裏・boss更なる死闘 厄災グレゴア①
ムービーが入った。龍がグレゴアによって貫かれ地に落ちてゆく。
(ミア……)
助けに行きたいが目の間の存在を倒さなければやはり許されないのだろう。俺は表示された敵のステータスを見た。
◆───-- - - - - - - – --───◆
LV15 厄災グレゴア
迷宮を殻とし、魂を貪るドラゴンゾンビ。水龍エゴによって縛りつけられていたが解放されその姿を現した。多くのデバフを用い弱体化したものを狩る
★身に纏った魔物の死体は冒険者によって倒されたものだと言われている。
◆───-- - - - - - - – --───◆
この★は慧木さんの鑑術士としてレベルが高いから見られる情報らしい。現在のヴァラパラはレベルが上がりにくい、その中で戦闘職じゃないジョブを上昇させるのは至難。彼女もまた違った意味での化け物。
「何か?」
彼女をじっと見てしまっていたらしいと俺は慌てた。
「あっいや、それ何してんのかなって」
皆が配置に付く間、ずっと彼女はモノクルを回していたのだ。カチカチいうので気になって仕方がなかった。
「鑑術士のスキルを使用するのに必要な工程です。最初の町のクエストで取得できますよ」
「へえ、じゃあやっぱまた戻んなきゃだな。ん?」
今度は向こうにじっと見つめられ何だと思えば、ビっと指をさされた。俺──ではなく奥であると視線で分かった。
「始まるようです」
「おっじゃあよろしく慧木さん」
「よろしくお願い致します。Fの方」
有栖川がバトルゾーンの線を越えると魔物が咆哮し、ピックアップ演出が入る。ボタボタと死体を落としながら、浮き出るようにでたグレゴアの単一竜眼が構える俺たちを睨みつける。その体はアメーバのように泥化していた。
「来ます」
ボス戦に限りプレイヤー側は戦闘開始時にどの職で入るかを選ぶことが可能。俺は弓術士で慧木さんは治術士を選んだようだ。一瞬、鑑術士じゃないのかと思ったが次に俺はそれが作戦に含まれていたものであったと知る。
「あそこお願いしますわ」
有栖川が指し、分かったと慧木さんが杖を振るった。
「治術二式『ヒーリングサークル』」
ヒーリングサークルは指定地面に魔方陣を描き、上に乗った者を段階的に微回復する技。体力満タンである初手でこれを選択したということは無ければ崩れると判断したのだろう。そしてそれはただしかった。
【黒死の鈎爪】
表示された敵の攻撃。伸ばした右腕からの横凪。それに合わせて太一、權田、D組男子が盾職で前に出、魔方陣の上で構えた盾で受け止めた。が、その衝撃時に黒い靄が発生しそれを吸い込んだことで揃って毒状態となった。
(っなんつう!?)
えげつない攻撃。盾の上から体力を削られた彼らだが毒ダメがエリアーヒールによって拮抗。あれが無ければ確実に対応を迫られていた。そして──そんな時間は与えられない。
「2班っ盾の裏に回って下さいっ!第二波っ!来ます!合図で後ろに飛んでください。1、2」
美咲の声に身構える。ボッとグレゴアの体から射出された黒い玉。それが地面に落ちる瞬間、大量の目玉が表面に沸き俺たち全員の姿を捉える。
「3っ今」
【死散晶】
「なっ」
バキンッと丁度、今自分たちがいた場所に黒いクリスタルが凄まじい勢いで生えてきた。チっと掠めダメージが入る。それだけで守備ダウン、攻撃ダウンのデバフが入り力が抜けた。パアンっと弾け結晶がキラキラとした塵となって消える。
「被弾した者は1班の裏へ。盾スキルを使い切った者は後衛に変えなさい。前に出ます。3班盾役とのツーマンセルで移っ」
指示が止まる。グレゴアの手が槍のように変化。狙いは有栖川。
「「堅術二式『ガウル・ハウル』」」
權田と太一の機転によって攻撃対象が移るが受けきれずD組の男の子が死んだ。まだ序盤、余りにも早い一乙にPTの心が軋む。
「相田さん盾役として加入。治術士の数が少なくなりますが各自判断。2班と1班入れ替わってください」
俺は柊さんからデバフ解除を受けながらじっと敵を観察する。弱点はわかりやすい。あの体を縦横無尽に駆け巡る目だろう。だが、余りにも早すぎる。通常時にあれを捉えるのは無理。
(なら)
「桂木君?」
弓を引き絞った状態で俺は集中する。黒結晶。あの攻撃の終わりあの瞳が確認のため一瞬止まっていたのを俺は見た。そこを抜く。
(きた)
3、2という美咲の声を待たず俺はスキルを発動させた。
「弓術二式『バックショット』」
後ろに飛び、そこを黒い結晶が抜ける。まだ手は離さない。不発になろうともスキルのギリギリを狙う。結晶に罅が入り砕け──
(ここっ!!)
ばっと手を離し、結晶の砕けと同時に飛んだ矢。そんな俺の攻撃は見事、竜眼に突き刺さったのだ。
◇◇◇
「GAAAAAAAAAA」
という悲鳴で大きなダメージが入ったことがわかる。しかし、ヘイト値が急上昇。傷ついた竜眼の横で新たに浮き出た目が俺を捉えた。鳥肌演出か。ぞわっとする感覚が俺の体を突き抜ける。
(ヤベのがくる)
様々な可能性が頭を巡る。少なくとも弓術士では受けれないと判断し、俺は職玉を潰そうとしたが──
ニュっと出てきたのは人間の手。それが俺が潰した竜眼を掴み、何と握りつぶした。刹那、黒いリングが大きくなるように広がって、俺たちの体を両断するかのように目にもとまらぬ速度で抜けきった。
〈【黒ノ波動】 職玉転職 武術士・堅術士 禁止〉
(マジかっ)
まさかの職玉潰しに心で発狂。これは予想外。しかも最悪のタイミング。堅術士で凌ごうと考えていたため激しく混乱した。
そこに矢のような黒い弾丸が容赦なくグレゴアから放たれる。
(治術士?鑑術士?剣術士?無理だ判断が間に合わねえ)
死ぬっと目を伏せれば影が抜けた。
「──閃火」
斬っと切り落とし俺の前に立ったのは權田衛士。彼のような巨躯であっても剣術スキルは彼を移動させた。振り返って權田は挑発的な笑みを掲げる。
「腕が落ちたんじゃないのかセイリュウ」
「今の無理ゲーだろ。後、セイリュウ止めろってば」
黒歴史なんだってば。
「カッコつけて聞かなかったのが悪いじゃねえか?」
続けてきたのは同じA組高峰功。武術士が潰されてか剣術士になっている。彼はやすやすと黒き弾丸を弾き落としていた。まあぐうの音もでない。
(だってネタバレ無しの方が驚きあって面白えし)
俺が心の中で口を尖らせれば高峰は肩を竦めた。
「まあでもよく抜いたな。俺も狙ってたがお前の方が早かった。權田さんが拘った理由もこれでわかった。ほんのちょっとだけどな」
「高峰もやるじゃねえか」
俺がそう言えば──
「当たり前だろ?俺はAだぞ」
後ろを振り返ることなく高峰はグレゴアの攻撃を捌いてみせたのだった。
同級生最強であるSクラス集めてもなお何度も失敗した超難度クエスト。普通はそれ以下のPTで挑戦しようとは思わない。明らかに弱体したPT。それでも有栖川の背を押したもの。
(この子だな)
C組、慧木麒麟。有栖川が再挑戦を決めた理由はこの子だと断じる。この短期間、しかもレベル上昇負荷が掛かったこの状況下で戦闘職ではなく補助職を大きく上げた特異性。恐らく生徒の中にほぼいないと思われる。そして何より彼女は──
「大きくグレゴアから距離を取って下さい!強い攻撃が来ます」
「何でわかるっ」
「鑑術5式『ディクト・アイズ』。このスキルにより私は相手の攻撃を一つ予期できます。有栖川さんが危惧していた攻撃です。20秒後早く」
言われた通り退避すれば竜の口が浮き出て開き炎を吐き始めた。
【黒炎放火】
その威力と範囲に呆気にとられる。所謂、即死技。スキルが揃っていれば何とかできる手段があるかもしれないが、現状ではこれしかない。
つまり、慧木麒麟は対グレゴア必須スキルを持っている。
「とんでもねえ。これは逝ってくれたSクラスのお陰だな」
「そうだな犠牲による情報がねえと絶対負けてる」
もし勝ててもこれは俺らだけの勝利とはいえないだろう。しかしと俺はディムロを地に突き刺し立つ有栖川を見る。
(よくこの子を見つけたな。有栖川もそれだけ拘ってるってことか?このクエに)
そして彼女はこれまで最低限の動きしかしていない。明らかに温存している。
(しっかし考えたくねえけど、これは)
どう考えても第二ステージがある。その予想を証明するかのようにグレゴアが咆哮し、竜の目が黄色から赤に切り替わるのだった。




