八蛇炭鉱と土竜族の唄
ドガティスのダンジョンに八蛇炭鉱と名が付けられたのは単純に8つの入り口とその道中が細く長いからと言われている。ただ、蛇の方にはもう一つ意味が含まれていると入口前にいた土竜族が教えてくれた。
ここを掘り進めた土竜族の祖先達は過去、沢山の落盤事故に巻き込まれその命を落としたのだそうだ。それがまるで蛇に呑みこまれたかのように見え……ここは八蛇炭鉱になった。
そんな話を聞いたせいで若干足取りは重くなったが、それでも大口のような入口に俺たちは辿り着いた。入ろうとすればダンジョン紹介ムービーが始まり、こんな歌も流される。
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ドガティス ドガティス
我ら楽しく 土を掘る
ドガティス ドガティス
我ら喜び 岩を掘る
穴ぐら大好きつちモグラ 我ら神に選ばれた
沢山沢山鉄を得て 更に繁栄 つちモグラ
我ら土モグ 鉄を取る 我らは沢山鉄を得る
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「変な歌」
「そうだな」
地図を表示させて俺は確認する。俺とナズナが入ったのは第2炭鉱区で攻略によれば数字が増えるほどにその難しさが増すとのこと。ただ、4以降はその全容は全く分かっていない。メインルートが一本の横長だが、小さなルートが無数に枝分かれしており簡単に最奥に辿り着けなくなっている。
雑に言えば行き止まりの多い迷路。坑道内は薄暗いためプレイヤーはランタンに火を灯して移動する。
「流星ここの魔物は岩系が多くて物理が効きにくい」
「了解。っつっても俺魔法のビルドは微妙だな」
各ジョブに設定されたレベル。それがかなり歪なものになり始めている。かといってバランスよく育ててそれが強いかと言われれば微妙。ただ、PTには誘われやすくなるだろう。
「私が占星術師と魔法で火力を担当する。占星術師の力はエンチャント。流星の力に魔法を宿らせる」
「マジか。試してえけど今回俺は守備的に回った方がよさそうだな」
「うん、エンチャントによる攻撃はここぞってピンチの時でいいと思う。攻撃した後が怖い」
「だな」
「後そのランタン」
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炭鉱ランタン 魔道具 効果時間 3日
プレイヤーの周囲5mを照らし暗闇を払う
設置すると簡単に倒れない ダメージによって破壊される
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俺は手元のランタンを見る。オレンジ色の光。ギルドで言われたので予備もちゃんと購入してる。あのモグラ商売上手いのだ。
「これ?」
「それ。それが要になるって。暗闇を深める魔物が出たり、闇の中で強化される奴がいたり、その光で輝いて場所がわかるのとか」
「へー」
面白そうだ。ってか本当に作り込まれてて感心する。雑な敵を適当に設置できるVRMMOも少なくないってのに。
「1PT二つまで、広い場所ではその設置が鍵。行こう流星」
「ああよろしくなナズナ」
◇◇◇
新ジョブ占星術師──その戦闘方法は独特だ。某デュエリストのように必ず2枚タロットカードをドローする。名称は現実で占いに使われるものと同じ。まあよくゲームで利用される。
「カードアルカナ 逆位置っ愚者」
タロットには正位置と逆位置が存在する。正位置はバフ(味方能力上昇)で逆位置がデバフ(敵能力値下降)と思って貰えれば分かりやすいだろう。
今ナズナが叫んだ愚者は逆位置なのでデバフというわけだ。カードは立てた二本の指に挟み場所を指定する。ナズナ曰くサークルが出るようで、その輪の中で効果が発動する。
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コークスクラブlv8
炭石を背負った蟹。意外に素早くハサミに挟まれれば拘束される
極稀に希少鉱石を背負った個体が現れ高く取引される
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俺の目の前にいる石を背負ったカニのような化け物の動きが遅くなる。薄っすらと光の輪が見えるがあれが効果範囲。あの内に入れば味方である俺もデバフが掛かってしまうためその際に立つ。
(占星術師は完全上級者向けだな)
これPTの仲間にデバフ掛けて絶対怒られる奴である。最悪、敵にバフを乗せてしまうし初心者は厳しいだろう。
とはいえ、また戦闘に幅が増えた。もう技の組み合わせを考えるだけでパンクしそうだ。
(最終的に何職あってどれだけスキルの組み合わせがあるんだろうな)
「っと」
ガーディナーの盾で俺は蟹のハサミを受けたが手がしびれた。攻撃力が相手の防御よりも極端に低いとこうやって表現される。それでもジャストガード。相手の攻撃に合わせて完璧なタイミングで盾を突き出せば弾くことができる。
青いエフェクトと共に態勢を崩した蟹を見届けて俺はトンっと横にジャンプした。すると丁度今俺がいた場所を雷が抜けた。
「紫電纏いし精霊よ 我が願いを届け 死魂の鐘を打ち鳴らせ 雷鳴低位ライトニングベル」
皆この呪文を多用するのはやっぱり使い勝手がいいからだろう。パアンっと打たれ引っ繰り返った蟹に向って俺は大きく足を踏み出し──
「盾術6式ジオ・グラビティー」
スキルによる重みを得て踏みつぶしたのだった。
コークスクラブ。そのドロップアイテムを確認しているとそこに呆れたナズナの声が飛んだ。
「ねえ流星、さっきのスキルの使い方あってる?」
「ん?合ってるよ。ナーフされたからあんな状態の敵にしか使えねえけど」
「ナーフされる前は?」
「威力上乗せに使った。水龍と闘う時に。かなり現実に即したルール設けようとしてるんだよなこのゲーム。重さに威力乗せてる時点でさっと」
ポイっと投げた黒い石をナズナはキャッチした。
「なにこれ」
「普通に石炭。多分素材だと思うけど一人一個な。碌なもん落とさなかったな、アイツ固いだけだわ」
「あ」
「ん?」
「流星、写真!写真撮ろう」
そういえばそんな約束を彼女としてたと思い出す。
「終わってからの方がいいんじゃねえか?こういうのって」
「ううん、今がいい今!」
一体どこで買ったのか三脚付きのカメラアイテムを取り出し設置したナズナ。
(メニューにカメラ機能あんのに。まあいいけど)
ピっとボタンを押して早く位置についてポーズとナズナ言われ仕方なく彼女のように石炭を持った手を突き出すが。
「いや、これおかしくね?」
「これでいい。ありきたりなのよりずっと」
パシャっと俺は何故かナズナに変な写真を取らされることになる。しかも周囲が暗く明かりが炭鉱ランプだけだったので糞不気味になったと言っておこう。
白色の神殿。町各所にあるこの無人の神殿は名を死蘇の生還所といい、死んだプレイヤーが飛ばされる復活場である。ほんの少し意識を失った演出を受けたプレイヤーは花畑の上で目を覚ますのだ。
ガバっと俺が身を起こせ花びらが舞い、隣にいたナズナと顔を突き合わせた。そう、俺達はあの後すぐやられてしまった。
「死んだな」
「負けた」
「見えたか?」
俺がそう聞けば彼女は困ったように眉を歪めた。
「一瞬だけ……ムカデ?」
「多分な。顔は二つ見た。二匹いたのか一個体なのか。ありゃユニークだな」
まさに秒殺。ランタンを壊され一つに集まったところをやられた。暗闇からいきなり顔を出してきたかのようだった。余り稼げなかったが無事必要素材である鉱石はゲットしている。まあ柊さんに作って貰うのはガワだけなので肝心の装備がないけれど。
「残念終わっちゃった」
「また今度やればいいだろ」
活動限界が迫っているので今日は流石に終わりだ。うん、今度といったナズナが若干寂しげだったのだけがほんのちょっと気に掛かった。ゲームなんだしまたやればいいのだから。




