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福笑笑福と慧木麒麟

「くわあ」


 っと現実で欠伸をする。完全なる寝起き。ボサボサの髪で移動。


「あ”-」


 あの後、ナズナと別れてキッカとギリギリまでレベル上げしたので脳がトロトロである。最下荘の瓦礫を避け歩きながらフラフラと行けば珍しい人に遭遇した。いや、ゲームでは会ったけど現実ではという意味で。


「え?慧木さん?」


 金髪に碧眼という日本人離れしたその容姿は健在だがモノクルを付けずまた彼女の制服姿は新鮮だった。彼女は俺に用があると言わんばかりにペコっとお辞儀をしたのだった。


「何だ別にいいのに」


「そういう訳には参りません。こういう事はキチンとしなさいと母に教わりましたので」


 俺と慧木さんはC組の食堂へ向かって歩いていた。何でもピン差しのお礼をしたいとのことだ。当然、断ったが頑なだったため受け入れることにした。


 うむ、確かに女の子とばっかいる気がする。色男とか言われたからこっそり気にした。しかし、ヤバい欠伸が……


「ふわあ」


「大分お疲れのようですね。桂木さんは」


「んーギリギリまでレベ上げしてたから、コンテンツあり過ぎて予定が詰め詰めだし」


「あれからずっとインされてたのですか?」


 マジマジと見つめられて何だか彼女の眼にモノクルがあるかのようだった。ゲームの動きが現実に出てしまうのもVRMMOあるあるである。


「だな。でも皆そうさ。狂ったみたいにやってる」


「そうですね。少し怖いくらいです。どこまで嵌りこんでしまうんだろうって、そして現実を忘れてしまわないかって」


 確かにVRMMOってどこまでいくんだろうって思う。どこまでもどうこまでもリアルになって、それでもゲームという枠に収まり続けるんだろうか。


「慧木さんはちょくちょく落ちてた感じか?」


「いえ、恥ずかしながら私も熱中してしまいまして」


 はいっと彼女に渡されたものを見て軽く目を剥いた。鑑定士がLV10になってる。何度も言うが補助職を上げるのは大変だ。


「げーマジかこれ」


「ふふっクラスの人がおっしゃっていたようにLV10から世界が変わります。鑑定士レベル・テンのスキルは「マギア・ヴィジョン」。その効果は未来視です」


 そう彼女は笑って俺も取りたくなるようなことを言ったのだ。これは補助職も上げたくなったと俺は頭を抱えた。


 7区に分かれた一つの商業地区。そこがCクラスに当てられた彼らの生活場である。寮の名前は中間荘。まあクラス分けに意味がないと判明したとはいえ、Cらしくて分かりやすい。


 商業地区には他区とは比べものにならないほどの沢山の物品が販売されていて、これは学内通貨ラヴェルコインで購入するものだ。何で採算取れてんのって質問はなし。それは学生達の間でも永遠の謎になっているから。


 食堂はF達の女子が羨むだろうなってほど綺麗で、朝早いこともあって食事をとっている生徒達は疎らだった。慧木さんと俺を見てひそひそする生徒もいて何か照れる。

 そして更に恥ずかしながら俺は慧木さんに奢って貰う。断ったが彼女は俺が折れるほど頑なだった。


 選んだハムエッグトーストを持って先に待っていた慧木の前に座る。そんな俺を見て慧木さんが目を瞬かせた。


「そんな少しでよろしいんですか?」


「十分だよありがと。ゲームで食うとどうもお腹が空かないんだ。実際動いてないしさ」


「しっかり食べないと体に毒ですよ。私たちは成長期なんですから」


「ああ……ってか慧木さんは食わねえの?」


 そういう慧木さんのものがないっと聞けば彼女は少しもじっと指を合わせた。


「食べますよ。私のは持ってきてもらうので、あっきたようです」


 そして店員二人かがりでドンっと置かれたそれに目が点になる。


「慧木さん、ナニコレ」


「スーパードガ盛り豚カツ定食焼肉上乗せプラスプラス、海鮮チャーハン豚骨ラーメン付きです」


「ごめん何て?」


「スーパードガ盛り豚カツ定食焼肉上乗せプラスプラス、海鮮チャーハン豚骨ラーメン付きです」


 聳え立つ料理という名の塔を横から覗き込むように俺は彼女の細さを確認し、女の子って不思議だなーっと再認識するのだった。


 それから軽く談笑して、俺達の食事会は終わった。


「あんがとな慧木さん。美味かったよ」


「あんなものでよろしかったでしょうか」


「十分だって。ただ、もし次があったらこういうのはなしでいい。逆に気使ってしんどいわ」


「では次があったらその分も今のと合わせてということで」


「んーん?よく分かんねえけどよろしく」


 クスクスと笑った慧木さんがそれではありがとうございましたと丁寧に礼を言って別れようとする。俺も振り返ろうとしたがふと思い出して彼女を呼び止めた。


「慧木さん」


「はい?」


「アイツって元気か?ほら、一緒にレイド戦やった。福田としみちとかいうちょっとポチャっとした奴。同じCだったし知り合いだよな?俺はあんまり離せなかったけどそういえば会ってないなって」


 C組のふくよかな体を持った少年。レイド戦ではあまり話せず、気づけば死んでしまっていた。それから一回も会っていない。


「福笑?えっと……誰のことでしょう?私はそんな方存じ上げないですし、確かCは私一人だったはずでは?」


「え?」


 まさかの急転直下。楽しい食事会が冷えたものに変わった。たった一人の福笑笑福という名によって。


 ゲームにインした俺はドガティスのストーリーを進めるため高峰との待ち合わせに向った。彼と合流しても気分は乗らない。そりゃそうだ。もっとヤバい案件で頭がいっぱいなのだから。


(あり得ねえだろっどうなってる)


 ログを見ると慧木さんのサポートがあのレイド、厄災グレゴアで戦ったことになっている。だが、俺は慧木さんのサポーターを見た記憶だってない。けれど、あの場にいたほぼ全員が否定したのだ福笑笑福の存在を。


(俺の記憶違い?んな馬鹿な)


 そして何故か覚えているものが一人だけ。有栖川には確認が取れなかった。


「のうどうしたんじゃ流星。はっ!?まさか昨日ナズナと何かあったのか!?二人でイチャコラとか絶対に許さんのじゃ」


「なあキッカ。さっきも聞いたがレイド戦に福笑がいたってのは覚えてんだよな?」


「またその話かの。あの太っちょの奴じゃろう?あんまり話さんかったし、竜騎士を相手取って忙しかったからの。どうなったかは見ておらんのじゃ」


 何で俺とキッカだけ覚えてる?意味わからねえと軽く髪をもしゃっとやる。


「おい!桂木!何ちんたら歩いてんだよ早く行こうぜ」


 痺れを切らした高峰の声に顔を上げればご立腹な彼とその横にすっと付く彼のサポーターエルフのルフさんが此方を見ている。


「なあ高峰、お前福笑」


「あ”-またその話しかよ。覚えてねえっつうか絶対お前の勘違いだって。他の奴らも知らねえって言ってんだろ?PT組みすぎて何かの闘いとごっちゃになってんじゃねえか?」


「はっ覚えておらんとはチビだけでなく頭の中まですっからかんとはの」


「何だとこのチビ助」


「なんじゃあ」


 お馴染みとなった喧嘩を始めた二人。それを見てこっそり溜息をつくルフさんを見つつ俺は思考を回す。


(キッカと一緒に考える?いや無理だ。キッカは現実を知らない)


 何よりキッカには純粋にゲームを楽しんで欲しいという気持ちがある。なら誰に相談するべきか一人だけ心当たりが浮かんだ。


(年玉)


 あのハイシルフを目指す少年ならば何か見出してくれるかもしれない。彼の言葉が頭の中で蘇った。


 ”いいかい桂木。僕らは見張られてる可能性がある”


(なら、御影先生の授業で揃った時だな)


 それまでは棚上げする。多分、一人で考えても無駄だろうから。下らないオチを期待しよう。俺は福笑笑福の名を振り払うように高峰達の元へ駆けたのだ。


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