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司法レアとスローターズハイ

 ストーリーはそこで一度区切りがついた。少し衝撃的過ぎたこともあって高峰と相談し明日続きをやることに決めた。ダンジョンにでも籠ろうかと考えたところでマアトの天秤から呼び出しが入り、俺はその店へ急行した。


「のじゃー久しぶりじゃのう結よ」


「おっきたなーキッカちゃん。何やえらい可愛い装備着せて貰ってるやん」


「遅いぞ流星」


 新見さんと太一が席に座って待っている。またしてもカフェ。何かマアトはこのゲーム全てのカフェ店を網羅しそうな気がする。柊さんもいて彼女は目で挨拶しカップに口を付けているところだった。


「悪い悪い。この後、一般とダンジョン潜るんだよ。その挨拶しててさ。ってかナズナは?」


 ナズナがいないとすれば少しだけ新見さんの顔が曇った。


「んーそれがナズちゃん倒れちゃってんよ」


「倒れた?現実で?まさかゲームで?」


 パンドラボックスがプレイヤーの異常を検知すれば基本的に強制ログアウト。その場で倒れる時は相当具合が悪い場合が多い。そうやって周囲のプレイヤーに知らせる仕組みになっていた。


「ああ、心配あらへんよ。貧血っちゅうか。なんや高所恐怖症みたいらしくてな。ほら、丁度流星君が今やってるところで気やってしもてな」


 ああっと納得する。空から転落するシーン。実際、俺も怖かったしあそこはちょっとやり過ぎでプレイヤーから文句でるんじゃねえかとも思ったくらいだ。


「大したことなさそうで良かったの」


「まあそうだな。心配は心配だけど」


 一応、後でナズナにメールを送ることを決めて俺達も座ってメニューを開き注文する。キッカが一番高いものを選ぼうとしたのでガっと掴み、ここまでと指で示す。彼女の頬はプクーっと膨れていた。


「ってわけでなうちら一旦、ストーリーは中断してダンジョン籠ることにしたんよ。やっぱここまで来たら一緒にやりたいし」


「そういうことナズたん待ち。っつってもこのゲームはコンテンツ豊富だから全然苦じゃないけどな」


 ふーんと俺は届いたこの国限定商品ドカモカをストローで吸い上げつつ聞く。


「ってかお前ら一緒にやってたんだな」


「私は違うわよ。この三人だけ。迷子って子のPTに入ってる。桂木君は見たわよね」


 武器屋で会った大人しそうな顔の女の子を思い出し頷く。柊さんと俺が付き合っていると勘違いしたあの子だ。モンスター情報集めるのが好きとかどうとか。


「うちらは色々あってな。PT解散したりとかあって結局集まったんよ」


「つってもフルパだぞ。Eクラスの連中に3人入って貰った。ほら、レイド戦やった時に二人いたの流星も覚えてるだろ。あいつらあいつら」


「あー」


 いたなって思う。申し訳ないが名前が覚えられない女子生徒と男子生徒。凄く失礼だがちょっと地味目。彼らは同じクラスとはいえ知り合いではなさそうだったがあれが組むキッカケになったのだろう。


「でや、本題進もうか。うちらが流星君呼び出した理由はこれや」


 そうやって差し出されたのは古い紙を丸めて糸で結んだもの。あれだ。宝の地図を彷彿とさせる。


「おお宝の地図かの」


「ちゃうちゃう。これは設計図や」


 そう言って新見さんが机で広げれば、土竜族が土に描いたような詳細な剣の設計図が現れる。ガギア・ブレードと名の入ったそれは一本の黒刀だった。


「へえ見た目はともかく凄そうだなこれ」


 設計図にもランクがあるようでCとなっていた。


「設計図は八蛇炭鉱でドロップするアイテムでな。その町で売ってる武器よりも強力なもんが作れるんや」


「剣職一番多用するの流星だろってことでこれはお前にな」


 おおっと手を伸ばしそうなのをぐっと堪えた。


「いや、固定PT組んでないわけだし。いらないなら売るべきじゃ」


「なんやほら売った方が効率ええかもやけどこういうのって昔のMMO思い出すやん。流星君もうちらに良さそうなんあったら回してくれるって条件でどうや」


 確かにすっごい思い出す。


「初めてとった大剣でツレと一緒に進んだなー。回復なくてすぐに詰んだけど」

「俺は仲間に作って貰ったな。暫く、それずっと使ってて」


「流星それくっそ弱かったやつな。はやく装備変えろって皆に怒られてたやつ」


「うちもプレゼントされたの捨てられへんで倉庫一杯なのに大事にしてたわー」


「わしは流星に買ってもらったのじゃ」


 ふぁーっと俺たちが昔の記憶で楽しんでいると柊さんがぼそっと呟いた。


「ふーん、そういうのって楽しいものなのね」


「……」


 俺達は揃って憐れむように彼女を見た。


「なっ違うわよ!友達少なかったからとかそういうんじゃないから別に!というかキッカ!貴方がその顔するのはおかしいわよ絶対」


 ハアハアっと取り乱す柊さんを落ち着かせる。


「まあまあテトたん俺が何か見つけてやっから」


「うちテトラのために誕生日に何かプレゼントするからな」


「柊、お前に見合う上位眼鏡俺が必ずゲットしてやる」


「のじゃ」


「皆揃って……桂木君に関してはぶっ飛ばすわよ」


 和気藹々としつつ俺は有難く彼らの好意を受け取る。


「じゃあ、これ貰うな。必ず何かの形で返すよ」


「ええでええで気にせんで」


「一応言っとくけどそれ私は作れないからね」


「そうなのか?」


 ぶっちゃけ柊に頼もうと思っていたが残念だ。


「それ、先行してる人じゃないと作れないようになってる。学生じゃ厳しいかもだわ。ギルドで依頼できるそうよ。それができたら話していたそれ用のスキン作ってあげる。素材はとってきたのよね?」


「マジで助かる。渡しとくよ」


 プレイヤー同士の道具の受け渡しはメニューから押すだけで相手に移すことができるが取り出して受け渡すことも可能だ。俺は鉱石を柊に手渡した。


「流星それどこにあったんだ?俺らも探しててさ」


「えっと第二トンネルだっけかな。場所はナズナが知ってるはず」


「じゃあ、ナズちゃん復活したらやな」


「そだな」


「あっせやせや。後、職人解放で設計図が出るようになって、ここのストーリークリアーで基板ってのが出るようになるらしいわ」


「あーやっぱりか」


「ネタバレになるからあんまり言わんけど、それが相当ヤバいらしくてな。今掲示板発狂してるで」


「ってかあいつらいっつも発狂してね?」


「新情報が祭りみたいなもんだしな」


「このペースで情報出てたら彼ら死ぬんじゃない」


 あり得るかもと笑い合う。そんな感じでストーリーの感想を言い合ったりして楽しく時間を潰した俺達は別れた。俺はナズナにメールを送り、やることを終わらせて最後に武器を作るために鍛冶場を覗いた。


(今すぐには無理だよな)


 高度な武器を作れる職人は大人気。どこで依頼しても時間とお金がかかる。余りにも欲しくなってワンチャン空いている凄い人がいないかと見に来たわけだが


「まあいるわけねえよな」


「何がいるわけないっすか?」


「いい設計図が手に入ったから職人探してんだけどさ」


「あー野良ってことっすか。そりゃまあいないっすよ。諦めて正規ルートから依頼した方が早いっすよ」


「だよな」


「それでどんな設計図なんすか?」


「ああこれ……」


 人ごみが嫌ということでキッカは収納に入って横にはいない。だったら自分だれと話してんだ?って見れば相手は一度だけ始業式前に会った人物だった。彼女は俺からひったくるように設計図を取った。確か名前は──


「し……なんとかさん」


「女の子の名前忘れるとか減点っすね。司法レアっす。底辺君」


 そういって銀髪の女学生がニタリと笑ったのだった。


 司法レア。幼馴染、理聖のPT『千里の風』のメンバーだったかと思う。彼女と俺はここまで一切の絡みはない。


「出会ったのは偶然じゃないっすよ。ずっと底辺君を付けてたっす」


「付けてた?俺を?」


 何故と思ったがその理由はすぐに彼女から明かしてくれた。


「現状把握と一度話してみたかったっす。理聖っちが気にするプレイヤーを」


「アイツが俺を?理聖の奴は」


 どこにって問いを予想してたと言わんばかりに被される。


「理聖っちならもう次の国に入ったっす。次はとんでもないっすよ。洒落にならないほどプレイヤーが強化される。どんどん差がつくっすね。底辺君は随分ゆっくりみたいっすけど大丈夫っすか?」


「それは大丈夫さ。すぐ追いつくって」


「どうやって?」


 挑発するような声色だったが俺はカラッとした態度で答える。


「そりゃあれだよ。次から本気だす」


「本気?まさか今までは本気じゃなかったとかいう気っすか?」


「だな、多分俺まだゲームで本気出せたことねえし」


 真顔で言えば司法はその笑みを深めた。


「へえ……それはもしかして引っかかりを覚えてたみたいなことっすかね?」


 的確だと思って俺は彼女の言葉に頷く。


「そうそう!説明できねえけど、このゲームなら自分の思い描くものが表現できる気がすんだよな。だからきっと俺は出せると思う」


 それがこれまでのプレイではじき出した答えだった。きっとこのヴァラパラなら俺に応えてくれると。俺は既に確信した。


「成程。スローターズハイ」


「ん?スローター?ハイ?」


 ぼそっと司法が呟いた聞き慣れない言葉に首を捻れば彼女はトンっと前にジャンプした。そして俺に振り返り彼女は指を立てる。


「ゲームで強者となる方法には色々あると言われてるっすけど、現状大きく二つに分かれてるっす。一つは凄く分かりやすい。ただ単純に最速でゲームを進めること。これはスキルや数値を上げ切ってから長く修練を積む方がいいという考え方。加えてアイテムや資金なんかも膨大に取得できるっすからその恩恵に預かろうとする準廃が大量に付き従い、団体としての戦力もアップする」


 まあうちら『千里の風』みたいなもんっすねといい、彼女はそしてと続けた。


「もう一つがゆっくりベタ足のように進むプレイヤー。ほとんどのプレイヤーがこれに当たり多くのプレイヤーが雑魚としか言いようがない。けれど、極稀にそんな亀みたいなプレイングの癖にハイヒューマンに至る者が出る。こいつらには前者と比べると金もスキルも装備も揃っていない。なのに恐ろしい深度をもって前者の物量と拮抗。そして時に勝利する。このスローターズハイと呼ばれる存在には良く分からない奴らが集まるってのもとある筋では有名な話しっすね」


 うむ、話が長すぎて入ってこない。そしてコイツ早口だ。


「よくわからねえけどお前が物知りってのは分かった」


「そして総じて頭のネジが外れてるっす」


 今すっごい馬鹿にされた気がすると睨めば彼女はフっと鼻で笑った。


「まあこれで理聖っちが慌ててるのも何となくわかったっすかね。あーそんなに怒らないで欲しいっすよ。お近づきの印としてこれ私が作ってあげるてもいいっすから」


「マジでか!!」


 俺が反応すれば司法さんは口元をひきつらせた。


「意外と底辺君は現金なんっすね」


「いやだって目の前に装備あったらすぐ持ちたくなるだろ?」


「まっその気持ちはわかるっすけどね。素材は出してくださいっすよ?」


 勿論っと俺は彼女に渡しつつあれっ?と思った。


「ってかお前って職人っつうかエルフ目指してんのか?」


「じゃあ、お近づきの印にもう一つ教えてあげるっすかね」


 そして司法は俺にこういった。私の目指しているものは全ての種族の高みだと。

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