裏・boss更なる死闘 厄災グレゴア②
黒炎放火によってプスプスと焼け焦げてしまった大地。明らかに様子が変わったボスに有栖川が動いた。
「美咲後は任せますわ」
「うん、頑張って胡桃ちゃん」
「桂木流星、貴方のサポーターとこっちにきなさい」
「キッカ」
「うむ」
呼ばれたので向かう。チラりと見れば太一、新見さん、柊さん、ナズナが決死の表情で戦線を維持している。この状況で離れるのはかなり心苦しいが……。
「来たぞ。なんだよ」
「ネタバレが嫌いなどとふざけたことを言ってましたが、流石にわかるでしょうし言ってもよいでしょう」
ボッと黒い玉のようなものがグレゴアから放たれた。俺は【死散晶】かと思い身構えたが有栖川はダラリとしていた。
ズンっと俺たちの前に落ちたそれが立ち上がったことで俺は目を見張る。
「見ての通りグレゴアは二対のボスです。これを隊列を変えずに4人で止める。勝機はそれしかありません」
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黒の竜騎士グレゴア LV15
グレゴアとかつて契約していた者。ドラゴンゾンビとなったグレゴアに取り込まれ彼を守る守護者となった。大剣使い
★生前の実力はグレゴアに勝ったと言われている
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黒の甲冑騎士。中身がないのだろう隙間から黒い瘴気が漏れ出し、巨大なクレイモアを片手で持っている。眼は片目だけで赤く輝いていた。
「一つだけアドバイスします。あの大剣、掠るだけで死ぬと思って下さい」
「無理ゲーじゃね?それ。流石にさ」
無視。まず地を蹴ったのは有栖川。ジョブは剣術士。手にはディムロ。
「剣術一式」
無理な特攻に見え、動きかけたが何かあると止まる。
「『マギア一閃です』」
彼女の歯車が弾ける。片手で持ったクレイモアを竜騎士が振り下ろそうとした瞬間、彼女の手の中でもう一つの声が響いた。
「いい加減終わりといこうや嬢ちゃん 魔剣一式『陽炎』」
有栖川の動きがブレた。黒騎士の大剣が空を切り、どう動いたのか彼女は黒騎士よりも後ろで踏み込みその振り向きと同時に剣を振るう。ガッと黒騎士の片手剣と有栖川の剣が勝ち合い火花を散らした。
(待て、今黒騎士の奴どっから武器だした?)
明らかにあんな剣を持ってなかったはずだが……。でも今は──
「キッカっ!」
「わかっておる。弓術一式『バーストショット』じゃ」
バッと俺の横を弓が抜ける。顔面を捉えた一撃であったが手甲で防いでみせた。
(剣が消えた?まあいい、飛び込みゃわかる)
戦いたくてウズウズする。これは俺の悪い癖かもしれない
「剣術二式『一刀閃火』」
ダンっと地を蹴り向かう。黒騎士の動きを見て口角が上がる。
(だよな横凪。右手で防いだ状態。その体勢ならそうなるよなっと)
「剣術三式『山茶花』」
有栖川からモーションをパチった重ね。足払いと共に頭の上をクレイモアが通過する。足払いは不発となったが、下段からの切り上げは黒騎士の冑をチっと掠めた。
(浅えか。ん?)
何も持ってない無手で竜騎士が突きの体勢。予感が走り、剣を横にしてガードすればそこに鋭い一撃を貰い大きくノックバックした。そのまま有栖川の元へ戻る。
「どうなってんだあれ」
「貴方今の……」
「ああ、お前らからパクった」
「パクったって貴方そんな簡単に」
「はっはぁ!嬢ちゃんもあれだがそこの兄ちゃんも大概だな」
「そうじゃぞ。うちの流星は凄いのじゃ」
何かサポーターと会話すると気が抜ける。俺は有栖川に視線をふった。
「それで剣が消えたり現れたりするのは?」
「奴は冒険者。アイテムボックスが使える設定。そう私は理解しています」
「えぐい設定作りやがって。なら、武器破壊ルートは無理か」
「馬鹿言わないでください。そんなことしたらこっちが先に底をつきますわ」
ならどうするか。悩む俺は気配を感じた。
「なあ、勘なんだけどさ」
「なんです!」
「多分、ヤベえの来る」
直後、俺の予想が当たりと言わんばかりに竜騎士が大きく踏み込んだのだった。
クレイモア。14~17世紀のヨーロッパで使われたその剣は現実なら1M強だが、多分竜騎士のそれはそれよりもずっと長く設定されている。
それでも届かない距離だというのに竜騎士は全力で振りかぶった。
(こいつは何をする?)
斬撃?突進?様々な可能性を浮かべるがそれは想像を超えたものだった。奴は横に振るいその途中で刀身を外したのだ。言うなれば刀身飛ばし。潜って躱せたのは奇跡だった。パラっと髪の毛の数本が消し飛んだ感覚すらある。
(あっぶねえええ)
「流星!」
キッカの叫びに狙われている事を知る。直感で横に飛べばゴッと俺がいた場所に撃ち下ろしが入った。美咲達の悲鳴が聞こえ、俺は竜騎士の真の狙いを漸く理解した。
(やられたっ)
最初の一撃は俺たちではなくその後方。もう一匹のグレゴアを相手取る彼女たちこそが狙いだった。AIがヤバすぎる。他のMMOの終盤に匹敵する。
「騎道五式『転地極走』っ」
ミアが多用していた騎士スキルによって有栖川と俺の位置が入れ替わる。有栖川がディムロで竜騎士のクレイモアを受けた。
「よそ見してる場合ではありません!桂木流星。向こうは彼女達に任せるしかありません」
「わかってる」
「二人ともそこを退くんじゃ」
キッカの合図に俺たちは飛んだ。
「紫電纏いし精霊よ 我が願いを届け 死魂の鐘を打ち鳴らせ 雷鳴低位ライトニングベルじゃ」
魔術士に変えたか。キッカの魔法が竜騎士を貫く。ダメを与えたが竜騎士の怒りがキッカを捉えた。轟っと放られた短剣。ジョブを変え間に入れば容易く弾けると俺は思った。
油断だった。俺は堅術士に変えようとし横からきた黒ノ波動に貫かれたのだ。
〈【黒ノ波動】 職玉禁止 堅術士 治術士〉
(やった……やっちまった)
思考が真っ白になる。まさかあれの範囲内と思ってもみなかった。俺の胸に吸い込まれるように向かった短剣。死んだと思ったがそれをキッカがタックルすることで庇ってくれた。結果、俺の代わりに腕に受けたキッカが吹き飛ぶ姿を俺は目撃した。
「キッカっ!?」
「うむぅ」
直撃、踏みとどまったがHPはレッドライン。しかも、彼女の頭の上には髑髏マーク。死の宣告。3分以内に解除しなければ死。これが有栖川が掠るなと言った理由。解除する手段はない。3分後のキッカ死亡が確定。完全に俺の責任。
「流星よそんな顔をするでない。まだ終わってはおらん。わしもいける。わしらが止まればあやつらが沈む」
「ああ、その通りだ。全く持ってお前の言う通りだ」
奮い立つように戦線に復帰し、剣を交える。その際も思考がぐるぐると回った。
(キッカが三分後に落ちる。これを三人での維持はかなり厳しい)
視界の端で横の闘いを捉えた。
(向こうもヤバい。俺たちが速攻加わらなきゃ終わる。勝機は短期決着)
だが、どうすればよいのか。
(火力が足りねえ。正攻法じゃ無理。これまでの敵の行動全部ひっくり返して考えろ)
斬撃を躱しながらひたすら勝ち筋の模索。同時二つの進行で脳が焼き付く。
(何かねえか何か)
そして閃く。一つの可能性を。
(あった……でも、このゲームでできるのか?いや)
やるしかないと俺は声を張り上げた。
「キッカ!有栖川!ちょっと任せた。俺向こういくわ。すぐ戻る。マジで頑張れ」
「はあ?ふざけないでちょっと待ちなさいっ桂木流星」
「うむ、行ってくるのじゃ。待っておるぞ」
キッカの信頼が背中を押してくれる。俺は攻撃を掻い潜りながら龍グレゴアと闘うグループと合流を果たした。
随分減った。美咲が落ちて慧木さんが指揮をとっている。新見さんも柊も見当たらない。俺が近づくと彼女は冷たく返してきた。
「此方に余剰戦力はありません。人数が減りスキル回しに余裕がなくなりました。一人抜けるだけでも崩壊します」
「分かってる。作戦を持ってきた」
「作戦?」
俺は彼女に話し、彼女の驚いた顔を拝むことができた。
「それは……正気ですか?」
「正気も何もやるしかねえ。数字がデットラインを示してる。このままじゃ間違いなくジリ貧だ。どうせ死ぬなら多い方に賭けるだろ」
「ですがどうやって連絡を?このボスでは通信は封じられています。いえ、だから貴方は直接言いにきたのでしょうが」
「フレコを飛ばせる。連絡つってもタイミングだけでいい」
「成程」
彼女は敵を見据えて考え込み、わかったと頷いた。
「いいでしょう。理があります。やらさせていただきます。少し仕様の穴をついたような手法ですが」
よしっとガッツポーズすればふっと慧木さんが笑った。
「しかし貴方も有栖川さんのように厄介な役目を持ってくる方なのですね」
「アンタしかこのスキルを持ってねえからなって言いたいところだけど、俺の勘ではこれは慧木さんにしかできねえ」
◇◇◇
再び戻って有栖川に内容を告げると呆れた声が返ってきた。
「それが可能だと本気でお思いですか?」
「さあ」
「さあって貴方。そういった攻略法は情報が出るまでやらないがセオリーですわ」
「でも、お前も分かってるはずだ。これがいけそうでいけねえやつだって。引っ張っても向こうがポシャる。こっちは火力不足。100%無理。なら俺は1%でも可能性のある方に賭ける」
「ここまで来てそんなできるかもわからないことに頼ることになるだなんて」
「まあいいじゃねえか。何とかなるって」
「貴方とやってるとこれまでのVRMMO人生が否定される気分になりますわ」
「え?なんだって?闘いながらだと聞こえにくいわ」
「なんでもありません!!」
俺たちはただひたすら慧木さんの合図を待った。そして──
(きた)
ポンという慧木さんのフレンドコードの通知音を合図に動き出す。作戦は至ってシンプル龍グレゴアの即死技【黒炎放射】に竜騎士をぶち込む。
その際、可能な限りギリギリという注文を慧木さんに付けた。あの予測スキルは若干アバウトな面がある。それを彼女自身の腕によって埋めて貰う。2回目の通知音。
「有栖川っ!」
今、竜騎士と接敵しているのは有栖川。彼女の役割は上段からの撃ち下ろしを誘いだすこと。彼女は数度の打ち合いによって見事にその役目を果たした。
次は俺。やや離れた後方で俺はガクンと膝を折る。倒れ込みながら軌道を合わせる。あの振り下ろしと勝ち合うように。
「剣術一式『マギアっ──
カチカチカチと幻視のギアを引き絞る。ピタリとあった瞬間、指を立てそれを見た彼女が持つ剣ディムロが有栖川に伝えた。
「騎術五式『転地極走』っ」
有栖川と俺の位置が入れ替わった。即時発動。
── 一閃』」
龍騎士の剣と俺の剣がぶち当たり──
「っらあああ」
ガアアインっとクレイモアを弾く。奴の両腕が跳ね上がった。ここっと俺は次の行動に入るため剣術二式と唱え、その横を武術士となった有栖川が踏み込んだ。
「武術一式っ『破天掌』っ!」
掌底をがら空きとなった胸へと叩き込む。完璧なタイミング。スキル効果によって竜騎士はノックバックする。タイミングを計る。
より完璧に、より連なるように。これまでの動きをフィードバック、脳内で再現する。言葉は不要と俺は親指で鍔を押しチンっと鳴らした。
「『一刀閃火』」
歯車が砕け、俺の体が追いかけるように疾走する。ただ使用するのはその速度のみ。際中職玉を潰して武術士へ。剣術スキルの慣性を帯びたまま腕を引き絞り奴の胸にスキルを突き刺す。
「武術一式っ『破天掌』っ!」
有栖川と共に繋げた破天掌2連撃。竜騎士が踏ん張る足で地を削り土埃を上げながら大きくノックバックする。
(どうだ?届けっ届いてくれっ)
「駄目ですわっこれは足りないっ」
焼け焦げた大地。有栖川の言う通り……黒炎放射の範囲線ギリギリで竜騎士が止まった。あと一歩。その一歩が出せなかった。
(終わっ)
諦めムードの俺と有栖川の間を一本の矢がひゅんっと抜けた。それはガンっと竜騎士の額に当たり最後の一押しを決める。
「なっ」
有栖川と共にバっと振り返る。キッカ=markⅡ。あれに合わせ最後の一押しを完璧なタイミングで射抜いてみせた。AIが人の阿吽に合わせてみせた。
恐ろしいまでの成長。戦闘において絶対に人に及ばぬと言われたAIの力がもしや人の頂きたるハイヒューマンにすら届いてしまうのではないかそんな気さえ起ってくる。だが、死の宣告によってキッカは死亡となり、その体は消滅した。
「ナイスだ、相棒。完璧だった」
燃え盛る黒炎の中で、呻きのような絶叫を聞き、ダメが入っていると理解した。また絡め手になってしまった。今度は正々堂々こいつを倒したいと思う。
「よくやった!すげえなお前ら!勝ったろこれ!」
高峰がやってきて有栖川が呆れた声を返す。
「まだ終わってませんわ。まあ、随分と楽になりましたけど」
「やっとあの黒野郎を葬れたな嬢ちゃん。まあちょっとモヤっとする倒し方だったがな」
「そうですわね。次は剣のみで倒しますわ。必ず」
俺たちはその後も油断なく闘い、見事グレゴアとの戦いに勝利を収めた。絡め手、必須スキルを駆使してのこの辛勝。
もし今後も裏があるのならストーリー中盤から後半の裏はそれはもう恐ろしいものとなるだろう。まあでもゲーマーからすると難度が高い方が燃えるってもんだ。




