閑話 すれちがう二つの星
水の都ストラージュの町を一人の青年が練り歩く。彼は紺を基調とした衣を纏い、男ながらに長い髪を後ろで括りつけている。
顔は整っているが無表情、目にも色味が無くこの世に興味がないとでも言い出しそうだ。名を紫水鏡也。彼は種類の違う二本の短剣を腰に挿し、その周囲を仲間らしき者達が固めていた。
彼らは流星とはまた違った形でこのヴァラエティーパラシスに入ってきた者達。所謂、ベーターテスターと呼ばれる存在であった。
(退屈だな)
友人に誘われ何となく応募した無名ゲームのベーターテスト。どういう理屈で査定したのか友人は落ち鏡也は受かった。折角だしと始め他のゲームでのクラン連中と遭遇し何となく行動を共にしている。
景色を見るだけでもこのゲームの出来は日本産だと信じられないほどに素晴らしく、現存するトップVRMMOと何ら遜色ない輝きを放っている。
何故、大きく宣伝を打っていないのかが不思議なくらいに。しかし、今だ鏡也の心を動かすものとは出くわせてはいない。
まあ、彼が興味を示すことなど他のゲームでもほとんどないことなのだが。
NPCもプレイヤーもすれ違う者達全てが紫水鏡也の目にはモブに見えていた。この時までは。
(ん?)
珍しい音が聞こえた。それはとても若々しい女の子の声にも関わらずのじゃという語尾がつけられるのだ。
何となく顔を上げると少年と幼女という奇妙な組み合わせの二人組が対面から歩いてきていた。彼らの会話が聞こえた。
「よいかの、流星。どう考えても前回わしの出番が少なかったと思うんじゃ。それはつまり言い換えるならお主がわしを蔑ろにしていたと同意ということっ」
「はいはいそれで?」
「つまりわしは要求するのじゃ。デート一か月を所望すると」
「馬鹿いえって。そんなところ学校の奴らに見られでもしたら絶対、ハイ・ロリコーンとか最低最悪なあだ名をつけられちまう。だから絶対駄目だ」
「むー」
「まあでもそうだな。お前とあんまできなかったのは事実だし、レベ上げ兼ねて二人でダンジョンアタックでも行くか?」
「おおっ!それは所謂、ダンジョンデートって奴じゃな」
「キッカ、お前とりあえずデートって付けたらいいって思ってるだろ?」
恐ろしいほどに下らない会話。しかし、既に鏡也の興味は幼女から少年に移っていた。鏡也は気づいたのだ。
少年が溶け込んでいると。プレイヤーであるはずの彼がまるでこの世界の住人のように感じられるのだ。何故?その疑問が鏡也の足を止めさせ、すれ違った彼らの姿を彼に追わせた。
「おっと、何だ急に止まるな紫水。どうした?」
鏡也が止まったことで被害にあったのは真後ろを歩いていた軽薄そうな男。金髪を逆立て大弓を背負っている。名をシドといい別のゲームで鏡也と同じクランに所属している者だった。
「あれは?シド」
「あん?あー、ありゃなんちゃらっていう学園の生徒だろうな。はっゲーマーが学校なんか行きやがって気に入らねえ。人から教わってトッププレイヤーになろうなんて考える甘ちゃんどもさ」
苛立った表情を流星達に向けるシド。その横から赤色の髪を持った女性がひょこっと顔を出した。
勿論、その髪色は現実のものではなくキャラメイクで染めたものだが、VRMMOではキャラメイクは制限され現実に即した容姿で行うよう強く推奨されている。
つまりその髪色は特別な許可をその女性が取っていることを意味していた。スコットランド人、アリア・エバンス。彼女はメインを僧侶としているようで錫杖を持ち白い法衣を身に着けていた。
「鏡ちゃんが興味持つなんて珍しいね?どっち?もしかしてあのちっこいサポートの子だったり?」
揶揄うような彼女の視線も意に返さず鏡也は淡々と答えた。
「少年の方だ。あの少年……強い。戦うことになるのかもしれない」
「あの少年……強いじゃねえよ。何カッコつけてんだ。これゲームだぞ?鑑定もせず、すれ違った程度でんなのわかるかよ」
馬鹿にするシド。それをアリアが諫めた。
「鏡ちゃん感覚鋭いから本当だと思うけどな私。ほら、VRMMOって脳を機械で繋ぐから第六感みたいなのがプレイヤーにあるって研究結果もあるくらいだし」
はーんと興味なさげに頷き返し、いつの間にか装備したモノクルをキリキリと回しだしたシド。無論、向ける先は流星だった。
「はっないない。戦うにしても秒殺だろうさ紫水。あれは外れだ、まだレベル6。隠蔽も使ってねえ。サポーターと遊んでるような見た目通りの餓鬼だぜありゃあ。強者の見分け方っつうのを分かってねえな紫水は」
「例えスローターだろうと化け物はいる。いや、むしろそうした者の中の方が多い。分かってないのはお前だ」
肩に手を回そうとしたシドの手を鏡也は払いのけた。
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※スローター レベル上げや装備強化のプレイングが遅い者のこと
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「何だ?拗ねちまいやがったぞ」
スタスタと前をゆく鏡也。その背を追いつつアリアとシドが会話する。
「鏡ちゃんの方が正しいと思うけどね私は」
「は?お前はどうだろうがいっつもアイツの味方じゃねえかアリア」
「そんなことないわよ。それは大体、貴方より鏡也の方が正しいからってだけ」
「てめえ……」
「まあまあ落ち着きなさいって。このアリアちゃんが教えてあげるから」
胡散臭げに見るシドの前でアリアがピっと指を立てた。
「シドはスポーツ選手の能力を現した表とかみたことある?」
「ん?ああ」
「よろしい。もっと分かりやすいのだと競馬。競馬の馬の能力とか示したのあるじゃない。でも数値通りにはいかない。だから賭けがなりたつわけだけど。そうなるのはあれはあくまで目安だから」
ボっと音が鳴り、気づくとシドはアリアに腹を打たれていた。寸止めされているため痛くはないが、その速度に驚愕する。
「なっ」
思わず腹を押えたシドに手をパっと開きながらニっとアリアは笑った。
「例えば、私のレベル5ステータス5だとして今のも5、ゆっくりうっても5。超人的な動きで避けてもレベル表示は変わらない。つまり目安。その人がそこまでこのゲームの能力を解放しましたよーってだけの数字。要するにレベルやステータスなんてものは、私たちのご先祖様がやっていたような前時代的なゲームの残滓。お互いベタ足で立って、その技の能力を全力でぶつけ合ったらこっちが勝ちますってね。そんな数値に拘る方が私からするとお子ちゃま」
「っ」
ギリっと歯ぎしりするシドはそれでも分が悪いと思ったのか押し黙った。
「更に言えば、私たちの本番はV-SPORTs。つまりは見世物。その戦いでレベルが低いので負けましたなんてのはお話にならない。皆上げてくるのが当たり前の数字。ねえシド、さっきの子がLVを私たちと同じラインまで上げてそれでも貴方は彼が絶対に弱いって断言できる?」
「……」
「鏡ちゃんが言ってるのはそういうことシド、貴方はどこで測る。VRMMOにおけるプレイヤーの強さというものを。それが分かれば貴方をプレイヤーとしてもう一段階成長ってええちょっちょっちょ待って待って早い早い鏡ちゃん待ってよ」
ザッザッザっと真顔で早歩きする鏡也に慌てて追いついたアリアはゼーゼーっと息を切らした。それがフリであることは鏡也も理解していた。
「なんだアリア」
「聞きたいことがあったのよ。この町に裏ストーリーがあるらしくって。それが3PT18人で挑むレイド戦らしいんだけど、それって結構強いらしいのよ。勿論挑戦するだろうけどパーティーリーダーの意向を聞いておこうかなって」
「そんなもの決まってる」
鏡也は水の都の城をその瞳に収め、色味の無い目をアリアに向けた。
「ワンパ(1PT)で行く」
この後、紫水鏡也率いる彼のPTは厄災グレゴア1PT討伐に成功。この話はすぐさま開発部に伝わりバトル担当者が戦慄したとのことだ。
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流星ノート〇 VRMMOでの容姿変更禁止
VRMMOがリアルになればなるほど例えゲームであろうと人の犯罪が与えるプレイヤーへのダメージが計り知れないものとなり問題視されることとなった。
VRMMO開発者は対応に追われ、永BANなど様々な方策を取るが、結局容姿変更禁止〈リアルにもダメージがありますよ〉が一番の抑止力になると判明し、それによる問題もあるものの今はこのやり方に落ち着いている
基本的に容姿変更禁止だが、有名プレイヤーや政府公認プレイヤーなど一部特殊な者は容姿変更可能となっている そういった特典を報酬にして政府がVRMMOプレイヤーを管理しようとしているという見方もできるだろう




