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『マアトの天秤』とラヴェルの馬鹿者達

 俺はフラグを探す。この物語の続きが始まるフラグを。ひたすら城内を歩き回って、そして見つけた。条件はエアの私室の前に立つかノックをする……だったのだろう。


「稀人様」


 俺が握り締めたノブから手を離せば、エアが駆け寄ってきた。その表情は慌てていてストーリーに入ったと理解する。


「エア」


「あの子がっあの子がいないんです。それにアッシュがこれを見つけて」


 俺当てへの手紙。稀人流星へと書かれ既に封が切られている。


「申し訳ありません。中を改めさせて貰いました。それでその」


「俺も見させて貰ってもいいか?」


「はい」


 ◆───-- - - -            - - - – --───◆

 稀人、流星へ

 何も言わずに去ることになっちゃったのごめんね

 お別れの挨拶くらいはしたかったんだけど君ってほら鋭いから

 止められるかもって思っちゃって

 短い間だったけど 君と話をできたことは僕の大切な思い出の一つ

 恥ずかしいけどちゃんと伝えとこうって思う

 ありがとう 僕に付き合ってくれて

 ありがとう 魔物であると知っても僕と言葉を交してくれて……

 うん あれだね やっぱり恥ずかしいや

 僕は僕のこれまで 僕が生まれた証を立てるために 戦おうって思う

 あの子がもし気づいちゃったらどうか止めて欲しい

 彼女にはほら幸せになって欲しいから

 アッシュが厄介だよね かといってあんまり変な場所に隠すと

 今度は君が見つけられないだろうし

 追伸、貴方への報酬は2段目の棚に入っています

 僕の依頼を受けてくれて僕にミアって名前を付けてくれて ありがとう

 さよなら  またね 流星

 ◆───-- - - -            - - - – --───◆


 またねの文字だけが抗うように塗りつぶされていた。俺は少しだけ紙をクシャっとさせて向かおうとするがそれをエアに止められてしまった。


「稀人様、どういうことなのですか?あの子は何をしようと?あの子は竜の従者になったのではないのですか?何なのですかこの手紙はっ」


 半泣きになったエアを振り解けない。彼女は胸元から緑色の宝石が入ったペンダントを俺に見せた。


「あの子の騎士の証です。これが返却されたと。これはあの子の努力の結晶。ずっと肌身離さず付けていたと聞き及んでいました。稀人様、教えてください。竜贄の儀で何があったのですか?あの子が望んで水龍様の傍にいったのではないのですか?あの子に全部押し付けて私だけ幸せになんて許されるものではありませんっ!!」


 ぐっと言葉に詰まる。俺は理解していた。彼女を呼ぶことがミアにとって最大の障壁となりえるだろうから。


「生贄には私がなるはずだった。竜贄の儀も私がゆく予定だった。なのに何故私が負う責務を彼女が負わされているのです。どうして皆私の邪魔をするのです」


 消え入りそうな声で崩れるエア。そこへアッシュの声が飛んだ。


「稀人」


 ポーンっと投げた何かをキャッチするとそれが手形であるとわかった。


「お触れが出て封鎖された。それがあれば抜けられるだろう。姫様は俺が説得する」


「アッシュ貴方やっぱり何か知って……むぐぅ!んーんー」


 パンっと口を塞がれ、エア姫がムームーっと唸っている。そんな彼らの姿に苦笑しつつ俺は歩き出す。


「稀人」


 アッシュの声に再び振り返れば彼は俺に頭を下げていた。


「あの子を……頼む」


 言葉はいらないだろうと俺は黙ってその場を後にする。城の廊下を歩きながらふうーっと深く息を吐く。


 俺が名作と感じたゲームの導入はいつもこうして背中を押してくれる。心を静かに滾らせてくれる。例えそれが非現実だろうとゲーマーを本気にさせてくれる。


「いいゲームだなホント」


 まあ俺の評価はシビアだから今のところはって後付けをつけちゃうけども。ゲームって中盤から崩れること多いし。ただ、VRMMOでこの熱量が”続く”というのならまさに神ゲーだと俺は思う。


 ストーリーが終わったようで空気が変わった。城の外に出るとプレイヤー達の姿が目に入る。そこで待ち受けていた見知った者達の姿に俺は苦笑してしまった。


「なあ、それ流石にカッコつけすぎじゃね?お前ら」


「思ったより流星君が遅うて悪ノリになってしもたんや」


 っと壁に凭れ掛かる新見さん。


「遅えって!流星。もっと駆けるだろ!エアたんクエだぞ」


 そう大盾の上に寄り掛かる太一。


「私は普通に立ってるだけなんだから、含めないで欲しいんだけど?桂木君」


 確かに立っているだけだが様になってる柊さん。


「流星待ってた」


 弓職が気に入ったのか弓を背負い、ちょっとボーっとしているナズナ。


「ふっふーんわしの方が早かったようじゃの。今度からわしが主人になってもよいのじゃぞ?のう流星」


 そして、何故か仁王だって腕を組みドヤる俺の相棒、幼女AIキッカ。


「裏ボス入る条件わかんなくて手間取ってたんだよ」


「それでどうするん?流星君のことやからどうせ学校からの知らせも見てへんのやろけど」


 ん?知らせ?っと俺はメニューを開けば確かに学校側からメールが届いていた。俺が確認する前にナズナが中身を教えてくれる。


「地図に点があって、そこまで可能な限り早くこいってクエスト。早いと評価されて遅いと減点されるんじゃって掲示板で言われてる」


「そゆことや。せやから今すぐ向かった方が成績的にはプラスかもしれん。少なくともあんまり長くはできんやろ。ストーリーは別に後からでもできるけど?」


「勿論、今挑戦だ。この熱量で行ってこそだろ」


「じゃあ、全員意見一致やね」


 そうなのかと見渡せば当たり前だと皆頷いていた。


「エアたんのピンチ。今向かわなきゃ男じゃねえって」


「私はどっちでもいいんだけど、この町は実質貴方たちとやってきたし、なら最後まで一緒っていうのがスッキリするかなって」


「わしは学校とやらのあれこれに関係ないのだしのう。お主らと戦う方がよいのじゃ」


「私は流星が選ぶ方でいい」


「うちも残さず全部食べる派やからな。それに相田さんから連絡あってこんな状況で裏やるアホが12人揃ったって連絡あったし、これはいかなアカンなって」


「じゃあささっと行きましょ。急ぐことに越したことないでしょうし」


 柊さんの音頭で歩みだそうとすれば新見さんが慌てて止めた。


「ああっ!待って待ってこれ最後!うちらのPT名なんやけど」


 ピタリと止まり全員が新見さんに向く。


「うちらは目指すところがバラバラで、多分固定PTやなくて集まりは定期的になると思うんよ」


 確かにと俺たちは頷く。


「ってことでPTの決め事は基本的に多数決。そこからヒント得て『マアトの天秤』ってのはどうや?」


「マアトっていうと古代エジプト神話の女神かしら」


「正解や」


「テトラ博識」


ナズナが褒め、ふふんと柊さんが自慢げな顔をした。


「まあね、伊達に眼鏡掛けてないわよ」


「いや、テトたんそれは関係ないだろ。まあ、流星が決めるよか大分いいけどな」


「はあ?俺だってPT名なら流石にいけるぞ。そうだな」


 うーんっと考えパッと閃いた。完璧なものが天から降りてきた。


「俺たちは6人いる……だからシックスメンズってのはどうだ」


「じゃあいきましょナズナ」


「うん行く」


「報酬で揉めないように決めとかなきゃだな」


「その辺頼むわ。うちわからんし」


「なあ、お前らドンドン俺の扱い酷くなってねえか」


 ムッとしてるとパシッとキッカに手を取られた。


「ほれ、ゆくぞ。裏ボスとやらを倒しにの」


 あれ?これサポーターと主人逆転してません?


 ◇◇◇


 レイドボスとは複数PTで挑むボスのこと。当然、強敵であり互いのPTが連携しなければ勝利を得ることは難しい。特にジョブを戦闘中に変更できるこのゲームにおいては超難度であることは容易に予想がついた。


(そもそもSクラスが詰まったって話だしな)


 だから、これだけイキったが俺たちがボロボロに負ける可能性は大いにある。己の力だけではどうしようもできない壁。レイドボスには仲間の能力、相性、それが大きく関わってくるのだから。


 そして勿論、ハイヒューマンはこれをソロで突破する。とはいえ、流石の彼らも特殊なスキルや装備を手に入れてなければ不可能だろうが。


「どんな奴らなんだろうな。俺らとPT組む奴ら」


 美咲と有栖川は確定しているけども。


「バラバラって聞いた寄せ集めレベルの」


 レイドメンバーが集まっているギルドへと向かう道筋。ナズナの答えに俺は少しだけ顔を顰めた。


「んじゃ俺らFが一番多い感じか」


「あーなんか言われるかもだな」


「そうなのかの?」


「キッカたん覚えとくんだ。ゲーマーっつうのはなイキっちまう生き物なのさ」


「は?F!?え?まっ?何でこんな弱い奴らが……みたいなな」


 あるあるーっと太一は笑い、俺も苦笑した。マジでこの手の輩はライスト時代でも腐るほど見てきた。マウントとって馬鹿にする人。


「SとかFとかいうけど所詮、一回のテストだけの判断でしょ?」


「そう、私たちは皆で上に上がる」


 柊の言葉にナズナはうんうんっと頷くが、新見さんだけうーんっと唸っていた。


「結たんは何かひっかかりが?」


「いやな。うち声掛けられるから結構色んなPTと組んでたんやけどな。AとかCとかDとか」


 流石、コミュ強。凄い。


「やっぱラヴェルの生徒だけあって皆、上手やねん。実際、Fのうちらもそんな劣ってると思えへんし……。そういうの考えてたらな。ほんまにこれ点数で分けたんかなって思ってな」


「テストの点関係なくってこと?」


「まあ、何で一般常識関係あんだよって俺も思ったけどもさ」


 それは正直俺も思った。ただ、俺は自信がある。半分はとれてると思う。


「あくまでうちの勘みたいなもんやから気にせんといて欲しいんやけど、とりあえず同級にそんな滅茶苦茶な差はないって思ってんねん。勿論、有栖川さんとかトップクラスの子らは違うやろけどな」


「のう!早くいこうなのじゃー」


 キッカが退屈している。皆で苦笑して俺たちはギルドへ入ったのだった。

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