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シルフとロフト先輩

 首輪のような形状をした現代型携帯サイフォン。そいつで掲示板に書き込んだり覗いたりしていた俺はふわあっと欠伸をした。


 眠たいけど悩みのせいで眠れない。その悩みとは勿論、マグドールに言われた対抗試合のこと。その仲間をどうするかというお話だ。


(どうすっかなホント)


 マアトの天秤は?って思う方もいるかもしれないが、あれは違うという答えが俺の中で出ている。彼女達もそう思っているからこそ声は掛かっていない。


 ただナズナからは打診があった。正直、彼女との距離を測りかねている。せめてもう少し闘いを共にしないと決められない。なので保留となっている。


 VRMMOプレイヤーが一つのPTだけで活動する……なんてことはほとんどない。探索専門のPTだったり、戦闘のPTだったり、エンジョイPTだったりガチPTだったり、色々と所属先を持つものだ。


 また全く知らないPTに入って縁を結ぶというのもVRMMOの醍醐味だったりする。一番駄目なのは、目的が違う者同士で組んでしまうことだ。


 そうなるとどんなに仲がいい者同士でも必ずギスる。それはやりたくない事を相手に押し付けているようなものだから、どれだけ気を使っても必ず綻びが生じる。どんなに引き延ばそうとしても崩壊する。だから──


(しっかりメンバー探さねえとなんだけど……)


 仲間探しを頑張りたいという気持ちとヴァラパラ全力で楽しみてえって気持ちがせめぎ合っている。


(上手く折り合いつけれっかな俺)


 こいつをどうにか一石二鳥で取れる手段はないものか。そううーんと俺が唸り考えているとコンコンと自室のドアがノックされて体が跳ね起きる。


「ん?」


 こんな時間に誰かくるとは珍しいとドアノブを捻ればその意外な来訪者の姿に俺は驚かされた。


「やあ、こんな夜更けにすまないね。他の子たちを回っていたら最後の君がこんな時間になってしまったよ」


 そのくすんだ金髪と目の隈には覚えがある。不健康そうな外国人の青年。その人は俺が初めてこの寮に来た時案内役を買ってくれた──


「やあ桂木君、ちょっと外で話せるかい?」


 最下荘に来た時、案内してくれたロフト先輩。彼がにこやかそういった。


 ◇◇◇


 先輩のお勧めがあるということで外に出て軽く歩き、瓦礫の上に登る。そこは満天の星空で満ちていた。


「いい場所だろう?」


「ええ、これは飛び切りですね」


 彼が座るよう促してきたので俺は座り、彼は少し離れた位置に腰をかけた。ロフト先輩は星に目を細め、口を開いた。


「VRMMOが進歩する度に僕は思う。其の度に現実という世界から魅力が削り取られていくかのようだって。皆忘れてしまったようだ。この世界の煌めきを」


 一体何の話だとする俺に彼は答えず揶揄うような視線を向けた。


「桂木君、君、僕がFじゃないって最初から気づいていたろう?」


「まあ気づいてたかどうかは怪しいですけど、強いとは思ってました。足の運び方とか誤魔化してましたけど武道やってる人っぽかったですし、それに」


 それっと俺は自分の目の下を指して彼の隈を示した。


「その隈、ゲーム隈ですよね?それも相当年期の入った。そんな人がFなのかなって。もしそうなら周囲は凄いんだなってくらいは思ってました」


「ふっ正直だね君は。でもそうか。パトリアに4時間も化粧を施して貰ったんだけどね……これはもっと必要かな」


「そもそも隠す必要あるんですか?」


「それが校長マグドールの言いつけだったからね。ランクによるクラス分けなんて行われていなかった。その事実を君たちに悟らせるな」


 ふむと俺は納得しかけたが彼はぼそっと呟いた。


「まあ僕はそう言われていた子からその役目を買ったんだけどね」


「買った?」


「僕はあるクランに所属するシルフ。噂好きのシルフにとってもっとも美味しい話の蜜はゲームの中じゃなくってプレイヤーの中にある。僕は君たちを探っていたのさ。怒ったかい?」


 俺はいやっと首を振る。


「いえ、別に今は見られても困るようなもんないですし俺は」


 そういえばロフト先輩が苦笑した。


「今は……か。やっぱり怖いね君。思った通りだ。怒ってくれれた方が幾分かやりやすいっていうのに」


「それで先輩まだ要件が見えないんすっけど」


「普通に騙してたことを謝りにきたのさ。後、君がクランを作る気だって聞いてね。本気かい?」


有栖川から漏れたとは思えない。はてさてどこから聞いてきたのか恐ろしい人だ。


「それはまあそうっすね。できれば一年の間に」


「ってことは半年も掛からず君は先輩達の中に食い込む気かい?」


「勿論、成り上がるために来ましたから俺はここに」


 真顔でそう答えれば彼は噴出した。


「ははっうん、やっぱり君の情報は余り流さないでおこうかなそっちの方が面白そうだ」


 そう言って立ち上がった彼はパンパンと体を払ってから振り向いた。


「やる気のある下級生なら上級生はいつだって大歓迎さ。その歓迎方法は内緒にしておくけどね」


「それは……お手柔らかに」


「じゃあね桂木流星君、君と再会できる日を楽しみにしているよ」


「ええまた先輩」


 多分、彼はもう二度とここに姿を現すことはないのだろう。彼の居場所はここではないから。俺はゴロンと転がった。


 無数の星々を下から見る俺。現状俺の学園での立ち位置はまだこんな感じだろう。これまでのVRMMO経験を駆使して、地盤を固める必要がある。


 俺は手を伸ばしぐっと星を掴んだ気になった。全てを手に入れてやるさと決意に決めて。

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