白靄モールスとルフ
渓谷。このマップ最大の問題は届かない段差があること。このゲームの魔物AIは相当いいものが使われている。投石、弓矢といった後衛と前衛の概念を持ち、それを上手く取り入れていた。
「ちっ上からチクチクうぜえ。桂木いけるか?」
「見りゃわかるだろ無理だ」
俺達は上下からのコルピットと呼ばれるフードを被った小人の集団による挟撃にあっていた。
こいつらは群れで現れプレイヤーをつけ狙う。俺達も逃げたがもう一つの集団に遭遇するよう見事に誘導され追い詰められてしまった。
「いかんっ下からも回り込もうとしておる」
「キッカっ!魔法で牽制っ。当たらなくてもいい」
キッカに指示し俺は彼女を守るためその前に庇い立った。コルピット、小人といっても身の丈は人の半身ほどあり、ローブを目深に被っている。顔は仮面でも付けているのでと思うほど真っ黒で白で人が書いたような顔をしていた。
(っチ)
切りかかってきたそいつを剣でいなすがその後ろから向かってくる石矢に舌打ちする。コルピットの持つ武器は疎ら。そして後衛と前衛の仕掛け方が上手く厄介極まりない。
「剣術一式『マギア一閃』」
ギアを巻かずに即時発動、威力はないが矢を叩き落とすには十分だった。気配を感じ振り返る。恐らく上から落ちてきた。そこには宙に浮く大鉈を振りかぶるコルピットがいて──
「武術一式『破天掌』っ」
高峰の攻撃がコルピットを吹き飛ばした。彼の機転によって窮地を脱した。
「サンキュ助かった高峰」
「情けねえって言いてえところだが俺もぶっ飛ばされたぜアイツに」
高峰の視線の先には彼が戦っていた相手がいる。『ゴア・コルピット』──コルピットと名が付くが見た目が違う悪鬼である。
ゴアコルピットの体は小人のコルピットと比べると半身大きく巨体で、剥き出しの肉体は隆々と盛りあがり、人型だが顔面はギザギザの歯が丸見えとなった丸い口だけであった。明らかに上位種である。
「こりゃヤベえな」
「だな、どうする桂木。リーダーはお前だぜ」
俺は一瞬逡巡し答えをはじきだした。
「特攻する。何も考えずあのデカぶつに全力をぶつける」
「いいねー分かりやすい作戦。聞いたなルフっ後ろは捨てろ、突っ込むぞ。俺の肩を使えっ」
「了解だマスター」
高峰の言葉に答えたのは後方を死守していた彼のサポーターだ。駆ける高峰に追随するようにエルフの青年が姿を見せた。
金の長髪を結われ前髪が目に入らないようになっており、肩をすっぽりと覆う緑のケープはまさに狩人といった服装。そして彼の手には二対のショートボウを重ねるように握られている。
コルピットを吹き飛ばした高峰の肩にルフが飛び乗ると彼はそこから跳びフワリと宙返りを行った。
「弓術四式フライショット 固有デュアル」
空中で彼は矢を放ち、上にいたコルピットを見事に打ち抜いた。エルフは固有スキルで弓を二連で放てるが、コルピットもただではやられない。反撃と投石を行った。それは高峰に向い──
「マスターっ!?」
「武術四式『鉄甲防』」
石弾を左手の甲で弾いた高峰がはっと息を吐いた。
「ルフ、言っただろ何も考えるなと仲間が最大火力を出せることだけを考えろと。そうだろ桂木」
その通りと心で答え、剣術二式『一刀閃火』の力によって俺は高峰達の横を高速で抜ける。ゴア・コルピットが忌々しげ俺に向き口を動かした。奴は手甲を嵌めていてそれをガチっと合わせるようにしてガードを行う。
高峰の攻撃が弾かれるのは見ていた。だから──
(潜り込む)
俺はスライディングで懐に入ると職玉を潰し武術士へと転職した。
「低級支援バウンド・コートじゃ」
魔術士キッカの新たに覚えたバフを聞きながら新しく得たスキルを発動させた。
「武術五式『翔乱脚ッ」
翔乱脚による下からの回し蹴りが胸に突き刺さった。キッカのバフも相まってノックバックしながらゴアコルピットの体が浮いた。そのタイミングで俺の前にルフさんの矢が突き刺さる。
「弓術五式っ『極射転送』」
『極射転送』は『転地極走』に似て非なる技。騎術士は人と人を入れ替えるが弓術士のそれは距離が短い代わりに矢と人を入れ替える。
急に現れた高峰の横顔が獰猛な笑みを浮かべていた。
「最高の御膳立てだぜ」
二本の指を立てた彼はまるで掛かってこいと言わんばかりに自分の側にその指を倒す。するとクンっと不可視の糸に引っ張られるように浮いたゴア・コルピットの体がほんの少し前倒しになった。
「武術十式──
これを見るのは二度目だがゾクっとする。多分、そういう演出が掛かっているのだと思う。この技はステージが違うという運営からのメッセージが。ドッと見えない速度で打ち込まれた聖拳突きがゴア・コルピットの腹に突き刺さった。
「GugaAaA」
っと苦悶の声を上げてゴア・コルピットが前かがみになった瞬間、高峰の姿は消え奴の頭上に出現し蹴りを放つ。
「GIi」
後頭部にヒットしたゴア・コルピットが地面に叩きつけられてバウンド。それはまるで格闘ゲームのコンボであるかのようだった。高峰は最後と踏み込んだ。そこから放つのは渾身の肘打ち──
──天元阿修羅」
弩パァンっ!!とド派手なエフェクトが散り、ゴア・コルピットが吹き飛んだ。そして、壁にぶち当たり消失した。これが武術士のテンスキル『天元阿修羅』
「ふいー気持ちいいいいあ”ースッキリしたー」
「やっべえなその技」
「|10は必殺技みてえなもんらしいからな。隙がでけえ分、威力がでけえ。しかも、補助で浮かせてバウンドのバフを掛けて貰わねえと中々決まらねえ技だ。解析屋によると10ずつにこういうやべえ技が設定されてるんじゃないかって話だぜ」
「へえ」
俺が感心していると怒鳴り声が聞こえた。
「まだ終わっていないマスター」
「何をボサーっとしておるっ!」
「「あ」」
サポーターに怒られた俺たちは慌てて戦線に復帰したのだった。高峰と俺はちょっと似ているところがある。まあ、だから互いに一緒にやろうと思ったのかもしれない。
◇◇◇
「疲っかれた」
ぐったりしながらトボトボ歩く高峰。その足取りはおぼつかない。
「このゲーム体力ゲージないぞ高峰」
「頭が疲れたつったんだ。このゲームの敵頭良すぎんだわ。一度の戦闘ですっげー疲れる」
それは同意。一つ一つの闘いが濃すぎる。
「本来6人PTのところプレイヤー2人サポーター二人で行ってるからまあそりゃキツイだろ」
俺が言えば高峰はう”あ”っと呻いた。
「もう出ないでくれー。特にあのちっこい奴ら」
「ヴァラパラは逃げるのも一苦労だからな。キッカ」
俺がチラっと見れば彼女は鑑術士スタイルになっている。キッカのモノクルは小さくて可愛らしい。
「うむ、近くには潜んでいないようじゃ。レベルが低いので恐らくじゃがの」
鑑術三式『アナライズドエリア』。探知スキルだがキッカのレベルは低いためぶっちゃけ気休め程度である。とはいえ使わないよりマシだ。ふと俺は背後のエルフを見た。
「しっかし高峰のサポーターは寡黙だな。俺のと違って」
「ぬ、どういう意味じゃ?流星それは」
怒れるキッカを宥めつつ、で?っと見れば高峰はボリボリと頭を掻いた。
「ん?ああ、そういうのが言いって俺が頼んだんだよ。何だっけ?あのスロットみてえな奴。性格とかあんなら自己主張無い方がいいって言ったら了解って話が通ってさ」
「へえーでも意外だな。高峰は言い合える奴の方が好きだと思った」
何か文句言いながら高め合ってそうと勝手な俺の想像を言えば彼はそれを否定した。
「元々、サポーターなんて使わないって思ってたしな。実際これまでほぼ使ってなかったし、クラスの連中もあんま使ってる奴はみねえ。サポーターはどの道人についてこれなくなる。サブ機だ。それに……何だ」
気を使ったらしく彼はキッカに聞こえないように俺の耳元でささやいた。
「AIから命令されるのって何か嫌じゃね?自己主張とかいらねえって。人が引き連れるのが当たり前の存在だろ?」
そう言って彼は先に行ってしまった。確かに高峰の言う通りだ。それは現代社会の常識だし、俺だってそうしてきた。じゃあ何が引っかかるのだろうか。この俺の胸にわだかまる靄のようなものは何なのか。
「おっあれじゃねえか!?」
その答えを教えてくれると言わんばかりに白い靄が現れる。俺達はロゴス三爪渓谷を超えて遂に辿り着いた。俺達が目的地としていた次なる場所。
白靄が漂うモールスに。
さあ、水の都に次ぐヴァラパラのストーリーが幕を開ける。




