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再利用と落下

 土竜の城は技術の結晶。まさにスチームでパンクな作り。ライトは魔道具によって補われ、電気がない代わりに機械仕掛けにフルスロットル。


 まさにそんな感じだった。カチカチカチっと音を立てるギア仕掛けの廊下をツバの大きい魔女帽子を目深に被ったロシューが進む。


 宮仕え達がロシューの姿にぎょっとし、その正体に気づき慌てて頭を下げる。やがて彼が辿り着いたのは途轍もない仕掛けが施された扉。


 そこは明らかに異質で周囲から浮いていた。彼がノックを行えば、一人でに鍵が開き向かい入れるように真ん中からガタンガタンと開かれた。ロシューはそのまま入ろうとしたが帽子が引っかかり彼は手に持って入室した。


「誰だ」


 年齢を感じさせる低い声。城の中であったはずなのに庭園のように草花が咲き乱れ大量の書物と実験道具そしてゴーレムの頭が転がっていた。


「ロシューです。アドラー様」


「ああ、次代の王か。それとももう王であったであろうか」


 最初のムービーと欠片も変わってない老齢土竜。流石エルフの血の引くアドラーはその特徴を表しているのか植物を模した杖を持ち、茨の冠を付けていた。


「まだ父は健在ですよ。私は今日、立太子となります。ここへはゴーレムを受け取りにきました」


「そうであったか。年を取り過ぎると時の感覚がわからんくなってな」


「ずっと籠りきりと聞きます。もっとご自身を労わり下さい。貴方なくして土竜族の繁栄は無かった」


 ロシューは帽子を置こうとし、薄汚れたゴーレムの頭を見つけた。


「これは廃棄ゴーレムですか?アトラー様は収集家と聞き及んでいますがこんなものまで集めていらっしゃるのですね」


「時々、一度宿ったものにも精霊が住むことがあってな。まあ小さな網のようなものよ。掛かればよいくらいのな」


「網ですか……アトラー様、精霊とは何なのでしょう?」


「わからぬ」


「アトラー様でもわからないのですね。私は時々怖くなるのです。どうして彼らが土竜族を助けてくれるのか。ゴーレムの中にいる何かは一体何なんだろうっと。そういうものだと散々教えを施されてきたというのに私はどうやら臆病なようです」


「王子よ。確かに精霊の正体は不明。だが、わしらは魔法も精霊の力を借りて行使する。精霊よと問いかけることで力を使えることになっておるが、実際のところ何故そうなっているのかまだ誰にも分かっていない。でも使える。なら使うべきものは使うべきだ。使わずにやっていけるというならまだしもな」


「そうですね。その通りです。変な事を言ってしまってすいませんアドラー様」


「ふっよいよい。若者は悩むことも仕事の一つ。さあ、王家の者専用のゴーレムだったか。此方へ来なさいロシュー王子」


「はい」


 アドラーに付いていこうとしてロシューは思いついたかのように帽子をボロボロのゴーレムに被せた。チカチカとゴーレムの目が輝き、ロシューは少し笑った。そして振り返ろうとしてピタリと止まる。彼はもう一度ゴーレムをじっと見つめた。ギィギギギィギっと口が開き、それは掠れ切っていたけれど、確かにゴーレムから出た声だった。


「ろ…・・・しゅ」


 と。眼を見開いて止まるロシューにアドラーが聞く。


「ロシュー王子?どうなさいました?おお!おおおおおおっ!!宿ったか。間に合った。研究は成功だ。これで猶予が」


 熱に絆されたようにゴーレムに伸ばされるアドラーの手。それをがしっとロシューが掴んだ。


「ロシュー王子?」


「アドラー様……貴方は精霊の正体がわからないと言った。それは本当か?」


「わ「本当なのかと聞いている!?」」


 王子の剣幕にアドラーが固まった。ロシューは振り払うように手を離すと壊れたゴーレムに庇い立つ。


「アドラー答えよ。王子としての命令だ。答えよっ!!!」


 彼の様子でロシューが理解したと気づいたアドラーは軽くギリっと歯を鳴らし、王子ロシューに呻いた。


「何故、分かったのだ」


「母だ。あれは死んだ母だ。一体どういうことだこれは」


 これにアドラーも驚いた。


「馬鹿なっ何という奇跡。いやっ違う。これはまさかっ」


 バっと上を向くアドラー。そこに誰かいると言わんばかりに虚空を睨む。


「何故、母が壊れたゴーレムの中にいる。申せ、その訳を申せっ」


「お前は次期王子。では遅かれ早かれ知ることになる……か。いいだろう。答えてやる。ロシュー王子お前が今考えている通りだ。ゴーレムの中にいるものそれは精霊ではなく、土竜族の魂。王家と私はこの事実を隠蔽している。土竜族繁栄のために」


「馬鹿な」


 フラつきガタっと机に手をついた。そしてロシューはハっとする。彼は気づいたのだ。死者とゴーレムの数が見合わないことに。


「貴様っアドラー一体、何人の土竜族を殺したっ」


 いきり立つロシューをアドラーは鼻で笑う。


「成程、あの愚鈍の王とは違うらしいな。王子私は一人たりと土竜族を手に掛けたことはない」


「嘘を申すなっ。計算が合わぬ。今やこの国に何体のゴーレムがいると思っている。何体のゴーレムを捨て去っていると思ってる。長くこの国で戦争は起きていない」


 自らの想像にブルっとロシューが震える。


「魂の再利用だ」


「魂の再……利用だと」


「魂土竜族の魂には死んだ直後地中に潜り、そして天に上る性質がある。何故かはわからん。我らが星々となるように。それとも別の理由があるのか。だから我らは飛んだのだ。戻ってくる魂を得るために」


「何という」


 恐ろしいものを見る目でロシューがアドラーを見るが彼は不満げに返した。


「一応言っておくがこれの発案者は私ではない。発案したのはお前たちの先祖だ。エルフの血を引いた私は守り人に選ばれただけのこと。お前は若いからわからぬだろうが本当に沢山死んだのだ土竜族は。こうするしかなかった」


「だとしてっこの生活が先祖の礎に乗ったものだっとして。次代の者達がそれを継がねばならぬ道理はない。ましてその道理を知らされもせずに」


 確かにと頷きだがと頭を振った。


「王子もはや土竜は後戻りできぬ。下に漂う靄は魔物ではなく、魂の残滓。あれに意思はなく肉体を求め彷徨う粒子。土竜族は襲われ狂ってしまう。そして仮に通り抜けたとしても地上の生活にもはや土竜は耐えられぬ」


 アドラーはすっと手を差し出した。


「さあ王子。それを此方に。それは大切な研究結果。モグラが飛び続けるための翼なのだ」


 ロシューはぎゅっと抱きしめ、アドラーを睨む。


「父王から許可は頂いている。王妃の魂も、彼の魂も使ってよいと」


 ロシューの瞳孔が揺らぐ。


「これは次代の王となるお前も守らねばならない王家の掟。ロシュー、土竜族の繁栄のため」


 バっとロシューは逃げ出した。もし俺が彼なら同じ行動をとっていたかもしれない。きっと頭は真っ白だろう。


「兵士よ王子を捕らえよ!!最悪、殺しても構わん」


 いきなりの命令に兵士たちは混乱していたがアドラーは英雄。彼の方が権力があるのだろう。兵士たちがロシューを追いかける。逃走劇が始まった。


「兄上?」


 コウカ姫とすれ違いパウゼル隊長とも言葉を交さずに彼は駆ける。城を抜け、彼は国の端っこまで辿り着いた。いや、追い詰められた。バシュっと矢がいられロシューの足に突き刺さる。彼は縺れるように地に倒れ伏した。


「何をしてるか貴様ら!!王子であらせられるぞ何を考えている。これは一体どういうことなのだ」


 パウゼルが吠え、兵士が混乱した。今だとロシューは立ち上がったが、そこで彼はやっと気づいた自分の手の中にあったゴーレムを落としてしまったと。


 そこは坂になっていた。コンコンガンっと転がるゴーレム頭をロシューは足を引きずりながら追う。


 そして母の魂が入ったそれはまるで神の悪戯であるかのように2人の町人の元に転がってしまったのだ。


「痛っ何だこれ、ん?ゴーレム?」


「汚ねっオイル漏れてやがるぞ。お前の背中ひっでえ」


 ケラケラと笑う仲間に男は怒りを露わにした。


「くっそ誰だよこんな所にゴミ捨てやがったのは」


 と彼が蹴るモーションに入ったため


「やめ「ゴーレムが潰れたら下に廃棄しろ。それがこの国の習わしだろうが」」

 止めろおおおおッとロシューが叫ぶが、ガッと蹴られた母の魂は地へと落ちてゆく。


 ぎょっとなった町人をロシューは突き飛ばすようにして下を見た。既に見えない。完全に落ちてしまった。


「ぐぅううううう。あああ”」


「てめえなにす「おい」」


 っと男を止めて仲間の男性が彼に耳打ちした


「よく見ろ。こいつ怪我してる。荒事だ巻き込まれねえうちにいくぞ」


「ちっ何だよ今日はホント碌な事がねえ」


 ロシューは泣いた。外聞も無視しさめざめと泣いた。彼を追った者達が彼の元に辿り着いたがその余りの悲痛さに誰一人として王子に近づくことはできなかった。


 やがて泣き止んだロシューはゆっくりと顔をあげてドラティスの町を見た。その光景を見ることがまるで最後と言わんばかりに。


「兄上」


 コウカ姫は馬と手綱を握り締めながら様子のおかしい兄に聞いた。ロシューはまるで憑き物が取れたかのような晴れた顔をしていた。


「コウカすまない」


 そう妹に謝罪した彼は崖際に立った。止められる者はいなかった。


「ドラティスの国がこの手段でしか立ち行かないというのであれば……私は……いや僕は喜んでこの国のゴミとなろう」


 妹と悲鳴と共に力を抜いた兄、王子ロシューは地に落ちる。彼が墜落してゆく光景と共に歌詞が少し変わったあの曲が流された。

 ◆───-- - - -            - - - – --───◆

 ドガティス ドガティス つちモグラ

 お前ら一生 土を掘れ

 お前ら生涯 岩を掘れ

 穴ぐら籠れよつちモグラ お前ら神に作られた

 そうなるように作られた

 沢山沢山鉄を得て 更に配って つちモグラ

 土から出るなよつちモグラ だからその手はでかいのさ

 神は落ちろと申される 落ちろ落ちろと申された

 ◆───-- - - -            - - - – --───◆


 徐々にロシューにカメラが迫り彼の視点になった。真っ逆さま──やがて地面が迫ってきて。


(まじかっ)


 衝突の瞬間暗転したが、流石に目を瞑ってしまった。ダーンっという発砲音が頭の中で響き思わず息を漏らした。


「っつ!?」


「どうやらお戻りになられたようですね」


 話しかけられバっと意識を戻す。全員衝撃を受けたように態勢を崩していた。そんな俺達にコウカ姫が聞く。


「これが土竜族の過去であり、兄ロシューが下に落ちた経緯となります。稀人様どうでしたでしょうか。見た感想は」


「悪い……今はマジで一個しかでねえ。なんつうゲームだよ、こいつは」


 高峰が言いそうな見も蓋もない発言。でも、今はこれこそがあっていると俺は感じる。このメタ的要素をふんだんに含むゲームには。これが一番……。

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