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廃人遊戯譚『ヴァラエティーパラシス』~人とAI率いる俺が廃人へと至る道  作者: 流体紀行
βテスト『学園ラヴェルとヴァラエティーパラシス』
8/110

カラクミと鞍馬洋介

 ラヴェル運動場。タッタッタッという飛ぶように地を蹴った俺は前宙を開始する。


「よっと」


 2度の宙返りを俺が見事に決めるとパチパチパチと拍手が鳴った。落ちたタオルを拾い上げて見ればハーフパンツ姿のナズナが頬を赤らめて立っていた。まだ日の出というのに早起きなものだ。


「流星、今の凄い」


「おはよ。早いな。お前も自主練か?」


「うん、流星も。いつも?」


「まあそうだな」


 フルダイブ型ゲームにおいて体を鍛えることがゲームプレイにそのまま関係し現実での強者がゲームでも強者であるかと問われればその答えはNOとなる。


 現実の肉体とゲームで扱う体は違うし、仮想ならではの動きができるからこそのVRゲーム。ただ極力現実に則したものとなるよう造られていることから鍛える意味があると推奨するプロは多いし、実際僅差だがその差が勝敗を分けることもある。


 何よりでかいのはパンドラボックスによる検査によって日々の運動量が図られログイン時間が決まってしまうというのが一番大きい。よって廃人を目指す者はこうして戦闘訓練を行うことを日課としている者がほとんどである。


「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃー×8。そして俺が動き出す」


 どうやら太一もやっているようで、よくわからない台詞が聞こえた。しかし、ほんと奴は現実にいると五月蠅い。


「痛っ」


 ボフっとナズナに腹を殴られ、よろければ腕を出したナズナがニタリとした笑みを浮かべた。


「流星。私とカラクミしよう」


 カラクミとは相手に直撃させないようにMMOのスキルの動きを再現し、組手で戦う子供の間で流行っている遊びである。VR大流行時代の今では、授業に取り込んでいる学校もある。


「うーん」


 相手が女子だと色々やりにくいんだよなっと俺が迷えば、鋭い蹴りが俺の鼻先を通過した。ギリギリ。また鼻血が出そうだ。いや、色んな意味で。高い位置で足を止めたナズナが更に口角をあげた。


「どう?」


 どうやら彼女は腕に覚えがあるらしい。動きから見てナズナはMMOで武術系のジョブでも好みそうだ。


「まあそっちがいいなら。やろうか」


 俺も多少ながら武術に心得がある。俺が構えれば、ナズナも構える。そして──同時に踏み出した。別におかしくなんてない。俺たちはそうした時代に生きている。


 最下荘。Fクラスの寮であるそこは、中心が補給場になっていてそこで配給のように食事を受け取ることもできる。至れり尽くせりのように感じるが、大体、献立は似たようなものが出てくるらしく即ぐに飽きてしまうのだそうだ。


 だからなのか、先輩達の姿はほとんどなく一年F組の連中が其々の場所でたむろっていた。


「俺、ここを卒業したらイチャイチャしてんなよって駄菓子作るんだ」


 暗い顔で呟く太一の傍で俺はナズナの介抱を受けていた。先のカラクミでちょっとした眼福的なことがあって、ナズナの蹴りをモロに貰ってしまい俺は案の定、鼻から赤い液体を出してしまったのだ。別にそういうキャラではないのだが、これで終まいと思いたい。


「ごめん。流星。はい、ティッシュ」


「ふぁんきゅ」


「朝から鼻血とか。流星君、Hな事考えとったんとちゃう?」


 俺が新しい捩じられたティッシュを鼻に()め、スッキリすれば手に食事を持った新見さんにそんな事を言われてしまった。反論する俺の視線がでかい胸に固定されてしまう。


「してねえって。俺、紳士だし」


「その台詞。目線と嚙み合ってないで」


 長いツインテを首に巻いて遊びながら新見さんが俺たちの横に座った。無理だ。万有引力が働いている。太一も釘づけである。


「流星。めっ」


 ナズナに首をグイっとされてしまった。顔が近くて少しドキリとしてしまう。


「ちょっと待て。それはおかしい。好感度後半のイベントだろ。吐け流星。やっぱりお前ナズたんと知り合いだろ絶対」


「確かに二人って何か距離近いやんね。ナズナちゃん流星君と関係あったんか?」


 聞かれたナズナはじーっと俺を見て考え込んだ後、弱々しく首を振った。


「ううん。流星とは始めて会った」


 何というか意味深で俺も記憶を探ってみたが、彼女とは会ったことはないはずである。ただそれだけは──どこかで見た気がしていた。


「なあナズナ。そのマフラー「新入生の皆様おはようございます」」


 が、突如入った放送に俺の質問がかき消されてしまった。仕方なく俺は耳を澄ます。


「生徒の皆様は、7時30分までにニーモテクスに着替え、教室で待機するようお願いします。早速あなた方には、ヴァラエティーパラシスの世界にログインして貰います。それから2か月の間、多少の注文はございますがそれ以外は好きなようにゲームを楽しんでください」


「へえ」


 学校の授業なのだ。もっとガチガチに決められているかと思っていたので意外だ。


「ですが、できる限り上を目指されることをお勧めします。その成績によってあなた方のカリキュラムが定められることになるでしょう。最後にラヴェル創始者鞍馬洋介の言葉を伝えたいと思います」


 軽くなら覚えている。何となく俺たちは視線を交わし合った。俺たちはライバルであり、戦友となる。


「VRMMOでの高みとは何であるのか。戦闘で最強に登り詰めることか、それとも装備の力によってそれをはじき返すことか、果てまた新たなスキルの組み合わせを見抜き、それらをぶち抜くことか。否。ハイヒューマンに至る道に正解はない。他のVRMMOで全てを覆すことも可能である。若きゲーマー達よ。常識を疑え。発想を飛躍させろ。VRの数だけ、君たちの進む道がある」


 Fランクスタートと聞き、俯き気味だったFランクの面々の目が今や爛々と輝いている。鞍馬洋介。日本で始めてハイヒューマンになった男であり、数多のMMOでクランを作りその団長を勤めていたカリスマと呼ばれる男。その言葉には死後もなお力が宿っていた。ぶっちゃけ俺はあまり詳しく知らないけど。


「だが、それは険しく心が折れてしまうこともあるだろう。それを引き上げてくれるのが仲間である。このラヴェルは自らを鍛え、そうした気の合う仲間を探す場所である。心して精進せよ。以上です」


「わかってたけど、なんつうか。すげえ場所に入ったのかもな俺たち」


 太一の言葉に同意する。皆、黙ってしまった。そんな中であの委員長っぽい女生徒が何かに気付いたとはっと起動した。


「皆っ!!!時間っ!7時回ってるわっ!!」


 マジかよと目を()いた俺たちは大慌てで移動する。ドタバタしてしまい。俺は結局、ナズナに聞きそびれてしまい。放課後になる頃にはこの事を忘れてしまうのだった。彼女のそれがあるゲームにあった装備と瓜二つであるという話を。

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