年玉新と疑念
「行くよせーの」
張本君の合図で一斉に飛び出す。ボフっとスモークグレネードが爆発し、俺たちをBチームの視界から守ってくれる。でも、バシュっと俺の前にあった石が弾けた。
(そりゃ撃つわな)
相手の残弾が少ないことを祈ったがどうやら潤沢のようだ。銃声が鳴り響く。全員無傷は至難だろう。
「ぐっ」
張本君が撃たれたようで呻きが聞こえた。
「大丈夫か?」
「平気さ。腕で良かった。足だったら」
白煙のちらつきで何かが潜んでいるのに気づく。でもその半身が透明だったから俺の忠告は遅れた。
「張本後ろだっ」
「え?」
「GYAAAAA」
さっきの個体なのか。それとも別か?黒豹が呆ける張本に体当たりし、崖から突き落とした。黒豹も下へ。
(どうする?確か低かった。今行けば張本を助け)
「止まるなっ!駆けろ底辺」
怒鳴りに意識を上げれば年玉が決死の顔でこっちを見ていた。
「赤の勝利条件を思い出せ。僕らは一人でも辿り着けばいいんだ」
レッドチームの勝利条件は二つ。一つは制限時間いっぱいまで生き残ること、そしてもう一つ指定されたポイントに辿り着くこと。
「悪かった」
「急ぐぞ。煙の効果が切れたらハチの巣だ」
張本君を犠牲に俺たちは遺跡の中へと逃げ込んだのだった。
◇◇◇
持ったトーチが暗闇の中を照らす。何故、こんな場所に遺跡があったのか。元はどんな用途だったのかさっぱりわからない。とりあえず、壁を見て言えることはここも混ざっているということだ。
「はあ……はあ……はあ」
入る時はあれだけ威勢が良かったのに年玉が息を切らしてぐったりしている。
「大丈夫かよ」
「僕は頭脳明晰な……ぶん……運動が苦手……なんだ……休憩しよう」
「は?休憩?」
俺は驚いたが年玉は部屋を指さした。
「あそこに隠れて……英気を養おう……いくよ」
「あっ!」
スタスタと行ってしまった年玉の背中を見ながら俺は頭を掻いた
「たく普通に言えよなめんどくせえ」
俺が呆れてしまうのも無理はない。だって、このゲームに体力の概念はないんだから。
年玉が示した場所は広々していた。段差があって台座がある。とはいえ何かあるわけではなく、凭れ掛かる彼に俺は聞いた。
「んで?何の話だよ。俺に用があるんだろ?」
「なっ何のことだい?」
「しらばっくれるなって。疲れるわけないだろ疲労ゲージなんてものねえんだからこのゲーム」
「っ!?……ふっ僕は君を試して」
「分かったから早く言えって」
こういう手合いはVRというかMMOをやってると偶に見かける。コミュ障っていうよりは口下手なタイプ。予防線を張りまくって殻から出てこれなくなる奴。
「……こっこう見えて僕はシルフを目指してる。だから考察が好きで……一人ででずっと調べたりする。ただ」
「ただ?」
「時々、その内容を誰かと共有したくなる。実は僕には友人と言える者が少なくて」
うん、知ってるって言うと地雷になりそうなのでぐっと口を噤む。
「張本はいるけどアイツはそういう話をする奴じゃない。新見からお前が意外とよく考えてて変わった視点で物事を捉えるって話を聞いた……それで」
(新見さんほんとペラペラと人の事喋ってくれてんな)
これはお仕置きとしてあのツインテを今度、軽く引っ張ってやらねばならないかもしれない。
「俺と喋りたいってか?」
何かもじもじしているけど男にもじもじされても困る。
「こんな時にってお前は思うかも知れないが」
「いいぞ」
「え?」
「正直、これが終わって戻ってからならいつでもって思うけど、お前が今判断したってことは。今じゃなきゃダメなんだろ?」
軽く目を見開いて年玉はコクリと頷いた。
年玉が台座に座り、俺もその対面に腰掛ける。少し考え込んでから、年玉が口を開いた。
「底辺、君はヴァラエティーパラシスについてどう思ってる?」
(このゲームの話じゃないのか)
「どうって、面白いって思ってるが」
「わっ悪かった。今のは僕の聞き方というか言葉が足りなかった。まるで宣伝が行われていないことについてどう思ってる?」
全然ちげえじゃねえかとジト目で見つつ、俺も考えながら答える。
「気にはなってはいた。というか掲示板見る限り結構な奴らが気にしてる。でも、サプライズ的な意味を込めたかった?くらいしか俺は考えてねえ」
「僕はね文字通り隠したかったからだと思ってるんだ」
「隠したかったから?プロディーサーのエリオットなんちゃらさんがテッペン目指してるって言ってたのに?」
「うん。今、世界を牛耳っている2大MMOのことは君も知っているだろ?」
当然、と頷き俺は答える。
「フェスとクラッツだろ?」
フェスティバとクラッシュアーツ。この二つが今の世界で最も人気を誇るVRMMOだ。当然、俺もやってるしクラスの全員やってるんじゃないだろうか。
「一時期、ゲーマー達の間でこんな噂が流れたんだ。2大VRMMOが新規VRMMOに嫌がらせを仕掛けてるって。その情報はすぐ消えて悪戯ってことになったけど、僕は普通にありえる話だって思ってる」
「既得権」
「うん、運営しているのは人間だからね。それに幾ら業界トップとはいえその人気は水物だ。いつ凋落するとも限らない。ちょっと大人げないとは思うけど、一番コケやすいとされるサービス開始直後を狙うのは効率的だ」
「なら、ヴァラパラが宣伝されていなかったのは」
「これを出し抜くには隠し通し、一気に人気VRMMOまで駆け抜ける必要があるから」
成程と納得する。確かにと腑に落ちる。でなければ巨額の資金回収のために宣伝して損はないのだから。
「これはあくまで僕の予想。でもこれが正しいということを前提として君と話したい。であれば何故、ヴァラパラ運営がラヴェルのメイン授業になることにもろ手を挙げたのか。サービス前のベーター版まで提供して」
俺は軽く指を噛み締めて考える。
「潜む必要があったとしてもテストプレイは必要だ。だから比較的情報の出にくい学園を選んだ?」
「ベーターテスターは呼んだのに?」
うーむと二人で悩み、ふと俺は思い出した。
「ベーターテスターといえば、A組の權田って奴がテスターに若手のホープの顔が多いみたいな事をいってたな」
「僕らもホープみたいなもの。若手の気鋭を集めてた?新時代の流れに楔をうとうとしていたとか……」
流石にわからない。そして年玉はどこにそこまでの引っかかりを覚えているんだろうと気になった。
「なあお前何がそこまで気になってんだ?大した理由じゃないかもしれねえぞ」
俺がそう問えば彼は真剣な表情で言葉を返した。
「そもそも僕が誰かに話してまで拘ろうと思ったのは彼らがアプデ情報を流したからなんだよ」
「アプデ情報?アプデっていうとあの掌ダンジョンの」
あれは良かったと思い返す。ストラージュのデフォルメキャラは可愛かった。
「そう、アプデ情報ってのは重要だ。新規の獲得に既存組への続行意欲を高めるもの。発売すぐにそんな大型アップデート行えば彼らの言う通り話題を集めることができるかもしれない。でもだからこそ何故、あの情報を僕らに見せたのかが僕にはわからない。余りにもメリットが無さ過ぎる。だって僕らは教材で言ってしまえば絶対に止めないプレイヤーだ。少なくともラヴェルを卒業するまでは。しかもたった210人。上級生を入れたとしても600人。そこに彼はとても大事な情報を流した。トップを目指すと豪語したプロデューサーがだ」
あの時はアプデの熱に当てられて気にならなかったが、確かに言われてみれば変。そして年玉君の考えている事がやっとわかった。
「そうか、それでお前今話したのか」
「正解。僕は疑ってるんだ。ラヴェルとヴァラエティーパラシス運営が繋がっていて何かを企んでいるんじゃないかって。そして僕らは僕らの想像以上に見張られているんじゃないかってね」
だから、ラヴェルでもなくヴァラパラでもないこの空間で彼は話したいと考えた。遺跡の中で年玉の声が反響する。年玉の瞳はこういうのが大好きと言わんばかりに眼鏡の下で爛々とした輝きを放っていた。
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流星ノート〇世界二大MMO
フェスティバ・クラッシュアーツ
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