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ミアがいないストラージュ アッシュへの別れの挨拶

 ストラージュ。そこは水の都と呼ばれるだけあってまさに滝と都市が融合した美麗な景観を望むことができる。そして、その非現実的な光景を形作っているのはこの国の守り神『水龍』の力であり、龍脈と呼ばれるマナの流れによるものだそう。


 まあ、ぶっちゃけるとよくはわかっていない。ストーリーやクエストをこなしたが大した情報は得られず、その辺りはまだまだプレイヤーには秘密の情報のようなのだ。


「龍脈か」


 俺は今、キッカと共に巡り馬車と呼ばれる乗り物に乗ってストラージュを回っている。巡り馬車は一周町を案内してくれるプレイヤー専用の乗り物だ。


「おっ!あやつ強そうな装備をしょっておるのじゃ!」


 ゲームが正式オープンを迎え開放されたためベータ版では見られなかった一般プレイヤーの姿が嫌でも俺達の目に入る。


(何か華やかになったな)


 ストラージュの町が変わったわけではないが、人がいるだけで俺はそう感じた。


「のう流星や」


「ん?」


「どうしてお主はこの馬車に乗ったのじゃ?本来、これは初回で乗るものであろう?」


 全く持ってその通り。こいつは初めてここに辿り着いた者が町全体を把握するために用意されたもの。裏ストーリーを終わらせた俺からすれば新しい発見はないだろう。


「裏クリアしたろ?一周見て見たくなってさ。


 ゲーマーっつうのはさ。クリアした町を軽く見て回りたくなるもんなんだって」


 俺はこの国で多くのNPCと出会った。彼らと再び会って、いつでも話すことだってできる。ただ、一人だけそれは許されない。裏をクリアしたことでそいつとはもう顔を合わすことができないのだ。


 ミア・ストラージュは役目を果たして俺の・ヴァラパラの物語から姿を消した。

 これはゲームだ。でも、もう彼女の姿をヴァラパラの世界で見られないと思うとちょっと寂しさを感じる。


 ただ今回で改めて思ったたのが、ゲーム世界にリアルさを与えるのはAIのデキに掛かっているということ。


「ここはあやつが守った場所じゃからの」


「身も蓋もないことを言えばそういうシナリオだったって話だけどな。久しぶりにゲームでぐっときたからこいつは別れの挨拶みてえなもんさ」


「別れ?」


「次の町に行く」


「そうか、寂しいが仕方ないのう」


 キッカも思う所があるのかじーっとストラージュの街並みを見つめる。


「ちなみに高峰と行く予定な」


「高峰?」


「ほら一緒に裏やったろ?武術士の」


「あーあの小五月蠅いちんまいやつかの」


 納得したキッカに俺はどの口が言うと溜息を吐く。


「お前だってちんまいだろ」


「ふっあれは成長せんじゃろ。じゃが、ゼロ歳児たるわしには余地があるのじゃ」


「お前ちょくちょくそれ言うけど根拠なんだよ」


「ヴァラパラはリアルを追求しておるのであろう。なら、わしが成長せんのはおかしいのじゃ。ボンキュッボンになっても知らんぞ」


「はいはい」


 カーっと怒り狂うキッカを宥めつつ、俺はストラージュの町を一望した。


「一応、アイツにも会っとくか。全く気は進まねえけど」


 ◇◇◇


「よっ!ってことで、きちゃった」


「……」


 冗談めいた俺にジト目を返したのは白髪騎士アッシュ・ヴィンヤード。ヴァラティエ界を代表するいけ好かない壁凭れ野郎である。


 アッシュは丁度訓練していたところだったようで、汗を拭っていた。まあ、ここはストラージュにある訓練場なので当たり前だけれど。


「それで?何の用だ」


「挨拶だよ。俺ここを出ることにしたからさ」


「お前は稀人だろうに」


「稀人だろうがNPCだろうが挨拶は基本だろ」


 俺が言えばアッシュはトントンと側頭部を指でうった。


「俺の直感がそれが本音ではないと告げているが」


「裏クリアでフラグ立ってるかも知らねえから一応きた。新しいクエスト出てるかもしれねえし」


「お前はまた訳の分からんことを」


 正直に話したのに呆れられる。解せない。


「まあでも挨拶にきたのもホントだって」


「そのようだな。稀人の中でもお前はとびきり変わっているのだろう」


「いや、普通な方だって……たぶん」


 途中で自信を失えばふっと鼻で笑われた。腹立つ。やっぱこいつ苦手である。


「姫様にも会うつもりか?」


「ん?そうだな。会えるならエアにも会うつもりだけど」


「なら俺から話を通しておこう。お前みたいな者でも喜ばれるだろうからな」


 いちいち一言多いが俺はおっと声を漏らした。


「なんだ?不服か?」


「あっいや!おkおk。それで頼むわ」


 実のところエアの方を先に尋ねたが兵士に断られたのだ。先にアッシュの元に訪れるがキーになっていたようである。


 変な奴だと零しながらアッシュは剣を立て掛けた。ストラージュの長剣。かなり使いこなされていて刃零れしている。


「当たり前だけどお前も訓練とかするんだな」


「俺は騎士だぞ。当然だ。ただ、この剣の事を言っているのならこれは俺のものじゃなくアイツのものだ」


「ミアの?」


 俺は職玉を潰し、鑑術士に転職する。モノクルの下で目を見開いた。


「はっ?強っ」


 ◆───-- - - -            - - - – --───◆

 ミアのカットラス ランクUltra rare  威力154 -80

 舶刀。ミアが長年使用していた長剣。特異な出で立ちの彼女が振るうことで魔力が宿り魔剣となった。劣化が激しく、腕のいい鍛冶屋が必要。

 ◆───-- - - -            - - - – --───◆


「やらんぞ」


 とはいうが何らかの条件でプレイヤーがゲットできそうな武器である。恐らくその条件は……


「アッシュ。これまでのことは水に流して一瞬、俺と仲良くなろうか」


 すっと手を差し出せばぺチンと叩かれてしまった。


「これほどまでに下心を滲ませた握手を俺は今後生涯見ることはないだろう」


「辛辣だな」


「事実だ」


 警戒を露わにしたアッシュの前で俺は降参だと手をあげた。


「冗談だ。怒んなって盗りはしねえから。思い出の品なんだろ?」


「ああ、今となってはこれが最後の繋がりだ。彼女が生きた証は国に処分されてしまったからな」


「そっか……」


 悲しい話だ。ミアがいたという事実は抹消される。まるで初めから彼女なんて存在しなかったと言わんばかりに。ただ一部の人間の記憶の中だけに留まるのが救いと言えるか。


 これがゲームであろうとミアの剣がどれだけ強い装備であろうと性格上ちょっと使えなさそうである。


「最後の繋がりか」


 そう言って俺はミアのペンダントを胸から出してアッシュをじっと見つめた。


「……」


「……貴様稀人の中でも相当性格が悪いだろう」


「ああ、だが俺の直感が言っている。アッシュお前ほどじゃないと」


 そして俺はNPCに蹴られた。ちょっと揶揄ったのは普通に別れるのが恥ずかしかったから。彼の直感スキルがそれを暴いていないことを祈ろう。


 また会う機会もあるだろうが、暫くはさよならだアッシュ。

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