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裏・エンド だから彼女はまたねと言った

 疲れた。ゲームなのに息切れを起こしている。体力があるゲームはそうなるように設定されているけれど、ないゲームでそれが起こるのはブレインオーバーリミットと呼ばれる制御が働いているせい。


 要するにお前ら脳働かせすぎやから安めなっとシステムからの忠告である。エイプキングの時は体力だが、こっちは精神的な警告。久しぶりだったこの感覚は。全員息を切らしている。


 しかし、減ったと俺は思った。


 太一、高峰、權田(ごんだ)慧木(けいき)、有栖川、ナズナ、Eの女子Dの男子そして俺。見てわかる通り本当にギリギリ。残った者に大役を担った者が多いのはやはり上手いからだ。位置取り、スキル管理は特に生存力を高める。


 例え狙われることが多くともそうしたプレイヤーがレイド戦においてやはり生き残ることが多い。


「だあああ勝った」


「勝ったああああ」


 太一と高峰の咆哮。案外この二人息合うかも。俺も彼らと喜びを共有したかったがキッカが落ちてしまったのが残念だ。正直、今回は彼女に助けられ足を引っ張った。


(ベーター終わったら若干レベリングも考えるか)


 俺の想定よりこのゲームは難しかった。間違いは認める。それがトッププレイヤーの近道だ。


「ってあれ?」


 急に静かになったと思ったら皆いなくなった。勝利ルームとかあるのか?とか考えたがこっちに向ってくる者の姿でストーリーが始まったのだと理解した。


(そうだよな。そのために来たんだ俺たちは)


 この結末を見届けるために。駆けてくるのはエア・ストラージュ。振り返ると傷だらけの水龍が傍にいて俺が移動させられたのだと気づいた。


「ミアっ」


 手紙を見たエアはその名を使ってくれた。彼女が呼べば水龍は輝き、ミア本来の姿となった。ここで漸く初めて二つの同じ顔が並んだ。水色髪と青の瞳。一つは涙に塗れ、もう一つは傷だらけだけど……。エアは近づきミアを優しく抱きしめた。


「あはは……流星から聞いたのかな。そうだよ僕名前を貰ったんだ。ずっと欲しかった。同じ名前だと君から奪ったみたいで嫌だったから」


「そんなことありません。奪っただなんてそんなっ」


 泣きじゃくるエアに苦笑したミアは力なく空を見上げた。


「あと、見た?僕水龍にもなれるんだ。擬態ってミミックのスキル。それをストラージュの秘宝で強力にしたのが僕。これでアイツをやっつけようって思ったんだけどやっぱり偽物は偽物。オリジナルに勝てないみたいだ」


「どうしてっ貴方が一人で戦う必要があるのです」


「僕しか彼らと対話できない……からかな。グレゴアだけじゃなく彼らとも戦っちゃうでしょ?水龍様も彼らと顔を合わせたら戦わなくちゃいけないんだって。まあ僕が負けたら水龍様が倒してくれる予定だったんだけどね。いいところ稀人にもってかれちゃったははっ情けないや僕」


 エアが青い光を放つ手を掲げようとしたがミアがそれを止めた。


「回復魔法は無駄だよエア。僕は魔物。それに核が砕けた。もう長くない」


「私は……貴方に何もかも押し付けてっ私は」


「君のせいじゃない。確かに色々あれだったけど一つでもボタンが掛け違ったら僕は生まれてこなかった。僕はね、生まれた時から悩みを抱えていた。どうして僕は生まれたんだろうって。自分が魔物と知る前からさ。ずっとこの悩みの出所を探してた。そして、見つけた。それはエア、君からのものだったんだって」


 エアの涙を瀕死である側のミアが指で優しく拭って言葉を(つむ)ぐ。


「生贄に選ばれた君は何のために生きるのか。それに悩んでた。僕と一緒だね。エア、僕は犠牲になるんじゃない。僕は橋になるのさ。僕の命が生まれたことが決して無駄じゃなかったんだって示すために。だから、君が幸せになってくれるなら僕は輝く。それがねエア、君が生きる……生きなきゃいけない意味なんだよ」


 ポロポロと涙を零して呆けるエアを見て、ミアは俺に目を向けた。


「そして僕も行かなきゃいけない。僕のこれまでを輝きとするために。流星、肩を貸して貰えるかい?」


 ◇◇◇


 肩を貸して歩く。その足どりは彼女の限界を知らせるようにフラフラとしたものだった。


「ねえ、君ってこうやって女の子と肩組んだことある?」


「ねえかな。姉貴とはあるかも知れないけど忘れたな」


「ふーん、どう嬉しい?」


 揶揄(からか)うようなミアの笑みに顔を背けて俺は答えた。


「男にやるよりかは嬉しいんじゃねえか」


「何それーつまんない答えー」


 息が切れ、瞳孔(どうこう)が定まらなくなっている。限界。例えこれがゲームであると分かっていても手を差し伸べたくなってしまう。


「なあミア「君と出会て良かった」」


 彼女は俺に喋らせたくないと言わんばかりに彼女は震えるその口を動かした。


「君との関係はとても短い間だったけど、こうやって僕の足取りを運んでくれた。僕をここまで辿り着かせてくれた。ありがと流星」


「……ああ」


「あっここまででOKだよ。君がいると彼らを刺激しちゃうから。見ててね流星。僕頑張ってくるから」


 渋々下がる。彼女は微笑んでから俺の知らない音波のような言葉で周囲を取り囲む魔物達と会話し始めた。それは数多(あまた)の言語で行われ、間違いなく彼女の努力の結晶であった。そして──


(魔物が)


 一つ一つと去ってゆき、ミアは役目を終えたかのように崩れ落ちたのである。


 倒れ伏した彼女の元に俺は慌てて駆け寄る。これはゲームだ。でも、感情を揺さぶられる。何でだろう。リアルだからだろうか。何故こんなにもただのキャラクターが生きているように感じられるんだろう。


「ミア」


「やり……きったよ僕。ごめん……もう目……見えないや」


 手を握ってやると眉がピクっと動いた。


「どう……だった?」


「カッコ良かったな。主役かと思った」


「へへ……やったね……ごめん……もうだめみたい。りゅうせい……さよ」


「またなでいい。俺たちはまたなでいいんだミア」


 そう言えば彼女の表情が少し柔らかいものとなった。


「うん……またね……りゅう」


 パタリと俺の手から零れるようにミアの手が地に落ちる。彼女は動かなくなった。俺の前からミアというNPCが消えた。


 彼女の手を胸の上に置いてやる。エアが傍にきて死んだ者と同じ声質の慟哭(どうこく)をあげる。だからまるでミアが泣いているように聞こえて


 もう言うまでもないだろうが、このストラージュで描かれた物語の主役は、勇者でも姫様でも魔王でもプレイヤーでもない……たった一匹の魔物だった。間違いなくそうだった。何かが変わったわけじゃないがこのゲームに真摯に向き合っていたからこそ最後の台詞を聞くことが許された気がした。だから──


「またな ミア」


 俺の呟きが水の都の空に溶け込み消えた。

 ────────────────────────────────────

 流星ノート〇エアとミア

 この二人はAIをコピーして作られた謂わば作品である。記憶、思考、感情すらもコピーされたため彼女達は自分の抱えたものが相手にも宿っていると気づくことになる。あるヴァラパラシナリオ研究者は後にこう語っている。作中で描かれることは無かったがミアは自らがエアのコピーであると知った時からエアに自己犠牲の精神、自殺願望があったことに気づいていたのではないかと。 なおエアの自殺願望についてはクエスト134・154を行えば理解することができるだろう。

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