天上の戦乙女と咲中夜桜
ネタバレ回避したかったけれど、シナリオフラッグに向う者達の雰囲気でボス戦があると分かってしまった。んでもって高峰はもうその全容を聞いていたようでウズウズしていた。
「なあ、もうこれ言っていいか桂木」
「別にいいよ、ってかもう大体分かったし防衛戦だよな」
「正解」
「防衛戦?防衛戦とはなんじゃ?」
勿論、無視せずキッカに教えてやる。
「防衛戦っつうのはプレイヤー側に守るものがあってそいつを防衛すれば勝ちっていう特殊ルールみたいなもんだな」
「色々あるんだぜ。バズタルを守れとか敵を範囲内に入れたら負けっとか。動く雇い主を護衛しろっとか」
「極稀に絶対倒せないだろこいつって敵を作って耐えろみたいなのもある」
「あーあるある。ただ、俺はあんまり好きじゃねえなそれ。やっぱ倒せねえとスカっとしねえし」
高峰らしい解答。彼はぐっと伸びをして再び口を開く。
「でよ。何でもここの表ボスは2PT12人挑むらしい。流石に4人じゃ無謀だ。桂木、あいつらは呼べねえのか?何てったっけ?的?」
「マアトの天秤な。一人具合悪くしてるからすぐには無理だな。やるとしても待たなきゃいけない」
「そっか。で残念ながらだ桂木。俺の方にも心辺りがちょっとなくてだな。こりゃヤバいって話をお前としたかったわけだぜ」
「ヤバいって別に野良あるだろ?」
所謂ランダムでマッチングシステムがあるだろっていえば彼はルフさんに雑用事をさせながら言った。
「俺ら4人を受け入れてくれる野良か?」
「あ」
いかん、完全に抜けてたと俺は固まる。
「ぬ?それって駄目なことなのかの?」
「絶対にダメじゃねえけど、マナー違反ではあるな。負けたら確実に俺たちのせいにされるぜ間違いなくな」
「まーぶっちゃけ俺らがやってることは縛りプレイとか舐めプだ。見ず知らずの人と組むコンテンツでやることじゃねえ」
だが、ぐぬぬである。
「おっその顔はフルパでやることにご不満って感じだな。俺もだぜ。ここまで来てってな。ルフはどうだ?お前もこの面子でやりたいよな?」
「私は……マスターの言葉に従うだけです」
顔を逸らすように言うエルフサポータールフに高峰はガッカリ目の息を吐いた。
「あーんだよ。俺がそういう設定のものにしたとはいえこういう時に盛り下がっちまうな。俺サポ変えようかな。ミスったかもだわ」
その言葉にルフはぶるっと震えたが彼は何も言わなかった。
「なあ桂木」
「ん?」
「時間かけて探せばPTは見つかるだろうができれば俺は早く進みてえ」
「それは俺も。今日中に裏までクリアが目標だな」
「だったら、ささっと一通り知り合いに頼んでみて無理なら今回は諦めてサポ抜きでいかねえか」
まあこの高峰の提案は至極真っ当なもの。サポーターはあくまでプレイヤーの代用品である。でもと、俺は不満げなキッカと当然だと受け入れるルフさんを見て思う。やはりこいつらと共に結末を見たいと。いや、見なきゃいけないとすら感じる。これはもうただの勘なのだけれど。
「とりあえずその辺は保留にしてお互い掛けちまうか」
高峰が同意し俺たちは連絡をとりまくった。結果、一人が引っかかる。それは柊さん──俺達が組むことになったのは彼女が今所属する『天上の乙女』というPTだった。
◇◇◇
待ち合わせ場所は俺が指定した。そのためカフェである。そして今、その天上の乙女の面々と顔をつき合わせているのだが固まる俺に高峰が耳打ちしてきた。
「なあ、桂木一つお前に言いてえことがある」
「不可抗力だ」
柊さんがちょっと遅れているので計5人。そう、天上の乙女はその名前通り全員女の子だった。ってことで俺達の前には女の園が広がっている。
一人目は白髪ショートの男装の麗人を思わせる女騎士、二人目はミディアムショートの溌剌とした僧侶、髪色は黄緑。3人目は根暗な黒髪魔法使い。
そして4人目は武器屋でもあった魔物大好き世迷迷子であり、5人目はそいつらのリーダーですって言わんばかりに真ん中でふんぞり返るピンク髪の女性徒。彼女は俺達が気に入らないのか無言でガンを飛ばしている。
ピンクは高峰やキッカと同じくらいの背丈でアイドル級の容姿を持っているものの目つきが悪かった。どこ情報かは知らないがかつて太一は言っていたピンクは腹黒であると。
「おい、桂木やっぱお前絶対女の子ばっかに声掛けてるだろ?」
「断固不可抗力だ」
そう反論したものの自分でもちょっと女性との出会いが多いなって思う。女子が嫌いってわけじゃないのだけれど、やっぱ男友達も欲しいのだ。
まあ、男だらけになると結局女子の話ばっかりになったりするものだけど。
(次の国、積極的に男子に声掛けるか)
そんな自分でもよく分からない決意を俺が新たにしていれば柊さんがやっと姿をみせた。
「ごめんなさい。ちょっとガワ依頼されちゃって。挨拶はもう終わった「ちょっと!テトラ!これは一体どういうことよ」」
バンっと机を叩き、柊さんを遮って中央ピンク髪が立ち上がる。いきなりなことに柊が目を瞬かせた。
「どういうことって要求を呑んでくれそうなPT探してって貴方が言ったんじゃない。咲」
「確かに言ったわ。ああ言った」
でもっと言葉を切った咲と呼ばれたピンクはギっと俺達を睨みつけビシッと指をつきつけた。
「こいつら男じゃない」
「男ね」
「しかも二人っ!」
「二人ね」
淡々と返す柊が座り、ピンクが顔をぐっと寄せるが頬を抑えて止められた。
「テトラ、貴方!私が大の男嫌いって知っててこんな狼藉をぐにゅぬぬぅー」
「はいはい分かったから近寄らないで。咲の男アレルギーは知ってるけど貴方の要求なら別にいいって思ったのよ」
「確かにあれなら関わりはしないわけだし、いいんじゃないか咲」
そう入ってきたのは白髪女騎士。話が見えないと俺と高峰は顔を見合わせる。キッカはお菓子に夢中になってやり取りガン無視。
後、ルフさんは高峰のサポーターケースの中だ。黄緑僧侶がいいじゃんいいじゃんっと言うが咲がぶるぶると頭を振る。
「駄目よ駄目!だってよりにもよって!よりにもよって!あの高峰がいるじゃない」
「え?何?お前ら知り合いなのか」
俺が驚きと見れば高峰が嫌そうな顔をしていた。
「アイツはAクラスの咲中夜桜。昔、ちょっと別ゲーでな。ってかラヴェルの学生は有名ゲーやってたに決まってんだから顔なじみは多いぞ」
何か誤魔化した感があったが、まあ今はそれよりもと高峰に俺は耳打ちする。
「なあ、お前の知り合いなんだったらこれ高峰が呼び寄せたもんとしてカウントしていいんじゃね?お前が前に出て纏めるべきじゃね?」
「おい、さらっと押付けようとすんな。俺は声掛けてねえだろ」
「俺だって柊さんに声掛けただけだぞ。よく考えたら慧木さん時もお前いたし、俺は道化で女の子集まり気味なのは実は高峰説あるぞこれ。俺中学の時全然モテなかったし」
「別に桂木がモテてるなんて一言も言ってねえだろ」
「は?お前それ酷くね?」
「お前が言ったんだろ!「ちょっと聞いてるのアンタ達」」
見れば机を叩いたピンクが怒っていた。どうやらガン無視してしまったらしい。いえ、聞いてませんでしたと二人で言えばこれだから男はと彼女は怒り俺達を見据えた。
「貴方たちとPT組んであげてもいいわよ。ただし」
といって彼女が叩きつけたのはこのドガティスの町の地図──そこが闘いの場になると彼女は晒し、ペンで真ん中に一本の線を引いた。
「PTはこの線で完全に分離。互いのPTは絶対に干渉しないこと。それが私たち天上の戦乙女からの条件よ」
◇◇◇
結局、彼女達が出した条件を呑むことに決めた俺達は別れ戦闘前になったら互いに連絡するという形で落ち着いた。
その後、アドレスを消すって言ってたので彼女の男嫌いは筋金入りのようだ。PTが決まった俺達は再びストーリー場所に向い、ルフさんと高峰が俺たちの前にいた。そのタイミングを見計らったようにキッカが俺に話しかけた。
「のう流星や。ああいうのはよくあることなのかの?」
「ああいうのってのは条件付けのことか?」
「うむ」
「流石に干渉すんなってのはあまり見ねえけど、例えば宝箱で一番優秀なアイテムは俺が貰いますみたいなんはよくあるし、むしろそういうのは最初に決めとかねえと揉めたりするな」
だからPT戦では戦う前に条件を話し合うのは結構当たり前だ。後だしで条件を出し合うと地獄をみる。
「あやつらは見下しておった。特にピンクの」
「見下してた?」
そうだっけかと俺は思ったがキッカは言う。
「テトラから聞いた。あの者はあのPTでやって行くために力を測りたい経験を得たい。だからどうしてもあの条件でやりたがっていたと。じゃが、あやつは頭を下げるどころか頼もうとすらしなかった。わしらが少数でサポーター二人を連れておったからじゃ。PTが組めない者達と判断し、どうせ受けるじゃろうと高圧的に条件を出しよった」
バグバグとお菓子貪ってるだけと思ったらめっちゃ見てる。成長の余地があるといったが何だろうこの感覚。娘の成長が自分の思ってた軌道を描かなかった感。まあ俺は父親経験とかないんだけども。
「のう流星、何故人は人を見下すんじゃ」
難しいことを聞くと俺は思う。当然、高校生の俺に完璧な回答なんて用意できない。ぶっちゃけ俺が教えて欲しいくらいである。
「俺は心理学者じゃねえから全くの見当違いになるかもだけど、VRMMOを通して俺が感じたことでいいなら言えるかな」
「それでよいのじゃ。教えて欲しいのじゃ」
「VRMMOをやってると人を見下す奴とはビックリするくらい出会う。それこそ現実で優しくしてくれた人が見下してきて衝撃を受けたりとかな」
始業式での理聖の姿を一瞬脳裏に過らせて、俺は言葉を紡いだ。
「だから、MMOにはそうした感情を剥き出しにしてしまう力があるって俺は思ってる。現実よりも力を得やすいからこそその優位性で人を殴り快感を覚える。エグい話をするとその欲求を煽って金を稼いでるのがVRMMOってジャンルだ」
「人が人を見下す欲求は人本来誰もが持っているものじゃと……お主はいうのじゃな」
「俺だって装備自慢してたろ。そういう気持ちが自分にあるって認めた方がいい。自覚すれば人は抑えられる。備わってるつってもコントロールできないわけじゃない。そういう輩に出くわしたら他人の事はほっとけ。付き合えないと思ったら離れればいいって俺はVRMMOやってるかな」
「成程の、やっぱり聞いて良かったのじゃ」
クシャクシャっとキッカの頭を撫でてやる。
「まあでもそう考えるとVRMMOって人を観察するに適した場所……」
途中で言葉を止めたのはそこに引っ掛かりを覚えただけではない。空から煙をたてて何かが降ってきていたからだ。
「何じゃあれは」
地図で確認し俺は虚空を見据えた。
「キッカ話は終わりだ。ストーリーに入ったぞ」
浮遊国家ドガティスのストーリー佳境。スチームタイタス防衛戦へ俺達は入ったのだ。




