして止まった。当然、振動はとんでもなかったと言っておこう。もしこれが現実だったら絶対死んでいた。


「いってえええ」


「痛くはないけどな。そう言いたくなる気分だよまったく」


 悪態をつきながら起き上がり、再びロシューに肩を貸してやった。


「すっすまない。しかし、空を飛ぶというのも言うほどいいものじゃないな」


「全くだ」


「はー怖かったのじゃ」


 ピューイが開いてくれたのか自動で扉が開き俺達は外に出た。


「すっげえ」


「どうなってんだこれ」


 高峰は言葉をなくし、俺は気になって仕方がないと地面を軽く押す。ロシューは知っていたせいか一番冷静でキッカは目をキラキラさせていた。


「凄いのじゃ!雲の上に乗っておるのじゃ」


 そう、スチームタイタンの内部は雲でできた大地。それ自体が輝いているのか囲まれているというのに闇がない。それどころか粒子のような煌めきが時々チラついている。俺はあれが土竜族のいう星の輝きなのではとちょっと思った。


「変な感じだな。こいつは下にあった煙が固まってるつー判断でいいのか?」


「なあ高峰」


「ん?」


「これ似てねえか?」


 俺は掬いとってみるが消えてしまった。


「似てる?あーだから下の白靄だろ?」


「いや、じゃなくてあのオープニングムービーで俺らが見た。最初にドラゴン撃ってた皇帝みたいな奴のシーン。あいつが乗ってた戦艦が出てきた雲に」


 強い既視感があってすぐに思い出せた。俺は言うが高峰はピンとこないようだった。いや、それがどうしたって感じか。


「あー似てるっちゃあ似てるか?でも、このゲームの雲の描写そうってだけじゃね?大体一緒だろこういうのは。ほら、ささっと進んじまおう」


「ピューイ」


 ロシューの声に俺達は止まる。彼はピューイを大事そうに抱えていてそのピューイは目のランプを明滅させていて明らかに様子がおかしい。キッカがそれを心配そうに見つめている。脳裏に泣きじゃくる彼のマスターの姿が蘇る。


「ピピ……エマー……じぇんシー……ピューイ限界、メイン浸食率60%突破。ロシュー落として。ピューイここから落として。それピューイ願い」


「何をっ何を馬鹿なことをいっているっ」


「ピューイ呑まれる ピューイ忘却 忘却嫌 ピューイ 忘……れる 嫌 ロシュー マスター 記憶 失う 嫌」


 愕然とした顔でロシューは腕の中の彼を見た。


「ピューイまさか君は」


「ピューイ、元土竜……ピューイ星見える ロシュー一緒 マスター一緒」


「私はっこのために君を助けたんじゃないっ」


「知ってる 理解 ロシュー優しい ロシュー……マスター時間……くれた だからロシュー 助ける ロシューお願い 思い出 消える 落として 落として」


 くっとロシューはびっこを引いて入口である雲の崖に向う。俺は支えるため加わろうとしたが光の壁に阻まれて進めなかった。見届けろということなのだろう。ロシューは崖際に立ってピューイを掲げた。


「感謝……あり……がとうロ……シュー」


「君と出会えたから私は挫けずここまでこれた。礼を言う。ピューイ、君の事は忘れない」


「ピューイ 忘却しない だから…… 逝く さよなら ロシュー さよなら」


「あ”つ」


 どうやらピューイが何かしたようだ。痛めたようにロシューが手を離しピューイはモードモールへ落ちていった。ロシューは叫ぶことなく崩れ落ちてじっとそれを見届ける。ポンっと俺達プレイヤーの元にトロフィーが届けられた。それは、さよなら マスターというタイトルだった。


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