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オープニングと産声

 OPEN Anniversary。それはVRMMO運営がゲーム開始を祝い取り行う催し事のこと。それに合わせて学園ラヴェル側も祝始祭(しゅくしさい)と呼ばれる祭りを行うようで、学園が華やかに彩られていた。


 多分、始業式でも使った3D映像を利用しているんだろう。ボタン一つで学園全体を飾り建てられるのだから便利なものだ。まあ、ボタン一つではないだろけど……。


 年玉との喋ったあの内容の事はまだ俺の中で引っかかっている。彼も言った通り流石に陰謀論すぎるかなと俺も思う。ただ、何かはあるんじゃないかって俺は感じるのだ。異物のような何かが。


「流星」


 呼ばれ振り返るとナズナが俺の元へやってきた。彼女はやっぱりマフラーを巻いていてクレープを手に持っていた。


「よっどうしたんだよそれ」


「お店出てる。ラヴェルコインで買える。これ美味しい」


 もきゅもきゅと膨らんだ頬を動かし、ムフーっと感嘆の息を漏らしている。何かリスみたい。もう叱られると学んだので言わないが。


「へえ、出店とかあんのか。ほんと祭りだな」


 彼女と並んで歩く。ゴクッと飲み込んでナズナが口を開いた。


「学校 こんなに楽しいと 思ってなかった」


「俺も俺も最高だ。授業はどうせ筆記系でずっと寝るだろうなって思ってたのに。嬉しい誤算だわ」


「ムッどういう授業かはラヴェル取説に書いてあった」


「だって俺読んでねえし」


「私は君と組むのだけは控えようと思った」


 ナズナの顔で揶揄(からか)っているとわかり俺は軽く噴出した。


「懐かしいなそれ。もう1か月前か」


 VRMMOをやってるとホント時間の感覚がなくなる。とても早く感じる。


「違う まだ1か月 もう思い出一杯」


 でも同時に彼女の言う通り1か月でこんなにもって思いもある。ホント一日、一日が濃い。


「だな、これからが楽しみだ」


「でも流星はもうあっちに行きたくてウズウズしてる」


「そりゃ無理さ。実質一か月近くお預けだったからな。もう俺は死にかけだ」


「ふふっ太一からうなされてるって聞いた。じゃあ行こ。皆待ってる」


 ああっと頷いて俺達はマアトの天秤が待つ場所へと向かったのだ。


 学園ラヴェルは7つの区画に分かれている。ああ、俺もこの設定のことすっかり忘れていた。ラヴェルのポイントで入れる場所が決まっていて、まだ少ない一年に許される場所は少なく、集まるのは大体ファンタジー区画だった。


 噴水のある中庭。自然公園のように草や木が植えられている。そこを生徒達がそれぞれ場所を陣取って談笑し合っている。5,6人の固まりになっているのはラヴェルでのPTで彼らも集まっているからだろう。


 やっぱり一番楽しんだ面子と一緒に始まりを見たいってのは誰もが思うことのようだ。


「おーおーご両人。お二人でご登場とはお熱いこって。二人で見た方が楽しめるんとちゃいますかーあっうちお邪魔やなほな」


「ほな!じゃねえ。ってか何でそんなやさぐれてんだよ。新見さん」


 いつもの明るい雰囲気はそこになくドンよりしている関西女子。その訳を俺の肩をツンツンと叩いた柊さんが教えてくれた。


「ほら結、御影先生の授業散々だったから」


「あー」


 そういえば怒られまくってたのを見た気がする。俺は狙われまくっていたので気に掛ける余裕がなかったが。新見さんがわなわなと手を振るわせていた。


「何で担任がうちが最も苦手とうるFPSのプレイヤーやねん。ここVRMMO専門やろ。絶対これからの授業FPSで組まれるやんか。もう終わりやーラヴェルポイント貰えんでうちは一生最下荘民なんや」


「いいじゃねえか最下荘……うっ」


 凄い顔で睨まれて固まる。


「この前、お風呂場にムカデでたんや。信じられへん都会っこのうちにはもはや魔境。しかも、殺虫剤貸してって事務いったら。笑顔で手差ししてきて、はいラヴェルコインってえええええああ”あ”あ”」


「なっ何か大変そうだな」


 スッと発狂する新見さんから視線を外した俺はもう一人変なことになってるメンバーに目を向けた。太一がミアの写真を持って黄昏ていた。


「でっアイツはどうしたんだよ。大体想像つくけど」


「私も大体想像つくけど、貴方が聞いてきてくれるかしら。付き合い長いんでしょ彼と」


 まあそうなんだがと近づくと聞いてもないのに太一が語りだした。


「流星、エアたんが逝っちまった。もう1か月も前の話だ」


「お、おう。知ってるぞ。俺も見たし」


「でも、忘れらんねえんだ。俺はアニメみてえな世界の中に入る事がこれほど残酷なことだとは思わなかった。どうしても夢で見ちまう。ハァ……エアたん復活クエ……運営さん作ってくんねえかな」


「無理よ。話的には綺麗に終わったし、私もあれは悲しいとは思うけどね。それよりその子ミアって正式に決まったらしいわよ。プレイヤー投票で」


「プレイヤー投票?」


 俺が聞けば柊がええっと相槌をうって教えてくれた。


「なんでもプレイヤーが付けた名前の中からNPCに3つ選ばせてそれをプレイヤーで投票して決めたとかなんとか。ちゃんと公式サイトの方も見ないと駄目よね。お知らせメールも送られてたみたいだけど私たちの誰も気づかなかったみたいだわ」


 へーっと平静を装いつつもちょっとニヤけた。まあ、ミアなんて名前は多くの者が付けたと思うけどそれでも自分と同じものが選ばれたのは嬉しかった。


「テトたん。俺の中でもうエアたんはエアたんなんだ。公式がどうであれな」


「あーはいはい、ご自由にどうぞ。話しかけた私が馬鹿」


「始まる」


 話の途中だったが、ナズナの声に皆彼女を見る。ピっと一指し指で空に浮かんだ巨大ディスプレイを示す。ふざけていた俺達は皆、真面目になって座ってじっと見据える。ここにキッカがいないのがちょっと残念だ。


 でも、仕方がない。彼女は向こうの住人なのだから。全ての学生が天を仰いでいた。世界の始まりを見届けるために。


 ブオンと


 黒いスクリーンに浮き出たタブ社とニンステーションのロゴ。


 誰かがゴクッと喉を鳴らしたかと思えば、Variety Paralysisの文字が躍る。タイトルに意味はあるんだろうか。ヴァラエティーは多様性でパラライシスは麻痺じゃなかっただろうか。ってかParalysisをパラシスと読んでいるらしい。


(パラシスって何だよって思ってたけど、パラライシスから捩ったのか。色んなスタイルがあるって意味だと思ったけど、もしかして違うのかこれは)


 考えたかったが映像が切り替わり見入ってしまったため俺の思考が死んだ。


「きた」


 音楽と共に映像は空から始まった。カメラはグングンと上がり雲の中へと入った。ボッボッと雲の断層を抜け、天空へ。


「龍」


 バサッバサッと三匹の竜が連れ添って飛んでいる。仲睦ましく見え、家族のように思えた。若干一匹だけ小さかったからかも知れない。そこに向って青白い閃光が放たれる。


「あっ」


 ナズナの声と同時に龍が悲鳴を上げて旋回した瞬間、ザパアンっと雲から空飛ぶ戦艦が現れた。


 その甲板に立つ人影に焦点が合わさりぐっとズームすることでそれが20代ほどの青年であることを俺達に告げた。皇帝を彷彿とさせる絢爛な白光鎧に身を包んだその青年は剣を龍へと振るう。


 すると──


 ごおっと大量の戦艦が現れる。その迫力は映像を通しても凄まじいものだった。何股にも分岐した凄まじい閃光が四方から放たれ、逃げ惑う竜を追い詰める。思わず俺も手を握り込み、小竜が穿たれた時なんて生徒達から悲鳴があがった。


 もう夢中。俺たち学生は完全に心を掴まれていた。


 小竜が落ちてゆく。気を失ったのかぐったりとしたまま。雲を逆に抜け広大なフィールドが映し出された。マップが入り組んでいる。その凄まじい世界造形に俺も学生達も度肝を抜かれた。


(ヤベえ、あれ全部行けるってマジか?)


 隅々まで探索したら恐らく年単位で時間が溶けるだろう。探索好きのプレイヤーがこの情報で発狂してそうだ。小竜は地面スレスレで目覚め、羽ばたいた。壮大な曲が流れると共に画面が二分割される。


 旅立つ小竜が重要拠点に近づくとそのストーリーが紹介される仕組みなのだとすぐに分かった。


 釣り糸を垂らし、星を眺める尖り帽子を被ったモグラ。信じられない高い塔に向かおうとするエルフの冒険家たち、檻の中に入れられ嬉しそうに笑う獣人の女。最後に時計を持った勇者のような少年。そして勿論、あの水の都ストラージュ、エアとアッシュの姿もそこにあった。


 次々と流される映像群に見惚れていれば小竜の旅も終わったのか。羽ばたきが緩やかになってゆく。そして神殿のような場所に着地すればその鼻を巫女装束の女性が優しく撫でた。


 金の装飾品を身に着けた緑の髪を持つその巫女の周囲には多種多様な竜達が大量に存在し、まるで彼女を崇めているようだった。


 そんな彼女に視点が近づくと、まるで俺達を見ていると言わんばかりに俺たちに微笑みその瞳を光らせた。


 彼女の目の中に今までと全く違ったフィールドが見え──映像が終わった。誰もが言葉を失っていた。その想像を超えた凄さに。


 ヴァラエティーパラシスサービス開始と表示され、見覚えのあるスロットが現れリール音の響きと共に回転を始める。


(あれはキッカん時の)


 ピン ピン ピンっと7が揃い大当たり演出が行われるとコトンっと金色の玉が転がり出た。それを手袋を嵌めた手がむんずと掴む。手に取ったのはアイツ。スロットのテクスチャーを被ったAIスロスロだった。


「レジェンドーチャージ!紳士淑女ネカマとその他有象無象の皆さま、初めましての方は初めまして私ヴァラエティパラシスの公認っ!!マスコットキャラに選ばれましたスロスロと申します。私とはガチャの方でよくお会いできるかと思いまスロ。以後お見知りおきをスロ」


 スロスロはピっと金色の玉を掲げてつづけた。


「んーこれはレジェンドの輝き。今日は記念すべきヴァラエティパラシスのオープンでスロ。友達と冒険をするもよしでスロが、このゲームではサポーターを用意しコミュ……ソロの方でも気軽にAIとPTを組むことが可能でスロ。現状、サポーターは一人一つしか運用できませんがアップデートで増える予定もございまスロから財布に余裕がある方はどしどし引いて下さいスロ。有名3D絵師の方々に声を掛けましたのでSSの中にはド派手なサポーターもあるでスロ」


 倍率表が現れ、能力に大きい差がないことが告げられた。そして、紹介が終わるとスロスロが締めにはいった。


「さてそろそろお別れのお時間スロ。最後に重要なお話を皆様に伝えなくてはならないスロ。最初に出た皇帝のような青年、そして最後に出た竜の巫女についてスロ」


 皇帝の青年、竜の巫女の姿を思い返し何だなんだと俺たちは耳を澄ます。


「実はあのシーン、我々が作った映像ではないでスロ。あれは撮った映像。そこに小竜のムービーを差し込んだものでスロ」


 とった?差し込んだ?と周囲が混乱の声を上げ、俺はもう余りの驚きで何も聞こえなくなった。スロスロが告げる。


「ヴァラエティパラシス世界は2つの層に分かれてるスロ。一つは貴方たちがこれから旅をする序層、そしてもう一つが後に辿り着くであろう深層。深層では私たちがばら撒いた高度なAI達が独自の文明を築き暮らしているでスロ。その暮らしを我々が撮影したもの」


 馬鹿げている余りにも。従来のVRMMOを超越している。しかしそいつらがカップワンが語っていたフラグメントとやらに違いない。


「では、何故分かれているのか。それは貴方たちが冒険で確かめるとよいでスロ。我々はプレイヤーに新時代のVRMMO体験をお届けしたいと考えているでスロ。新たなるVRMMOをヴァラエティパラシスをお楽しみください」


 ブツンと途切れ、パンっと現実で紙吹雪が舞った。でも、歓声は起きない。皆余りの内容に固まっていた。アプデ情報が出てもそれは続いた。


「リーダーこいつは……」


 太一が茫然(ぼうぜん)として俺をリーダーと呼んだ。


「ああ、太一。こりゃ現時点でもう神ゲーだ」


 俺はある程度やりこまないとゲームを評価したりなどしない。でも、こいつは違う。こんなゲーム見た事が無い。これはゲーマーがこの時代に生まれて良かったと拳を突き上げるゲーム。業界に極まれに登場する時代を切り開くもの。


 そして……


 この時抱いた俺の思いが正しいと言わんばかりにヴァラエティパラシスは世界中のゲーマーを魅了し始めることとなる。つまり、世界トップゲームとなるための産声をこのゲームが遂に上げたというわけなのだ。

─────────────────────────────────────

流星ノート〇祝始祭(しゅくしさい)

VRMMO流行時代に作られた造語。サービスの始まりを祝して催しを行う。国が結びつきをアピールしようとしたことが始まりと言われている。

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