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土竜族の過去とパウゼル

「何が面白いんだよ桂木」


「のじゃ」


 独り言のつもりだったがどうやら聞かれてしまったと俺は頬を掻く。が、説明しなきゃ彼らが納得しなさそうなので仕方なく姫さんに待ってもらうことにした。


「えっと、引き受けますけどちょっとこいつらと相談してもいいですかね?」


「うむ、稀人様にもいろいろあるんじゃろう。それではわしらは」


「あっ一瞬で済むんで、そのままで」


 そう言って4人で部屋住へと移動する。


「ってか桂木、お前さっきから言葉遣い変じゃね?」


「婆ちゃんとか目上の人には敬語使えって親から言われてんだよ。んでわけわかんなくなった」


「目上ってお前……NPCだろ?」


 まあそうなんだけども躾られてもはや癖なのだ。


「いいだろ別に。ほらさっさと説明すっから。まずこのゲームで一番変わっていて面白い点がどこかって言われたら、俺はプレイヤーをプレイヤーとして捉えてるところって答える」


「流星が流星?ぬ?わからんのじゃ」


 キッカが首を捻り、ルフさんも気になるのかあからさまに耳をそばだてていて、サポーター組の反応がちょっと面白い。


「キッカとルフさんは言っても分からないかもだけど、他ゲーだとその世界の種族として始まったり、現地人だったり、大抵その世界の住人になりきりになる。だから『地球』とか『遊び』なんてワードはまず出てこない。ここまでプレイやーアバターをプレイヤーとして捉えた世界観はVRMMOではヴァラパラが初めてってわけだ」


「それで?」


 若干前のめりになった高峰の姿に苦笑する。意外と考察も好きそうだ。


「このゲームのライターはメタ的な要素を当たり前のように出してくる。それを含めてシナリオを構築してる。稀人はゲームとしてここに遊びにきてますとかな。ストラージュではそうだった。だったらこのドガティスもそうだろうって話。で、そうなるとだ。さっき話に出た定められた過去って奴がどんなものなのかが見えてくる」


「もったいぶらず早く言ってくれなのじゃ」


「そうだぞ。お前はそういうところがあるぞ桂木」


 謎に意気投合するちびっ子に俺は軽く息をつく。


「はいはい分かったって。例えば、運営がテストで行ったプレイ。そしてもしかしたら他のプレイヤーが行ってるシナリオプレイ。あいつらが見てるのはそういう映像だってことを表現してえんじゃねえかってな」


 だから、彼らは定められた過去なんていう奇妙な言い回しを使った。


「ってことはだ。この基板につまってるのはプレイ記録ってことか?」


「多分な。んでもっと言えばこのクリア報酬がアルカナハート。このシナリオをクリアしたらその閲覧権が新しく解放されるってことなんじゃないかってさ」


 そうなると一体どうなるのか。既に気になって仕方がない。だから俺は面白いと言ったのだ。ちなみに最速プレイヤーが既にその情報を流し、掲示板が大騒ぎになっていたことを俺達は知らない。


 さて、そんな軽い余談を終えた俺たちは揃ってストーリークエスト受諾を押した。すると石が輝きだし、コウカ姫が掲げてくれとお願いする。


「準備ができたら掲げて下さい。それで土竜族の過去が星々が見せてくれるはずです」


 俺達は頷きあって掲げる。すると光が満ち、何年前かはわからない。作られたであろう過去へと俺たちの意識が飛んだのだ。


 ◆───-- - - -            - - - – --───◆

 ドガティス ドガティス 

 我ら楽しく 土を掘る

 ドガティス ドガティス

 我ら喜び  岩を掘る

 穴ぐら大好きつちモグラ 我ら神に選ばれた~

 ◆───-- - - -            - - - – --───◆


(またこの歌か)


 八蛇炭鉱で聞いたものと同じ曲がまた流された。ライト付きヘルメットを被った土竜族がせっせ、せっせと穴倉の中へ入ってゆく描写が流される。彼らは崩落で死に絶え、仲間の死を泣き叫んでいる。


 とった鉄は多種族に買いたたかれ、そして星を見てタロットカードで占う様が映し出された。


 土竜族は長い爪で地面に幾つもの想像を描いた。機械仕掛けや飛行船、そして空飛ぶ城。詳細な設計図まであったが多種族は笑いそれを踏みにじった。


 涙する土竜族。そこに一人の老い耄れモグラがやってきた。彼はラヴェルの校長マグドールのような長い白髭をもっていた。


(アドラー)


 俺はそれが話に出たアドラーだと理解した。エルフの血を引く長寿のモグラ。彼の横にはスチームゴーレムがいて土竜族達に一歩歩み寄るとぽーっと蒸気機関のような音を放った。


 土竜族は見合っていたが一人の子供モグラが彼に飛びついた。ゴーレムはその子を肩に乗せ、一歩踏み出すとキラキラと子モグラの目が輝きだす。


 時間経過を表しているのだろう。その子供がグングンと成長してゆき──


 次の瞬間、彼らの視界の先で城が持ち上がった。空に浮かび上がる国ドガティス。その光景を見てある者は涙し、ある者は崩れ落ちた。


 そしてそこに沢山のスチームゴーレムたちが連れ添い、彼らを頭の上に乗せた。多種族はあんぐりとした顔でその光景を見ていた。


(なんで国を浮かそうって思ったんだろうな)


 彼らに空への憧れがあったのか、それとも何か理由があったのか。まるで空を飛んでいるかのようにカメラが動き、土竜族繁栄の様子が映される。そして、王城。窓から入るように俺の意識はある一室に辿り着いた。


 一人の少年モグラがいた。絢爛な衣装を纏い、でも頭にはあのでか帽子を被っている。それが無くても一目でわかった。土竜族は年齢で余り容姿が変わらないのだろう。


(ロシュー)


 ドガティスの下に住む土竜。ロシューだった。彼は何だか不満げでブスリとし、傍にいた小さな女の子がクスクス笑っている。きっと彼女がコウカ姫なのだろう。


「似合ってるわよロシュー」


 聞いた事のない声。穏やかな女性の声に振り向けば女土竜が立っていた。続くロシューの言葉でそれが誰であるか判明した。


「ふざけないでください母上」


 そういって彼は帽子を母に投げつけ、キャっとコウカ姫が驚いていた。


「こんなものを着て外へ出たら僕は民から笑われてしまいます。僕は王子なのです!次代の王なんです。こう兜とかそういうものじゃないと僕は成人の儀に絶対出ませんからっ」


 そういってズンズンと出て言ってしまったロシューに母モグラは肩を竦めた。

「全く……鎧ってあの子弱いから着た事ないじゃない。ホントいつまで経っても子供っぽいまま。僕も使うの止めなさいって言ってるのに。そっちの方が恥ずかしいわよ。ねえ、コウカ」


「うん、でも私お兄ちゃん大好き。お母さんも大好き」


「まっ兄妹揃って甘えん坊かしら」


 ぎゅっとコウカを抱きしめて彼らはとても幸せそうだった。


 それから年月が過ぎる描写が入って、ロシューの部屋に窓から入った。彼は手にあの帽子を持っていてそれを捨てるかどうか悩んでいるようだった。そこに慌てた衛兵が入り、彼の耳に何かを話した。


 聞いたロシューは真っ青になり衛兵を突き飛ばして走りだした。今更だがこの時の彼は歩けたようだ。


 音は聞こえなかった。でも何が起こったのかは理解できた。


 彼の母親がベットに寝そべりピクリとも動かない。病気だったのか、事故だったのか、襲われたのかプレイヤーには分からない。


 けれど、コウカ姫が泣き崩れ、父親だろう王冠をつけた土竜がぐったりとしていた。メイド達も涙を流し、一歩一歩とロシューは母に近づいた。


 彼は母に手を伸ばそうとした。けれど彼の爪が母を傷つけてしまうと気づきその手をゆっくりと戻した。ボタボタと床に涙が落ちて、彼は膝を折った。何も聞こえなかった。


 けれど、ごめんなさいと彼がそう言った気がした。


 暗転し、切り替わって再びロシューの部屋に意識が送られた。結構経ったようだ。花の枯れ具合でそれがわかった。


 彼の見た目は変わっていなかったが、王子のような服を着て何だかカッコよく見えた。あの帽子が壁際に飾られていた。コンコンとノックされる。


「入れ」


 入ってきたのはあの隊長さんだった。


(名前はなんだったか……パウゼル?)


 流石に一度会っただけのNPCの名前なんて覚えられない。まあでも合ってるはずだ。


「ロシュー様、アトラー様がお呼びです。後継の儀でお披露目となるロシュー様のスチームゴーレムが完成されたと」


「分かったすぐ向かう。しかし、これで私も立太子か」


 ロシューの一人称が変わっていた。母のいいつけを守ったのだろう。


「おめでとうございます、ロシュー様。ロシュー様が王になられればきっと土竜族も安泰でしょう」


「おいおい気が早いぞパウゼル。まだ父上には頑張って貰わねばならん」


「王は……王妃様が死んでからまるで抜け殻の……あっいえっ!なんでもありません」


 ちょっとわざと臭かったがロシューは怒らず肩を竦めるにとどまった。


「確かに変わられた。だが、我らは敵がこない空にいる。気に掛けるのはダンジョンと化した八邪洞窟と下界の霧くらいだ。父でも安泰さ」


「ですが降りれなくなってもう2年です。早く討伐しなければ」


「魔物の仕業と言われているが実際に相対したわけではなく商人が大きな黒い影を見ただけなのだろう?研究者どもが答えを出すまでどのみち動けんさ」


「しかしっ」


 勇みかかったパウゼルの肩をロシューがポンと叩いた。


「分かっている。だが、慌てる必要はない。多種族に短いと言われたこの足でも前に進みモグラが空にまで到達したのだ。そうだろ?」


 はいっと渋々下がったパウゼルを見て何を思ったかロシューは帽子を手に取りそれを被った。


「え……ロシュー様。まさかそっその姿で出られるおつもりで?」


「変か?」


「えっとその」


「構わん。私もそう思うからな」


 きょとんとしたパウゼルに理由を説明せずロシューが部屋を出る。ここから彼は転落することになる。まるでお前の場所はそこだと言わんばかりに。


 運命に定められると言わんばかりに。まあ高峰ばりに身も蓋もないことを言うとするならそういうシナリオなのだ。

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