職人と占星術師
柊達と別れ、慧木さんにピンを指した事を伝え、高峰と日程を決めながら俺達が次に向かったのがドガティスのギルドだった。基本的に迷ったらギルドに行けばいいってのが運営談である。
「うげえ混んでんなー」
全サーバーこれ。こればっかりは一般開放されたので仕方がない。ちなみに、一杯だと弾かれる。それでもぎゅうぎゅうづめになるよりはマシ。
昔、容量限界まで入れてしまったVRMMOがハラスメント・コードの相乗効果によってプレイヤーを壁にぶち込んでしまうというとんでもないバグを発生させえらいことになった。
まあそれ実は俺が中学にやってたライフストリームの話なんだけど。
「入れるようじゃぞ」
「キッカ」
「うむ、後での」
キッカと相談してここに来るときは収納させて貰うことにした。大丈夫だとは思うが、こういう場所は荒っぽいプレイヤーも集まりやすいのだ。無駄な揉め事を避けるのもMMOを楽しむコツの一つだ。
ぎいいっと中に入れば炭鉱っぽい雰囲気を出したギルドと沢山のプレイヤーそして土竜族に出迎えられる。
混雑で苛立っているのか窓口で怒鳴ってる人がいたり、ダンジョンにいってきた机にぶちまけた金貨を数えるPTがいたり、依頼をじっと睨めっこしてる魔法使いがいたり
(なんかすっげえな)
ホントに異世界に来たみたいである。俺は受付に並ぶ、こっちはあんまり混んでない。ぶっちゃけメニューからも受付嬢と話せるから当たり前だけど。担当は頬に傷のあるモグラ。渋めの声で男だった。
「お前はここ初モグか?」
語尾がモグだった。ちょっと威圧的で、何か敬語になってしまった。
「初ですね。一応ストラージュの方はいったけど」
「冒険者登録はモグ」
あっと思った。そういえばそんなのあったと。
「やってないです。忙しくて説明も多分聞いてなかったっけな」
「冒険者にはランクがあるモグ。ランクを上げると上位のクエストが受けられるようになるモグ。それに高位だといいNPCに依頼を受けて貰いやすくなるモグ。プレイヤーに依頼を出す時もそれで大体の実力を図るといいモグ」
「成程」
プレイヤーがプレイヤーに依頼を出すってのは割と面白いかもしれない。
「依頼アイテムはこのギルドでしか取引できないアイテムモグ。なので通常のアイテムは買った方が安いモグ。依頼アイテムは取得した瞬間プレイヤー名義が入るモグよ。依頼を受けていた場合のみ白紙のアイテムが手に入り、依頼プレイヤーに渡される仕組みになってるモグ」
「つまり、報酬を貯めて受けまくるってのは無理ってことか」
俺が言えばそうだと受付担当が頷いた。
「受注者には必ず受けて貰うモグ。そして評価はAIによって下されるモグよ」
「ほうほう。それは入り得?」
「年会費が掛かるモグ。上に行けば行くほど高くなるモグ」
何か結構考えられている気がする。取りあえず一番下は大した額じゃなかったので俺は入会手続きを済ませた。
すると鉄の腕輪が渡される。
「それは冒険者ランクを表す腕輪モグ。S~Fで稀人はFからモグ。それで相手がどのランク帯にいるかが分かるモグ。当然、消すことも可能モグ。そのランクでNPCが反応し特殊なクエストが発生したりもするモグ」
俺はパチリと腕輪を嵌めて、懐から柊さんから貰った紙を渡してみた。
「これって依頼した方がいいかな?武器ガワに必要な素材なんだけど」
彼はチラっと見てフルフルと首を振った。
「これなら自分で取った方が早いモグね。このドガティスには8つの採掘迷宮があってそこで鉱石素材が取れるモグ。土竜様の加護によって」
(土竜)
ここでも竜が出てくるなら全部の場所で出てきそうだなって俺は思う。
「採掘のためにはスチームゴーレムを連れていくと言いモグ。お金は掛かるモグが便利モグ」
「了解」
「後、迷宮の地図低層までお買い得モグよ。今なら帰還石も付けるモグ。更に更にこっちの一層パンフレットを買うと2層パンフレットが付いてきて加えて3層そして4層……」
「ふむふむ」
ギルドの受付はネットセールスかってくらい商売が上手く俺は見事に搾り取られてしまった。
◇◇◇
浮遊国家ドガティスには工房と呼ばれる場所が存在する。そこで職人になれるクエストが受注できてここでは鍛冶師になれるようだ。また鍛冶師で作る事ができる鉄器類のガワ(スキンだけ変える)もここで解放となる。
職人になるのは簡単。俺もキッカも一応できるようにはした。だが、VRMMOにおいて職人はかなり難しめに設定されているのが今や常識となっていた。
「ぬわああ折れたのじゃ」
「ははっ俺もだ」
料理ではそこそこ器用さを披露した俺もここでは全く歯が立たない。ここまでVRのものづくりが高難易度となってしまった理由は職人を特殊な技能にして一部の者にしかできない飯の種とするためだ。
何せ稼げなければ職人は大移動してしまうのだ。だからこうやって囲う。
そして職人の成長は必ず冒険と紐づけされている。だからひたすら職人だけでトップ職人になることは不可能だ。これも職人レベルだけあげてゲームをポイされないため。
人のエルフと呼ばれる職人はVRMMOでも異質なプレイヤーだと俺は思う。彼らは凄まじい集中力を発揮し、時に我を忘れたように没頭する。そう、丁度今の彼女のように──
(凄いな)
偶然、俺はまた柊さんに再会した。でも、声は掛けていない。彼女は集中していた。カーンっと金槌を振り下ろし、俺やキッカが騒いでも気づく素振りすらない。
俺達が作ったものとは比べ物にならない一本の銅剣が出来上がろうとしている。最初に作成可能な武器とはいえその品質の差は明らかだ。
若干、彼女の口角が上がって見えるのは本気で好きなんだろう。
「凄いのう」
「だな、邪魔しちゃ悪い。行こうかキッカ」
「うむ」
ちょっと彼女の熱に当てられた。学園ラヴェルの生徒達は皆、自分の道に向って頑張ってる。
「負けてらんねえなこりゃ」
作り上げたぐちゃぐちゃの銅剣をアイテムボックスに放り込んで、俺もまた気合を入れ直したのだ。
俺達が工房に来たのはこの鍛冶師のジョブを得るためと採掘用ゴーレムを借りること。本日、最期の予定はナズナと約束していたダンジョン攻略。その序に柊さんに作ってもらうガワ装備の必要素材を取ってしまおうという判断だ。
採掘用ゴーレムはコンパクトでアイテムボックスにも入れられて便利。ただ、レンタルでも結構割高でいよいよ財布がヤバいと俺は焦る。
(金策ねえかなー)
炭鉱ダンジョンへの道を進みながら掲示板と攻略情報を覗くがどれも時間が掛かりそうなものばかりである。
「ダンジョンで高価なアイテム落ちるの祈るしかないか」
「流星」
声が掛かり顔をあげると待ち合わせ場所でナズナが立っていた。何だか踊り子のような恰好をしていて可愛い。どうっと彼女は自分の髪色と同じ紫のスカートを翻してクルリとまわった。
「似合ってる。それ新装備か?」
「そう、それに新ジョブ占星術師専用」
「マジか」
マジっとドヤ顔でタロットカードを見せてくれた。カッコいい。
「何かマアトで俺が一番遅れてる気がしてきたな」
「流星、2人。私たちフルパ仕方ない」
確かに。今回は高峰と約束したのでしゃあないが次回から本気で最速攻略狙っていくかとちょっと決めた。
「ところでキッカは?いない?」
小首を傾げたナズナにそうなのだと俺はいう。
「何かアイツ今日はいいって言って、いきなり収納に入っちまってさ。ナズナ何かアイツに言ったか?」
「ううん……。でも、わかった。流星、キッカにありがとうって言っておいて」
「え?いいけど何で」
「わからない?」
「ああ」
と頷けば
「はい」
っと俺はカードを渡された。占星術のカード。占星術師はきっとこれで戦うのだろう。
「何これ」
「愚者のカード」
「何で」
「愚者だから」
「どこが」
「愚ー者。ほら、活動限界迫ってる。流星早く早く」
押されるようにして俺はナズナと一緒にドガティスのダンジョン攻略へ。もしかしてこれが噂のデートって奴なのだろうか。俺はちょっとだけ緊張していた。
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流星ノート〇この時代の恋愛観。VRMMOの流行によって人の恋愛観も大きく変容した。幼少期から美形のNPCと触れ合う彼らは美的感覚を大いに狂わせ、人同士で恋に落ちる者を大いに減らした。今や理想の美形AIを作りそれと結婚するものが主流となっている。
ラヴェルの生徒達に人同士の免疫はなく、また恋をしようとする発想すらない者が多い。流星が人との恋に興味を見せるのは母と姉の原因である。




