魔剣ディムロと開戦
えげつない空気も時が緩和してくれ、落ち着いた雰囲気を取り戻してから有栖川がオホンっと咳をうった。
「全く……調子が狂いますわ」
「あはは流星らしいといえば流星らしいけど」
そして、アイテムボックスからポンっとホワイトボードを取り出す美咲。多分、説明が始まるのだろう。そう思ったら美咲が俺を見てきた。
「ねえ流星」
「ん?」
「今から挑戦で知ったボスの情報を皆に共有するつもりだけど貴方はどうする?聞く?」
「あっじゃあ俺はいいや外出てるよ」
「やっぱり昔からネタバレ嫌うもんね流星」
「ああ」
「はあああああああああ?」
ネタバレ否定派の俺に高峰君が発狂するが俺は無視して外へ向かう。ってかここから早く出たい。
「高峰、問題ない」
「權田さん絶対おかしいってあれF「高峰、大丈夫だ」、おかしいいってえええ」
◇◇◇
バタンと扉を閉めて高峰の絶叫を消す。吃驚するほど静かになり、当たり前だが防音機能があるのだと知った。きっと多くのプレイヤーがここで作戦会議を行うのだろう。下に降りて依頼でも見ようかと思えば、また扉が開き俺が振り返るよりも先に背中をバシっと叩かれた。
「まっ!くよくよすんなよな、リーダー。俺たちのことをわかってくれる女子はどこかにいるって」
「お前と一緒にされるとできるもんも出来なくなりそうだけどな太一」
「あっ!相変わらずひっでえなリーダーは」
二人で移動しながら俺はふと思ったことを聞く。
「ってかちょくちょく出るけどもうリーダーって呼び方止めたんじゃなかったっけか?」
「でちゃうんだって。俺の中でもう染みついちまった。流星がリーダーだってのは」
「そっか」
まあ別に嫌じゃないからどうでもいいんだけども、あっロリコーンは嫌です。
「なあリーダー」
「ん?」
「今のところこのゲームどう思ってる?」
「最高。まだベーターだからわかんねえけど、もしかしたらライストを越えて嵌りこむかもしれねえって感じてる」
俺も俺もと笑い、太一は少し寂しそうな顔をした。
「とんでもなく面白え。あのライスト以来、俺がずっとやっていたいってゲームにやっと出会えた。でもさ、だからこそ思うんだ。このゲームをあいつらと一緒に味わえていたら、どんなに最高だったんだろうってな」
「太一……あのチームは壊れた」
「わかってるさ。でも夢で見る。あの思い出だけは忘れらんねえよ。まあ、アンタとまたできる俺はずっといい方なんだろうけどさ」
「貴方たちは昔同じPTを組まれていたのですね」
急に入ってきた声にぎょっと振り返ると有栖川が立っていた。
「あれ?もう終わったのか?」
「美咲に任せてきました。貴方に話したいことがありましたので」
あっと気を使わせて離れようとした太一を有栖川が止める。
「別にいらっしゃっても構いませんわ。大した話じゃありませんから。えっと」
「瀬良太一です。太一って言います」
流石にありタンは封印したらしい。有栖川が俺を一瞥する。
「誠に不本意ですが、あのボスを相手どるとなると作戦上貴方と私が共闘するシーンが多くなると思います」
「そうなのか」
「ですから一応、私のサポーターを見せておこうかと思いまして」
「おお」
気になる。
「有栖川さんのサポーター!俺も見たいっす」
太一キャラ変わってない?
「それでどうです?見た感想は?」
「どうって?サポーター収納だっけ?まずそっから出して貰わねえと」
判断できないと言えば有栖川は揶揄うような笑みを俺に向けた
「もう私は見せていますわ。桂木流星」
え?っと有栖川を見つめる。さっきは気づかなかったが軽装ながら騎士の恰好をしている。きっと騎術士のジョブを取得したのだろう。
そこまで派手なものではないが美人な彼女が着ていることもあってヴァルキリーを模した感じだった。しかし、サポーターの姿はどこにもいないと俺は首を捻る。
「いねえけど」
「くっぷはは!揶揄い過ぎだぜ嬢ちゃん、教えてやんな」
「私は勝手に喋るなと言ったはずですわディムロ」
「は?」
「剣が喋った」
そう有栖川が装備している剣から聞こえた。男の声でダンディーだがちょっとお調子者といった感じ。有栖川が剣を抜き放てばその禍々しさに度肝を抜かれる。眼まで付いている。完全に魔剣だ。
「かっけえええっ!なんだそれ有栖川」
「有栖川さんそれユニーク装備!?まだベーターなのに!?」
「そうだぜ俺様はSSランクアイテム。伝説の魔剣ディム「違います」」
チンっと納刀されてクワっとしていた目とディムさんの声が消えた。不憫、ディムさん。
「SSランクのサポーターですが、ディムロはただのお洒落装備。この町で買った剣にテクスチャーを張り付けているだけに過ぎません」
「だからといって俺様を舐めちゃいけねえZe 俺様がスキルを使えば嬢ちゃんから放たれたも同意ってことだからなあー」
確かにディムロの習得スキルによってはとんでもなく強くなるのではないだろうか。
「性格ガチャがあれば良かったのですが……。兎に角、私はこれを使うことに決めましたわ。ですから、人装一体。それが私の戦闘スタイルとなるでしょう」
「人装一体……」
悔しい。悔しいけどネーミングセンスが俺よりかっちょいい。俺の場合は幼女並走……うーん、捕まりそう。
「そんな私についてこれますか?桂木流星」
挑発するような有栖川の笑みに俺も気分が高揚した。
「上等」
「それで?どっちが嬢ちゃんの思い人なんだ」
ゴっと地面叩きつけられたディムロは有栖川にガっと踏みつけられる。ごおおおっと効果音が鳴りそうなほど激怒した有栖川がディムロを見下ろす。
「次いらぬことを言ったら売りますわ。いいかしら?ディムロ」
「はい」
さあ、長くなったがこれで準備は整った。俺たちは挑戦する。ストラージュのストーリー、その裏ボスとされるグレゴアに。
ゲームとはいえ大舞台はいつだって緊張する。心臓がきゅっとなって手足の動きが悴んだように鈍くなる。皆も俺と同じのようだ。
一言も喋らず表情が硬い。平然としているのはAIであるキッカとディムロ、後、何故かナズナ。彼らだけはお喋りに興じている。俺は手で遊ばせていた職玉を見た。
(Sランクの学生が雁首揃えて敵わなかった相手)
彼らは雑魚でもアホでもない。職玉を使った考えうるパターンは既に試しているはず。
(なのに越えれなかったってことはだ)
これまでの常識、認識を遥かに上回る攻撃を仕掛けてくるのではないか。だとすると──
(このゲームの戦略は更に複雑となりその重要性は跳ね上がる)
想像する。それだけでぞくりとした感覚が全身を抜けた。このゲームは一体どこまでゲーマーとしての高ぶりを引き上げてくれるというのかと。
気づけば緊張が解れていた。有栖川が立ちどまり、俺たちの戦いの舞台となる場所を指し示す。
「着きましたわ」
そこは何度も俺たちが訪れた場所。迷宮。けれど、見た目は大きく変わっていた。空は黒い雲で覆われ、辺りは瘴気のような紫の靄で満ちている。
迷宮は大きく変わり、入り口からは魔物の死体が重なることでできたかのような醜悪な化け物がその半身を飛びだたせている。迷宮を殻に見立てた蝸牛(カタツムリ)とでもいえば分かりやすいだろうか。
それと闘うのは一匹の水色龍。あれはきっとミア。どうしてとかどうやってとか色々分からないけれど、彼女はたった一人で戦うことを選んだ。
「おいおい何だよあれ……これは無理だろ」
唖然とした高峰君が言っているのはあの闘いのことではない。その後方、遥か水平線に大量の魔物たちが展開しているのが見えるのだ。それもゆっくりと確実に近づいてきている。
「恐らくあれと闘うことはないと思いますわ」
皆の視線が経験者である有栖川に向けられる。
「私たちの敵はあれ。厄災グレゴア。ですが心してください。私たちの現状のレベル、スキルではあれを難敵と言わざるをえません」
レイドPTでは最も信頼を勝ち得た人物がそのPTの長となる。勿論今回その役を担うのは有栖川。彼女の音頭を待ち、皆が押し黙る。
「どなたかは言いませんが学校の指示に向かいたいそうで、この一回きりにして欲しいと申し出がありました」
一瞬ざわつくが有栖川が言葉を重ね消し去った。
「ですから挑戦は一回と考えて下さい。何、私たちはハイヒューマンを目指すもの。チャンス一回あればいい。そうではありませんか?」
これだけで浮ついていた者をそうだと落ち着かせる。他の物が同じセリフを吐いてもこうはならない。カリスマ。やはり彼女は人を率いる素質を持っている。
「では、いきましょう。私たちのレイドに」
有栖川の合図と共に参加申請の窓が俺たちの前に現れる。当然、アクセプト(受諾)。光の窓を消して俺たちは進みだす。
「いくぞキッカ」
「うむ、餅の論じゃ」
始まる。即席レイドPTとグレゴアとの闘いが。
遂に火蓋を切ったのだ
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流星ノート〇 魔剣型サポーター
ヴァラエティーパラシスのサポーターは実に多様な種類が存在しているが、可能な限りの均一化が図られている。一見するとディムロは強力なサポーター(実際に強力)だが、二名と換算され一対一での対人では当然使用不可。2対2では挟撃されるというデメリットを持っている。が、逆に言えばそれを打ち消すほどの実力もあるということだ




