見様御影とFPS大好き担任
「はっはっはっぶえっくしょん」
ずずずっと俺は鼻を啜る。ロフト先輩との語らいのせいで見事に風邪気味になった。今日、ヴァラパラがベーター終了日で良かった。クシャミとかシャックリとか体を動かしてしまう生理現象はダイブとすこぶる相性が悪いのだ。
振動を危険と判断してしまい強制ログアウトしてしまったり、誤作動を起こしてしまったりするためプレイを控えろと注意書きされている。
「ぶえっくすん」
「大丈夫? 流星、はい」
「ありがと」
ナズナからティッシュを受け取って鼻を噛む。ここは最下荘手前にある俺たちF組が食事をする広場。何か前もここで彼女から受け取った気がする。
周囲では同級生達が各々くつろいでいた。太一とか新見さんとか柊さんはまだ部屋にいるようだ。だから二人きり。
「どうしたの?」
「んー星見てたら外で寝ちまって」
「やっぱり流星って変」
やれやれと息を吐き、ナズナがまたティッシュを渡してくれる。正直、一枚づつじゃなくボックスの方を渡してくれると助かるのだが、何か不思議と楽しそうに見えて言い出せなかった。
「おっと」
ブーブーっと俺が首に巻いたサイフォンが振動し、ピっと止めた。
「さっきからずっと鳴ってる?誰から?あっ聞いちゃダメ?」
「ん?キッカだよキッカ」
ほらっと言って俺がボタンを押せばサイフォンの真ん中に空いた穴から光が放たれウインドウが表示された。
それを操作してメールボックスの中身を見せる。そこには、のじゃ、のじゃじゃっという一目で誰からのものかがわかる件名が大量に届いていた。
「やり方教えたら寂しいのかひっきりなしに送ってくんだよ。返してやろうとも思ったんだけどのじゃしか書いてないからどうしたもんかなってさ」
俺がそう言えばナズナがじっと見つめてきた。
「返してあげて欲しい」
「返しってって言われてもなんて?」
「あっとか」
「酷くねそれ」
俺はそう思ったが彼女は首を振った。
「十分。ないよりいい」
「そういうもんか?」
「どんな形でも繋がりが感じられた方がいい。キッカもそう思うはず」
ふむっと頷きつつ、俺は聞いた。
「でところなんだけどナズナ」
「何?」
「何やってんのこれ」
ナズナは俺を青マフラーでグルグル巻きにしようとしていた。鼻水を付けてしまいそうで怖い。
「寒いと風邪引くって聞いた。だから温めてる」
フンスっと鼻息を立てるナズナ。変な子だと思っていたが……。しかし、この青マフラー本気で見覚えがある。触ったこともあるような気がする。
「なあ、ナズナ。PTの話なんだけどさ」
「んっ」
上目遣い。緊張しているようにも見える。
「とりあえず、ヴァラパラ始まったら一緒にやらねえか?勿論、嫌じゃなか「やる!」」
ぎゅっと手を握られてドキっとした。
「絶対やる」
余りに真剣で俺はコクコクと頷いてしまった。
「お、おう」
それでナズナも手を握っていたことに気づいたようでバっと離れた。
「ごっごめん」
「いや、全然いいけど……」
何だろうこの空気。決まずいと俺は咳をうってごまかした。
「れっ連絡とかするわ」
「うん、あの流星 私ボスの時みたいに写真撮りたい」
「写真?そりゃ構わねえけど何でまた?」
「思い出つくる 沢山 抱えきれないくらい」
そう言ってナズナは俺に今日一番の笑顔を見せたのだ。
◇◇◇
今日から授業開始。そう聞かされ俺たちF組は教室に集められていた。もう一か月も経つというのにここにくるのが初めてヴァラパラにインして以来というのが驚きである。
懐古地区にある昔ながらの教室。アナログな時計がカチカチカチと音をたてる中で、あの眼鏡君の声が鳴る。そういえばこいつと席が近かったなと思い返す。確か名前は年玉……だったと思う。
「ねえ、おかしいじゃないか。ランクでクラス分けをしてないっていうならさ。どうして僕たちの教室がこれで住処があれで、奴らSがあんな綺麗な場所に住でるんだよ。おかしいでしょ。依怙贔屓だって」
「とっ年玉君落ち着いてよ……」
彼を諫めているのはショタ系男子、張本智治。女子からハリトモってあだ名で呼ばれているのを聞いた。張本君がPT組んでる姿は見たけど年玉君は見なかった。もしかしたらずっと一人だったかも知れない。
「ふっでもやっぱりおかしいと思ったんだよね。優秀たる僕がFだなんて。やっぱり間違いだった。Sにこそ相応しい」
誰に言ってんだろうかそう思って顔を上げたせいで目が合って絡まれてしまった。
「やあ久しぶりだね。底辺君、ラヴェルポイントは合計いくらだった?」
「んー俺か?忘れたな。とりあえずトップではなかったな」
トップは理聖だった。うーむ悔しい。
「ふっそんなの当たり前だろ?僕の点数を教えてあげるよ。ちょっと待ってて計算して教えてあげる」
そういってカタカタと電卓を叩き始めた。
「やっぱこのクラス変な奴多いな」
「それ貴方が言うかしら」
会話に入ってきたのは柊さん。最近、柊さんからの株が急下降の俺である。
「なんか俺に対する遠慮なくなってきてません?柊さん」
「それだけあの頃よりも仲良くなったってことさリーダー。特に俺とテトたんの間には愛が」
俺の隣にいる太一が言えばジロっと彼女が睨んだ。
「次変なこといったら貴方とPT組むの一旦停止しちゃうから」
「そっそんなーそりゃないよテトたん」
「テトたん言うな」
俺はグデーっと伸びをした。
「にしても先生遅いなー」
「何か一か月前もそんなセリフ聞いた気がする」
俺の言葉に後ろのナズナが答えてくれる。ちなみに、新見さんはあっちこっちに話しかけている。流石、社交性極ぶり女子である。
「なーマジで忘れられてんじゃね俺ら」
「クラスの子が教室と寮変えてって申請書出したらしいけど、まだ返ってきてないらしいからあり得るわね」
「マジかー」
これはまた放置パターンかと俺たちは思ったがそこにガララと誰かが入ってきた。大人の女性だがぼさぼさ頭の黒髪にビーチサンダル。
ダボっとした白のストライプの入った黒ジャージを着たその姿は昔日本に生息したとされる不良ギャルそのもの。
ほんのちょっと日に焼けていて肌は黒めで、目つきはギロっとして悪かった。彼女はカツカツカツと歩き出るとチョークを手に取ってカッカッカっと自習と描き──
「うしっ」
っと言ってそのまま出ていこうとした。そこへ急行してきた二台のゴミ箱のような形をしたロボットによって彼女は拘束された。
「ピピピピ脱走者発見!脱走者発見!拘束拘束」
「うあっ何だよこいつら」
「ふっようやく捕まえましたよ」
ぎょっとなって全員で振り返ればぜえはあぜえはあと息を切らした泉教頭が後ろから入ってきていた。女は暴れた。
「何なんだよ。離せえええ」
「その子たちはラヴェル学園が誇る防衛ロボット、コウソック君1号2号。もう逃げられないですよ御影先生」
邪悪な笑みを見せる泉教頭。それに引いたのか柊さんが小さい声で聴く。
「あの先生これは……」
「ああ、貴方たちへの紹介もまだでしたね。彼女は見様御影。貴方たちの担任となる先生です」
あれが担任とクラスがざわつき泉教頭は紹介を続けた。
「彼女はああ見えてVRFPSのトッププロ。FPSのスペシャリストです」
あれがFPSのトッププロ。VRMMOには及ばないものの2番手としてVRFPSも人気を誇ってる。ただ、日本はそこまでで海外での話になるが。
「あ”あ”あ”今いいとこなんだよおおお。ふざけんじゃねえええ。俺はFPS止められたら死ぬんだあああ 死んじまうんだああああ」
教師御影発狂。あれ先生にしたら一番駄目な人種じゃね?っと誰かが呟いたが泉先生は全力でそれをスルーするのだった。




