『クエストNo,134 騎士道を求めて』①
ストラージュのストーリーをクリアしたとはいえ、全くクエストをこなせてなかった俺は正式版がリリースしたと同時にキッカと共にクエスト消化に奔走した。
その中でも印象に残ったものの一つがやっぱりジョブが手に入るクエスト番号134番だった。
「この馬鹿もんがあああああ」
「のじゃああああ」
「剣を手放すなと言ったはずだあああキッカマークツー」
「流星!流星!幼女虐待じゃあああああ。幼女虐待が発生しておるううう」
「あーもううるせえよお前ら!集中できねえだろ」
ストラージュの町中にある兵士訓練場。そこで爺さんに厳しく指導される幼女と俺。この爺さんはストラージュの町に入った時、エアというかミアを追っかけていた元隊長の爺さんヴェイクだ。
ストーリーではビックリするほど絡まなかった彼だがもう引退したと聞きちょっと納得した。つまり、まあ物語とはいえ爺さんが剣をとって教えてくれているのは俺達のためということ。
(といっても全プレイヤー教えてるって考えたらえぐいよな。チャンネル式ってマジでどうなってんだろうな。映像とはいえ何万体のヴェイク爺がいるってことだし、あっそのチャンネル加齢臭ヤバそう)
「集中が切れておる。ふんっ!」
「あだっ」
ゴンっと爺さんに思いっきり殴られた。
「何すんだよ痛いだろ」
「何を言うか若造が。稀人は痛みを感じんのだろう。全くどういう体しとるんじゃ。死んだら生き返るというしわしらからするとお前らの方がバケモンじゃ」
「まあだろうな」
確かに死んでも生き返り、この世界俺らにとって遊びなんだよねっとかのたまう。こんな奴が現実にいたら卒倒ものである。
「パラシス様に感謝するんじゃな。でなければ稀人狩りが横行してたに決まっておろうわ」
「神様が偉いのはわかるけど、よくそれだけで止まるよな」
「なんじゃ知らんのか?我らが稀人に悪意をもって手を出せば麻痺して動かなくなるんじゃ」
俺が眉間に皺を寄せて爺の手を指さして自分の頭を指して今の鉄拳はっと示せば再びぶん殴られた。
「これは愛の鉄拳じゃ!悪意などありゃあせん」
「大昔の体罰教師かよ爺は。痛くねえけどクラっとはするから止めろって」
「はっ年寄りを労わらんからじゃ」
ったくっと息を吐いて俺は自分の持ち上げた剣の上に乗るリンゴを見た。
「で?これ一体いつまでやればいいんだよ」
俺が爺から指定された訓練はただひたすらリンゴを乗せた剣を水平に保つというもの。現実じゃないから筋肉が疲れないとはいえ飽きてきた。
あと、時間経過でどんどんブレるようになり難易度が徐々に上がる仕組みになっている。
「まだ一度目。しかも、今ので落とさんとはの」
「こういうの俺得意なんだよな」
バランス系はVRMMOでよくあるギミックだが俺の十八番だ。
「化け物が、アッシュですら数か月と掛かったぞ」
爺はそう言ってぼんやりと素振りをするキッカを見つめていた。それは何かを思い出している憂いのあるもので、ただそうあるように作られただけのAIだとは思えないほどだった。そんなヴェイク爺の口が再び開かれる。
「あやつは正しく強くなった。きっとわしがいなくともこの国の騎士たちをよき方向に導いてくれるだろう」
そうか?全員壁に凭れだしたりして。
「爺さん、まだ現役でもいけるんじゃねえか?そんなに元気なら」
「勿論いける。が、わしはもう剣を捨てた」
「何で?」
彼はじっと俺を見て一言──魔物を育てたからだといった。
◇◇◇
「ぐへええ疲れたのじゃああ」
「あらあらお疲れ様ね。ほらキッシュパイ焼いたから食べてねキッカちゃん」
「おおおおありがとうなのじゃ!ミルケ」
今、キッカに話しかけているふくよかな女性はミルケおばさん。この人はヴェイク爺さんのお嫁さんで訓練を終えた俺達は彼の家に招待されたというところだ。
ヴェイク爺さんの家はホント日本人が思い描く模範的なファンタジーな家を想像して貰えればいいだろう。
「貴方!こんな小さい子に訓練をさせたのですか?」
「馬鹿いえ。それは稀人じゃ。疲れなどせん。大体、流暢に喋ってのじゃのじゃいうちびっ子が普通なわけないじゃろう」
それはそう。奥に消えていた爺は着替え終えたようでラフな格好になって戻ってきた。そしてキッカを見て顎でしゃくった。
「ほれ見い。貪り食っておる。並の新兵なら嘔吐する訓練だというのにの」
キッカを見れば口がパンパンに膨らんでいた。ミルケはクスッと笑って慌てないでねとキッカを優しく撫でるのだった。
俺もキッシュパイを一つ貰ったがキッカはまだ食べている。あの小さな体のどこに消えてるのか不思議だと思ったがそういういえばこれゲームだったと思いなおした。ミルケはそんなキッカを嬉しそうに懐かしむような目で見ていた。
「なんだ、お前嬉しそうだな」
「え?だって懐かしいじゃない。姫様とアッシュって子がここにきてたこと思い出して」
俺とキッカがバっと見ればミルケおばさんは苦笑した。
「この人こんなのでもほら一応は騎士団長でしょ。よくエア姫様が遊びにきてたのここへ。信じられないわよねこんな家に」
「遊びに来てたわけじゃない。彼らは騎士だ。訓練でここにきていた」
「ふふっお姫様が訓練するわけないでしょ。この人いっつもこの冗談言うのよ。嫌になっちゃうわ」
そういって彼女もキッシュパイを手に取って食べることなく続けた。
「姫様も溌剌とした方で、貴方みたいによく食べる方だったわ。影姫制度で生贄役になったって聞いた時は卒倒したけど無くなったって聞いて……ホントに良かった……お披露目で元気そうだったし。でも、やっぱりお姫様。お城にいると雰囲気変わっちゃうわね」
あら、ごめんなさいねっと彼女は涙拭う。俺がチラっと爺さんを見れば彼は首を振った。知らないってことなんだろう。彼女の知るエアがミアで本当は魔物でシナリオ上とはいえもうこの世にいないってことを。
「あっごめんなさいね。折角、食べていたのにキッカちゃん」
キッカが食べようとしたキッシュをゆっくり更に戻したことでミルケおばさんが慌てたがキッカはふるふると首を振った。
「十分じゃ。馳走になった。もう胸がいっぱいなのじゃ。その者に食べさせてやりたいと思ってな。どうやって渡して良いかわからぬが、これをアイテムボックスに入れて持って帰ってもええかのう?ミルケ嬢よ」
「ええ……いいけど、お嬢ちゃんなんて言われたの何年振りかしらっふふ」
何故か滅茶苦茶機嫌がよくなったミルケおばさんおもてなし攻撃で爺と話す時間がぐっと遅くなってしまうのであった。
そして真っ暗となり、やっと消えた彼女に爺が溜息を吐く。
「全く、年甲斐もなく騒ぎよって。こいつらと話があるというたじゃろうが」
「ミルケおばさんって幾つなんだよ?」
「今年で57?59じゃったかな」
もうボケてると思いたい。
「で?爺の年齢は」
「74じゃな」
ふむと俺は頷き次の質問へ。
「じゃあ結婚した二人の年齢は?」
「なんでそんなこと聞くんじゃ」
ジト目で見てくるが俺は大事な話だと言う。
「わしが31でミルケ16じゃったかな」
俺はキッカに耳打ちを行った。
「キッカ気を付けろ、この爺ロリコーン疑惑がある」
「うぬ、じゃがそうなるとわしはお主のことも気を付けねばならんという話にならぬか?」
何ということかキッカがツッコミを覚えてしまった。このゲームのAI成長っぷりが恐ろしいと頷く。
「確かに。爺、アンタの話より先に大事な話がある。俺の称号をあんたに譲ろうって思うんだ。騎士を教えてくれたお礼にな」
俺はこの称号消滅にワンチャンを賭けたが爺の拳骨制裁を喰らったのだった。
────────────────────────────────────
あとがき
VERごとの町で纏めたため日常譚は時系列がほんの僅かに前後 プチ予告。数は少なくわりとその町のストーリーの重要な部分が語られます




