アルカナハートと定められし過去
悩みを心にしまって、俺は高峰たちとのプレイに心を切り替える。ストーリーを進めるには地図に記された場所にいけばいい。ベーターには無かった要素だが追加されたようだ。
指定されたのは商店街。その一角に辿り着けば背後から大声が鳴り響いた。
「エマージェンシーエマージェンシー」
「うおっビビんだろうがっ!五月蠅えな」
「そういやこいついたんだったな。吃驚した」
「驚いたのじゃ」
うん、こいつの存在をすっかり忘れてた。物語に入ったことでスチームゴーレムのピューイが復帰した。急に出現したのでルフさんが目を丸くしてる。まだ高峰から彼はしっかりとした説明を受けていないようだ。
「エマージェンシーエマージェンシー」
「あー煩い煩い。どうやったら収まるんだよこれ。なあ桂木」
俺に言われても困る……が、確かに警報のように騒がしい。何だか興奮しているようにも見える。どうして急にと思ったがその理由はすぐに判明した。小さな女の子のモグラが駆け寄ってきたからだ。
「ピューイ!!!」
「マスター!ピューイ歓喜ピューイ歓喜」
女の子がピューイをひしと抱きしめたことでやっと俺たちは自分たちの目的を思い出した。
「そういえばそもそもそういう話だっけかこれ」
「ロシューからのお届けクエストだな。色々あって俺も抜けてたよ」
俺はストーリークエの達成の印がうたれる中でピューイと女の子は互いに心を通わせているとばかりに鼻を擦り合わせる。でも、これはきっと珍しいことなのだろう。そう描かれていた。このシナリオを書いた見えぬ作者の手によって。
◇◇◇
「すいません稀人様にこんなものしかお出しできなくて」
「いえ、おっお構いなく」
俺達はお礼として女の子の家に案内された。女の子の名前は明かされなかったので重要キャラじゃないということなのだろう。彼女の両親から持て成しを受けているのだがやっぱりモグラなのでちょっとシュール。
高峰もそう思っているのか対応を受ける俺をニヤついて見ていて気が散ってしゃあない。俺の前で彼女の母だと語ったモグラが腰を折った。
「本当にありがとうございました。ピューイはあの子にとって初めてのスチームゴーレムで思い入れも強く、ですが事故で下界に落としてしまいもう無理だと」
そして引き継ぐように気弱そうな夫モグラが口を開いた。
「お恥ずかしながら、うちには新しいものを買ってやる余裕もなく、娘は塞ぎ込んでしまっていて」
「貴方そんな家の事まで恥ずかしい」
「ははっ稀人様には嘘は通じないと聞く。本当の事を言った方がいい。言いふらしたりなんてしないさ」
「……ん?なんじゃ?何でここで全員わしを見るのじゃ?」
いや、ごめんキッカ。ちょっと揶揄いたくなってしまったのだ。異議ありじゃっとするキッカを軽くいなしていると夫モグラは無かったかのように続けた。
「スチームゴーレムは私たちにとって体のようなもの」
そういって彼はグラスに手を伸ばした。爪に当たりコテンと転がる。
「御覧の通り我々の指は太く爪が長く。グラスを持つこともままなりません。ですから幼少期からゴーレムに慣れることは大切なことなのです」
「この土竜族がこの営みを送れるのもアトラー様のお陰」
「アトラー様?」
名前が登場する者は基本的に重要だ。俺が聞けば奥さんが教えてくれた。
「とても偉大な技術師です。土竜族でありながらエルフの血を引くアトラー様は古くから土竜族の未来を案じておられました。そして彼はスチームゴーレムという体を私たちにお与えにくださったのです」
「其のお陰で我々は頭の中の事を再現でき、土竜族の悲願であった空にその手が届いた。というわけですね」
「私たちの祖先はよく多種族から頭はいいけど何もできない愚図って煽られたそうですよ。酷いものです。ねえ貴方」
「言わせておけばいい。我々モグラは空にいる」
そこにテッテッテっと女の子がやってきた。彼女は大事そうにピューイを抱え、息を切らす。
「おっおとうさん、おかあさん」
「どうした?そんなに慌てて」
「へっ兵士さんがっ家に」
俺達が反応するよりも先に兵士たちが入ってきた。そして遅れて入ってきた翡翠の鎧を纏った隊長らしきモグラ。そのモグラが俺達に告げる。稀人様姫様がお呼びですと。
またしても移動。そして連れられたのはギルド二階。そこには入口で出会ったコウカ姫とオババと呼ばれていた初老のモグラが待っていた。隊長モグラが傍に控え彼女達との話し合いが始まる。
「良かったです。まだ彼は気づいていないようですね」
「それだけ……ということでしょうな」
「でしょうね」
頷き合う二人。いや、勝手にそっちで納得しても困ると俺は口を挟む。
「彼?」
「この国の大臣アトラーです」
アトラーついさっき聞いた名だと高峰が伝える。
「アトラーっつうとさっき話に出た奴だよな。技術師でゴーレム作っただっけ?」
「はい、その通りでございます稀人様。彼がこの国を羽ばたかせ、王無き今この国を治めているのです。彼は現状を良しとしている。そこに運命を変えうるであろう稀人がきたら」
「襲われるが必定ということかの」
キッカの言葉にコウカ姫は頷いた。考え込む俺にオババが話しかける。
「そちらの難しい顔をされてる稀人様はどうやらこう考えておられるようじゃの。だったら何故、最初に我らがその事を伝えなかったのかと」
「えっと、はい」
オババが口角を上げ、彼女の皺が深まる。その横でコウカ姫が胸に手を当てた。
「まず私は稀人様方に謝らねばなりません。実は私は貴方方が来ることを予期しておりました。星の導きによって」
「っつうことはお前らは俺らを騙してたってわけかよ」
「そうなりますのう」
「何故ですか?」
俺が問えばオババはカードを机に置き、それをすっと押し出した。それはナズナが使ったものと同じアルカナカード。
「運命のアルカナ逆位置ですじゃ。土竜族の星占いではこれを良くもあり悪くもあり運命が傾くままにと説きます」
「正直に言いますと我々にもわからなかったのです。この現状を維持するべきなのか、それとも打破すべきなのか。乱すことによって悲惨な未来にならないのか。だから委ね……そして理解しました。貴方方稀人には不思議な力がある。でなければ、このタイミングでアトラーが籠るわけないのですから」
「そりゃまあ俺らプレイヤーだしな。そう進むようになってんだろ」
高峰が身も蓋もないことを言ってしまうが、オババも姫もそれを気にすることはなかった。
「稀人とは定められし運命を動かすもの。姫様」
「そうね……初めから信じるべきだった。兄が送った人たちなんですもの」
「兄?」
「ロシュー様はコウカ姫様の兄君。この国の皇太子であらせられた」
ここであのもぐら隊長が会話に混ざってきた。
「パウゼル稀人様にあれを」
「はっ」
どうやらパウゼルという名らしい隊長は丁寧に保管された箱を開きながら声を漏らすように話しかけてきた。
「稀人よ、一つだけ聞かせてくれ。ロシュー様はご健在であられたか?」
「足は悪くしてたけど元気は元気だったよ」
「そうか……もうお戻りにはならぬのだろうな」
そういって取り出した不思議な輝きを放つ紫のバズタルをパウゼル俺達に渡す。
「おお綺麗じゃのうー」
目を煌めかせたキッカにコウカ姫がクスリとし自らもその宝石を掲げた。
「これはアルカナハート。土竜族が生み出す最高と謳われる結晶です。これがあれば貴方方も定められし過去を見ることができます」
「定められし過去?」
変わった言い回しに聞き返せばやっぱりオババが答えてくれる。何か婆さんが俺担当みたいになってきた。
「我ら土竜族に未来を見通す力はないのですじゃ。ですが、時折未来が過去として星が我らにか語り掛けてくることがあるのですじゃ」
「必要なものがございます。それが今やダンジョンとなった八邪坑道で出土する。これ」
そう姫が新しく取り出したものを見て高峰がその正体を呟き洩らす。
「汚えけど基板か?それ」
緑色のプリント基板と言われるものだった。最近では使われていないと聞くが百数年前の地球では電子機器になくてはならない主要部品だったと伝え聞く。
「おおお、アトラーもそういっておったのですじゃ。わしらにはサッパリなんじゃがのう」
「私たちがこれに星読みを使えば未来が過去のように語られる。ですから我々もロシューも貴方方の到来を予期することができた。星々は言っています。稀人を基板に触れさせろ、基板に稀人を触れさせるなと。その声は半々ですが」
と彼女は俺に基板を差し出した。
「多種族の方にこれをお見せするのは勇気がいりますが、我々は貴方方に土竜族の過去を見て貰う決断を下しました。稀人様どうか見ては下さいませんか?」
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ストーリークエスト「運命の天秤」
コウカ姫様がアルカナハートを使い土竜族の過去を見てみないかと提案した
承諾 拒否 報酬アルカナハート
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ドンと俺たちの前に現れるクエストボート。そして俺はクエストを受ける前に呟いてしまうのだ。
「おもろ」
っと。




