閑話 輝き出した星を気に掛ける者達
【エリオットとカップワン】
「何?また桂木流星の記録が見たい?」
エリオットの執務室。役目を果たすカップワンに報酬を聞いたエリオットだったがふんふんと頷く彼女の意外な願いに目を丸くした。
「要求、エリオット様希望聞くと言った」
「言ったし構わないが何故彼なんだい?もっと凄いのもあるんだよ。ベータープレイヤーの中でレイドボスに1PTで挑み勝利してみせた子がいるんだ。とんでもなかったよ。開発部が騒いでた。僕もあの洋介の再来かと思ったくらいさ」
洋介とはラヴェル創始者鞍馬洋介のこと。そして、エリオット・レインリバーが所属したクランのトップを率いていた男である。
「希望、彼のがいい」
「何故?君が他者に興味を持つだなんてね。それも人間の。教えてくれたらプレイ記録を君に譲渡するよ。プライベートなものまでね」
エリオットがそういえば思考しているのかボーっとしてカップワンは首を振った。
「難問、わからない」
「ふむ」
じゃあ、あげられないと虐めてやりたいところだが、彼女からの希望は珍しい。どうしたものかとエリオットは悩み、エリオットが答えを出すよりも先にカップワンが口を開いた。
「自己心情予想、彼は変。それが引っかかる」
「変?」
うんとカップワンが頷けばぶはっとエリオットが噴出した。
「くっふは、変か。そうか確かに彼は変わったところがあったろうか」
エリオットは開発者として膨大なプレイ記録を見ている。そのため記憶は曖昧だが、確かに彼を見て変な子だと評した記憶がある。といってもエリオットにとって桂木流星は所詮、沢山いるプレイヤーの一人だ。
「心外、喜となることカップワンやってない」
(怒った?それとも恥じらいか?感情が増えてきたか)
「悪かった」
ほらっとエリオットが今時CDロムを渡しそれを大事そうに受け取った。
「それでカップ……いない」
もう要件はないと言わんばかりに顔を伏せた瞬間出ていってしまった。まあ、頼むことは無い。とはいえちょっと寂しいとエリオットはぼそりと呟いた。
「好きなことをし良く学べカップワン。鞍馬洋介の……ために」
ちょっとボンヤリしていたが、そこにピンっとCALLの文字が彼の横に出、エリオットがそれを押すと
「エリオット様、確認書類が届きました」
というアナウンスと共に大量の電子書類がざああああっと流れてきた。それを見てぐっと伸びをするエリオット。そして──
「あ”あ”あ”ゲームやりてえええええ」
っと誰も見ていないのをいいことにキャラを崩壊させ彼は一人で叫ぶのだった。ゲーム開発者が大変なのはいつの時代も変わらない。
【カップワン】
テトテトテトとメイド姿のカップワンは廊下を歩く。すれ違うロボットに律儀にペコっと会釈しつつ彼女が辿り着いたのはエリオットから与えられた彼女専用の部屋だった。
女の子らしい部屋……だが、彼女が飾り付けたわけじゃなく、見せられたカタログからこれっと指を指しただけ。
どこがいいかわからないし、何がいいかもわからない。つまりはどうでもいい。彼女が今大事そうに抱えているROMは唯一興味を見せたものといっても過言ではなかった。
別に彼に好意を持っているとかそういうことではない。ただ、ちょっと彼と一緒に旅をするキッカが羨ましく思えるだけだ。
彼女はぽふっと座布団の上に座るとパチっと電気を消して映像を流した。桂木流星のプレイ記録。じーっと見つめて引っかかったところで彼女は止めて巻き戻す。そしてあるシーンを彼女は何度も何度も繰り返した。
それは桂木流星が泣いている女の子の前でドヤっているシーン。何かぼそぼそ言っている。
「俺は笑わねえし、ここであったことは誰にも言わねえって約束する絶対に」
ピっ
「俺は笑わねえし、ここであったことは誰にも言わねえって約束する絶対に」
ピッ
「俺は笑わねえし、ここであったことは誰にも言わねえって約束する絶対に」
次第にカップワンに眉間に皺が寄っていく。
「疑念、ここ胸がきゅっとなります。羞恥?何故?」
誰もいないのでカップワンに答える人はいなかったがもし流星がいたらきっと彼は地獄と答えたに違いない。
【有栖川家】
VRMMO全盛期時代。VRMMOで人が食えるようになって100年以上も経過。そのため数多くのトッププレイヤーを輩出する名家と呼ばれる家々が誕生。その中の一つに有栖川の名前があった。
「2番から32番応援要請、ゲーム名フェス。素材高騰予想のため買い占め及び狩場の確保急ぎたし」
「56番から178番、刀祢様への嫌がらせが発生。SNS全力悪口投下を許可します。社会的に……殺れ」
イエッサーっと大量のメイド達が広い館内を走り回る。それを胡乱気な目で見る紺色おさげ髪のメイドがいた。
彼女の名は九官小鳥。可愛らしい顔立ちの彼女だが、目下に隈をつくり、額に某熱覚ましをペタリとし、バケツに片足をつっこんでいた。そしてパタパタとうちわで仰ぐ。
「あっちー」
「小鳥大丈夫?」
同僚の子に心配され小鳥は、はぁっと息を吐いた。
「これが大丈夫に見えますか?」
「ええっと……見えない」
っと苦笑う同僚の横でへへっへへへっとヤバい笑い方をする小鳥。
「ずっとずっとですよ朝から晩まで稽古稽古稽古稽古。脳が溶けそうになるわ。患部が熱くなってくるわ」
「お嬢様あのゲームにご熱心ですものね。何ていいましたっけ?」
「ヴァラエティー何とか。馬鹿ですよね、たかが学校の教材に必死になられて。意地を張らずに人気ゲーやればいいのに。刀祢様が当主に選ばれたからって」
「しっ小鳥その話は禁句。それに噂だとお嬢様負けたわけじゃないらしいわよ」
「え?だったら何で」
「何でも引き分けて刀祢様が男だからって話」
あくまで噂だけどねっと小鳥の同僚は肩を竦めた。
「何その時代錯誤な。ゲームに女も男もないっつーの」
「でもハイヒューマンには男が多いって言うわよ?」
「はっそんなの今だけ。女舐めんなっつーの」
そこでピンっと放送が入り、二人は揃って顔を上げた。
「38番38番胡桃お嬢様がお呼びです。38番」
「ねえ、私の番号なんだっけ?」
泣きそうな小鳥の質問に同僚は38と苦笑して答えるのだった。
◇◇◇
てっきり意固地になっているのと思っていた。刀祢様に負けた腹いせにご乱心なされたと。いや、でも引き分け理由が性別となればご乱心なされたのだろうか。
「お嬢様側で応援はしてるんですけどね」
小鳥はニーモテクスに着替える。彼女の子供っぽいラインにピッタリと吸い付く。ちょっとHだがまあ誰も見てないからいい。見てないよね?
胡桃お嬢様付きの小鳥としては彼女の意思を応援するのが当然だ。ただ、彼女がラヴェルに行くといった時は小鳥は強くそれに反対した。
別にラヴェルを貶めるつもりはない。でも、胡桃お嬢様は幼少期から有栖川家の教育を施されてきた。今更学ぶことってある?って思うのだ。そしてヴァラパラなどという聞いたこともないゲームに熱中なさられるし。
「諦めてしまった……ではないですよね?お嬢様」
小鳥はパンドラボックスに身を入れるとラヴェルの有栖川胡桃と通信を行った。
ブツっと意識が目覚め、小鳥はフワリと訓練場に降り立つ。キョロキョロすれば胡桃お嬢様が隅っこぶつぶつ言っていて小鳥は首を捻った。
「お嬢様、お呼びと聞き参ったのですが何事でしょう?」
「あっ小鳥。聞いてくださいまた新しい重ねができるようになったのです」
また重ね?と心の中で小鳥は首を捻った。天才たるお嬢様は一度でゲーム設定を理解し見抜いてしまう超感覚を持っている。だから、これまで”また”なんて言葉は無かった。有栖川は熱に魘されたように息を零した。
「このゲームは凄いですよ。奥が底がまだ見えない。こんなの初めてです」
(え?でもまだこのゲーム発売されてないわよね?)
しかも発売前なのに碌に宣伝されていない。そのためヴァラパラへの小鳥の評価は低い。まあ、お嬢様時々変な事言うしと一人で納得。
「そっそれでお嬢様何のご要でしょう。先ほどのあつーい訓練からまだ10分と経っていませんが……意見交換とか」
「勿論、訓練です。付き合って下さい」
(OH……Oh my god kotori-)
フンスとやる気に満ち溢れたお嬢様がガッツポーズする。可愛いが回避せねばとクワっと小鳥は目を見開いた。
「おっお嬢様。もう夜も更けてきました。長時間のプレイはお肌に悪いと聞きますので……あのですね流石にちょっと」
「そんなこと言っていられません。私に好敵手ができたのです」
「好敵手?ですか?」
えっ?刀祢様じゃないのと小鳥を無視し有栖川は続ける。
「そうです。彼はとんでもなく強くなる。私にはわかるのです。そして私はその彼を必ず倒す」
彼?男?次?混乱する小鳥。その前に有栖川が立った。
「ラヴェルに入ってよかった。私に目標ができるだなんて。小鳥、有栖川家として許された時間限界24時間まで一杯。つまり朝までやりましょう!さあ」
(いやああああああ Oh my god kotori-!!!!)
九官小鳥。有栖川胡桃の傍付き。彼女は有栖川に引きずられるようにしてヴァラパラを始めることになるがアホみたいに嵌ることになる。心配した同僚に彼女はこう告げたのだという。
「ヴァラパラ止められないんですよおおおおお」
っと。そして同僚も嵌り彼女達メイドは同じセリフで後に咆哮する。
【權田衛士】
「いないな」
權田が見ているのはクラス表。S~Cまで見て”彼”がいないことを確認して流石にこれよりしたはいいだろうと彼は寂しそうに視線を切った。
「セイリュウ」
彼が呟いたその名。それは權田が中学時代に嵌ったライフストリームで出会ったプレイヤーの名前。
勿論、それが馬鹿なアナグラムだって事は知っている。でも、染みついた。それだけ權田衛士にとって衝撃だったのだ。桂木流星という存在が彼のVRMMO人生の中で異彩を放っていた。
權田はずっと強さこそが正義と信じてきた。実際、それは正しく權田はメキメキと力をつけて同じ年で敵なしとなり、大人に混じるようになった。
そんな時だったセイリュウと呼ばれるプレイヤーに出会ったのは。權田の目から見て彼は強いというより上手いだった。
既に權田より実力は上だったが最強ではなかった。加えてバカみたいなミスもする。よく年上に怒られていた。
でも、彼の周囲には何故か輪ができて、よくわからないままに駆け上がってゆく。どんどん差が開くことを恐れ、權田は彼を調べようとPTを組んだ。
そして気づく。彼と共にやると異様なほど戦闘がゲームが楽しくなると。始めはそういうものだと思った。
でも、彼と組んだ他の連中が同じ感想を呟いたことで理解した。桂木流星。彼は狂気的なレベルで人の呼吸に合わせる能力がある。そしてそれを他者に悟らせない。本人も気づいていないかもしれない。天然だ。
ふと思った。彼はスローターだ。彼は本気でゲームを楽しむが本気に本気を重ねない。他者に気を使って進行を遅らせることだってある。であればもしも彼がのめり込み夢中となるものに出会ったとしたら?
そう考えるとぞっとするほど彼の背中が離れて見えた。隣にいたと思った目標が消えた。でも、だからといって權田は諦めない。自分のやり方で上にゆく方法を模索するだけだ。
あれは目指すものじゃない。自分とは別種のプレイヤー。
けれど願わくば彼ともう一度遊びたいものだ。そう薄く笑うと声を掛けられた。
「何で今更クラス表とか見てるんすか權田さん」
「高峰か」
高峰功。ちびだが彼も權田の認める実力者だ。生意気なのに何故か腰巾着のように付いてくる。
「気になるプレイヤーがいてな。だが、いなかった、西にいったのかもしれん」
「へーどんな奴っすかそいつ」
「ハイヒューマンに至る道に強さ以外のものも必要だと俺に教えてくれたプレイヤーだ」
「え?何それ気になる!教えて下さいよ!ちょっ權田さん」
そして彼らはその話題のプレイヤーとレイドPTを結成することとなるのだ。一部の者からラヴェルの馬鹿者達と揶揄されて。




