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ミアがいないストラージュ 光姫◇

「俺がNPCに攻撃したらシステムに止められて、向こうは普通に蹴ってくるとかズルいよな。痛くはないけどさ」


「どうせお主が揶揄(からか)ったのじゃろう?」


 図星でうっと詰まる。俺とキッカはエアに会うためにトリスタン城に向けて歩いていた。ストラージュの町の雰囲気を味わいながら。


「何かアイツと仲良く喋ってる絵が浮かばなくてな」


「子供っぽいところがあるのうお主は」


 幼女キッカに言われるとダメージがヤバい。


「馬が合わねえんだってアイツとは。お前の方はどうなんだよ」


「んー子供扱いされるの。まあでも慣れたのじゃ」


 何でキッカが一番大人みたいな雰囲気になっているのだろうか。解せない。そう肩を竦めればキッカの灼眼が俺を捉えた。


「それはそうとエアに挨拶してここを出るのかの?」


「まあそれで丁度いい時間になるだろうからな」


「流星や……もうここには戻ってこぬのかの?」


 少し寂し気に言うキッカに俺は答えた。


「ちょくちょくは訪れるかもだが、ほとんどないって思ってくれ。何だかんだここは始めの町。情報見てるとレベ上げとかそういうのには向いてねえ見てえだ。後、学校側の催し事も始まってまったり楽しむどころじゃなくなると思うしな」


「そうじゃったな。本来はここから始まるのじゃな」


「俺らはベータープレイヤーだからな。後、学生で特殊フィールドから始まったから分かりにくいけどストラージュがチュートリアルみたいな役割を担ってる。まあ落ち着いたら帰ってくるさ。まだ倒してないユニークもいるし、クエストもまだまだ残ってるだろうしさ」


「なら良いかの。しかし、ここが始まりなら、お主の言っておった町はなんであったのじゃろうな」


 キッカが言っているのは俺がカップワンと見た謎の町のことだろう。あの時のことを俺はキッカにできる限り伝え話していた。


「カップワンとかいう奴と出会った時のあれな。わかんねえけど、俺の勘だと深層な気がしてる」


「深層というとこのゲームが”2層”に分かれておるという話じゃの」


「あーっとお前まだ”紹介ムービー”見てないんだっけか。後で見せるわ。まあ、だとして何でエリオットが俺らにそれを見せたかさっぱりだけどな。そもそも深層ってのが何なのかもわかってねえし……って着いたみてえだ。フラッグが見える。ここまでだな」


「ふむ、ストーリーになるのじゃな。ではの流星」


「ああ、後でな」


 キッカが消えると、兵士が現れ俺は王城の中へと案内してもらう。アッシュが命令を下したというよりは姫様に伝える手段を持っているのだろう。まあ、ゲームだからその辺適当なのかもしれないが……。


(アホみたいに作り込まれてるんだよなこのゲーム。ってかあれか。なんてったっけ?コントロールネグレクト?とかいう手法で作られてんのかな。有栖川もAIが作ってるって言ってたし)


「稀人様、姫様はあちらに」


 辿り着いたのは庭園。奥に椅子に座ったエアの姿が見えた。


「ありがとう。あっと……」


 礼を言ったが兵士の名前が分からないと詰まると青年がクスリと笑った。


「ユーリと申します。ですが、もうお会いすることもないでしょう。今日は偶然兄の代わりに出てきましたから。稀人様にお会いできて光栄でした」


「……ども」


 何だかむず痒い。NPCから稀人がどう見られているかはどうにも掴みづらい。いや、意図的に描かないようにしているというべきか。


「姫様のことお願いしますって俺が言うのも変ですね。では」


 ペコっと頭を下げて去ってゆく青年の背を見て俺は思う。


(何の役もないNPCであれか)


 やっぱりある程度設定して自立的にAIに動いて貰う手法をとっているのだろう。素人なのでどうやってるのかはさっぱりだが。


 俺が近寄ってもエアは集中していて気づかない。大量の本の山に埋もれて何かを研究している。ミアの姿が過った。しかしよく考えてみれば俺はエアとほとんど会話したことが無かったことに今更ながら気づく。


(そっか、俺ミアとしか喋ってなかったんだっけな)


 若干の気まずさを感じながら俺は声を掛けた。


「よっエア姫」


「あっ稀人様お待ちしておりました」


 流れるような水色髪。当たり前だが容姿が瓜二つ。だから嫌でもミアの事が頭を過った。けれどちょっと変わった点があって俺はそれをじっと見つめる。あのCクラスの慧木麒麟(けいききりん)のように彼女はモノクルを付けていた。


 彼女は俺が注目していることに気づいたようでクスッと笑った。


「これですか?そうなんです。私、鑑術士になったんですよ」


「研究のためにか、頑張ってるんだな」


「はい、彼女の引継ぎに便利だと思ったので実際とっても(はかど)ってます」


 ふんすと鼻息を立てて可愛らしくガッツポーズを決めるエア姫。何だか明るくなったなって俺は思う。


「閉じこもっていた時と違って今は凄く楽しいです。きっと目標ができたからですね。これであの子がいたらもっと良かったんですけど」


「アイツのことだし、どっかで見ててくれてるさ。案外、目ざとい奴だったし」


「ふふっそうですね。見守ってくれているとそう思っています」


 これで余談は終わりとエアは真剣な視線を俺に向けた。


「この国を出られるとアッシュから聞きました」


「そうだな。姫さんとの話が終わったら出るつもりだ」


「随分急なのですね」


「こう見えて忙しいんだ。色んな国回ることになると思う」


「そうですか。でしたらあの子にも見せてあげて下さい」


 見せる?っと首を捻ればエアは俺の胸元を指さした。


「宿っている気がするんです。あの子がそこに」


 俺はミアの首飾りを取り出し見つめる。


「化けてでないだろうなアイツ」


「どうでしょう。魔物ですからね」


 二人で笑いあって、息をついた。終わりだなとエアに別れを言おうとしたがここで第三者の声が鳴った。


「あーエアお姉ちゃん。こんな所にいたー」


 小さな女の子の高い声。ぎょっとし振り返ると緑色のクルクル髪が目に入る。エアよりも一回り小さいこの少女。覚えがある。ストーリーの中で一度だけ見た光姫だ。彼女も姫と言わんばかりにドレスを纏い、ティアラを乗せていた。


(なっ!?)


 彼女の深い碧眼と目があった瞬間、時の流れがスローになる。これも知っている。アッシュとの邂逅の時と全く同じ。


(まさか、ストーリーに入った?)


「お兄ちゃんだあれ?」


「この方は稀人です。ラピス」


「ええ!この人が稀人なの!やったー!ラピス会いたかったんだ稀人さんに」


 光姫ラピスが俺を見る。何故だろうか。演出なのだろうか。その目を見るだけで何故か鳥肌が立つほどにゾッとした。


(稀人様)


「うおっ」


 脳内にエアの声が聞こえて驚いてしまった。


(念話です稀人様。声を出さずに)


(ビビった。そんなこともできるんだな姫さん)


(あの子の研究の結果です)


(そっか、他種族との対話だっけか。アイツが調べてたのって)


(はい、その産物というわけです。この話はまた機会がありましたら、本題ですがラピスには私が影姫であることとあの子の事を内緒にして欲しいのです。この子が知らなくていいことですから)


(……分かった)


 もしストーリーなら分岐の可能性もあるけれど……。


「ねえねえお兄ちゃん稀人なんだよね?」


「ああ」


 澄んだ紫眼。キラキラとした瞳で見つめられる。最初のようなゾクリとしたものは感じない。天真爛漫な10代相応の光。いや、大人のような理性の色を僅かに感じるか。


「稀人さんから見たこの世界が遊びってホント?遊戯盤なんだって」


「遊戯盤かは分からねえけど、ゲームってのはホントだな」


「へーだったらお兄ちゃん、ストラージュの町は楽しかった?」


 この問いに少し詰まる。俺はあれを最高のゲーム体験だったと言い切れるが、この子の言う楽しさとは少し掛け離れたものだと感じたから。


「楽しいっていうより、この世界に引き込まれた。もっといろんなところを回ってみたいって思うようになった」


「ふーん、それじゃあ え?もうこれ以上は聞いちゃダメ。えーつまんないよー」


 急に隣の空間に顔を向け話し始めたラピス。当然、彼女の横には誰もいない。けれど──


(いや、何かいる?)


 希薄だが気配を感じた。彼女の横に何かが立っている。そんな気がしたのだ。マジの勘だったがエアが正解だと教えてくれた。


「稀人様、ラピスは精霊が見えるのです」


「精……霊?」


 現状、このゲームの精霊は魔法詠唱としての登場のみで、その姿形は謎。掲示板で話題にすらなっていないし、見たプレイヤーもまだ存在しないだろう。


「稀人さんって精霊さんが見えないんだ。神様は近しいものって言ったんだよね」


 年相応の興味心。ラピスから先の威圧感は感じない。いや、移動した?横にいるらしい精霊から薄らと感じるか?


「稀人様?」


「ああ悪い。見えないな。俺らの世界には精霊なんてものもいないし、ゲームでそう設定されてるからって……」


 キョトンとする二人の姫に俺は頭を掻いた。


「んー姫さん達に説明するのは難しいな。上手くいえないかもだ」


「えーそこを教えて欲しいのにー」


「ラピス余り稀人様を困らせてはいけませんよ。稀人様は神からの制約が多いと聞きます。言えぬこともあるのでしょう」


 ちぇーっと口を尖らせ残念がるラピス。そんな時、遠くから女性の声が聞こえてきた。


「ラピス!ラピスどこにいるのです!」


「げっ!?」


 姿は見えないが恐らくは母親だろう。使用人なら様づけするだろうから。抜け出してきたと言わんばかりに顔を青ざめさせたラピスは駆けだそうとし、思い出したように振り返った。


「稀人さんお話しできて面白かったよ。またいつか会えたら今度は稀人さんの世界の事が聞きたいかな。それとエアお姉ちゃん」


「?」


「変わったね。まるで人が変わったみたいだよ。ううん、元に戻ったのかな」


 ギクリとし、エアが誤魔化しの言葉を放とうとしたときにはもうラピスは走り去ってしまった。ミアとはまた違った。嵐のような少女だった。チラリとエアを見ればやや放心したように彼女のいた場所を見つめていた。


「大丈夫か?」


「鋭い子ですから見抜かれていたようですね……」


「会ってたのか?ミアとラピスは」


「いいえ、父と母が決して会わせないようにしていました。ただ、街の者や城の者から話を聞いていたのでしょう。小さい頃は私によく懐いていましたから」


「そっか」


 このゲームがどこまで作り込まれているのかはわからない。ただ、今の台詞のニュアンスにもキチリと意味付けされているのだとすれば……何となくミアとラピスはどこかで出会ったことがあるんじゃないかと思ってしまった。


「すいません、何か変な感じになってしまいましたね」


「いや、マジで来て良かったよ。また絶対こようって思った」


 俺がそう言えばエアはニコリとほほ笑んだ。


「はい、いつでもいらしてください。水の都ストラージュに。あの子もきっと喜びますから」


 こうして俺はエアに別れを告げてストラージュの町を出ることになる。店に来ることもあるかもだが、彼らに関わる事は暫くはないだろう。


 このラピスの出会いによってラピスの部屋が解放される。が、攻略サイトを見てもどうあってもラピスもそしてエアとも再会することはできないらしい。


 これは後に知る事になるのだが、あるプレイヤーが全てのクエストを終わらせても動きは無かったとのこと。ただ、はっきり言えるのはストラージュの町のストーリーにはまだ続きがあるということだ。

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