表・エンド「創られたハッピーエンド」
「お待たせ」
びっくりするほどすぐに出てきた。話し合ったものとして処理されたのだろう。リアルなので逆にゲーム的な動きをされるとちょっとドキっとしてしまう。ミアはニコニコとしていて、上手く言ったと言わんばかりの態度だった。
「その顔は上手くいったって感じか?」
「うん」
完璧っと親指を立てて、彼女はテクテクと歩き、俺もその後を追う。馬車が壊れたので歩いて帰らねばならない。この説明も大変そうだ。
「僕が水龍様の従者になる代わりに治めてくれるって約束をつけたんだ」
「いいのか?そんな約束して」
「うん、いいんだ。それに僕の命が短いのも水龍様が見てくれるって話になって」
「じゃあ、生きれる可能性もでてきたと」
「そう!僕ラッキーだよね。水龍様のマスターさんと同じマナを持ててたお陰なんだから」
「いや、そもそも人間にされてなかったら……。なんつうかあれだなミアって底抜けにプラス思考だよな」
「そうかな?でも、僕すぐ死んじゃうって思ってたしそれなら少しでも上を向いてた方がいいかなって」
確かにそれはそうだろう。ただ普通はそんなに割り切れないと思うけども。
「多分さ。僕ら捕まることになるんだ。だって生贄なのに普通に戻ってきちゃうんだから。でも、大丈夫。水龍様がきて説明してくれるんだって。僕が竜の従者になることも。それが終わったら君に報酬渡すね。きっと解放されるから安心してね」
「ああ」
何だろう。ミア生存というハッピーエンドのはずなのに彼女が最後に見せた笑顔はとても消えてしまいそうな……そんな切ないものに俺の目に映ったのだった。
◇◇◇
ミアの言った通り、俺たちはものの見事に捕まり城へと連行された。早々にミアと分けられて地下牢で事情聴取を受けていた俺はズンという振動と悲鳴を聞いて、水龍がきたことを知った。
「いいか大人しくしてるんだぞ」
兵士は俺を牢につっこんで慌てて出てゆくと俺は一人にされてしまう。壁は石で出来ていてランプはボンヤリとしたオレンジ色で薄暗い。
格子は鉄棒で間隔は広く頑張ったら出れるんじゃないかって思ってしまった。暫く待っているとアイツの声が聞こえ、俺はメニューから視線を外した。
「上手くいったようだな」
「あのなーお前、一言くらいあっても良かったじゃねえか?」
壁凭れ野郎。まあそれは俺が勝手に呼んでいるだけだが、姫様の護衛白髪のアッシュがクルクルと鍵を回して俺の元へやってきた。一々行動が様になってて腹立たしい。
「お前に話しても未来は変わらん」
そういってアッシュは俺の直感が言っているっと側頭部をトントンと指で叩き、ニヤリとした笑みを向けてきた。うえっ
「んだそれ。未来が変わらなくても相手の好感度とか違うだろ」
「お前からの印象を良くしてどうなる」
あっまあそれは確かに。俺が何言ってんだって感じだ。アッシュが鍵で檻を叩き続けた。
「それでここから出たいか?稀人」
「別に飽きたらログアウトすりゃいいだけだし」
「そうだったな。貴様ら稀人は奇妙な術で移動できるんだったか。羨ましい限りだ。だが、では何故でない」
「いや、今出たら指名手配だろ普通。後、ミアに待てって言われたしな」
「ミア?」
ガチャっと開いてくれる。俺はぐっと伸びをして外に出た。
「ミミックとエアでミアだ。どうよ?」
「一桁の餓鬼が考えそうなセンスだ」
壁凭れって普通に呼んでやろうかこいつ。
「おまっ」
「だが、彼女はきっと気に入るだろうな。付いてこい水龍様がいらしゃっている。お前の話も聞くことになるかもしれん」
アッシュの後をしぶしぶ付いていきながらも、ん?って思った。こいつはどっちだったんだろうって。エア姫を救いたくて動いていたのか、それともミアを救いたくて動いていたのか。普通に考えたらエア姫だけど、もしかしたら……。
揺れる白髪を視界で捉えながら俺は城の庭園へ向かうのだった。
トリスタン城の中心には吹き抜けの大庭園がある。当然、俺は初めて入ったわけだが、その美しさは絵画のようだと思ってしまった。まあ、水龍さんが鎮座しているせいもあるかもしれないが。
(こんなにいたんだな)
当たり前だが、沢山の衛兵や貴族らしき人々が集まっていた。更にその奥、水龍の前には王様らしき人と二人の王妃らしき人、更に初めて見る女の子がいた。
(多分、王様と二人の奥さん。それであの子が光姫かな)
明らかに物語の終盤だろうに王様と王妃にここで会う物語構成は珍しいなって思う。まあ、VRMMOでストーリーが描かれるものはほぼ存在しないのでこれはソロゲーの話だけども。
(今回はスポットされなかったけど別のストーリーとかでまた描かれたりすんのかな?)
アッシュに連れられて俺はやっぱり気になる光姫の方を観察する。
緑色の巻髪で竜を前にしてるのもあってオドオドしている。眼も同色で妹というだけあってエア達よりも若い。ニコニコしているのに何だか影のある子でこっちの方が影姫って感じがする。
「ここで止まれ」
流石に俺は彼らの傍に踏み込むことは許されずその随分と手前でアッシュに止められそこから見させて貰う。
(んでと)
王たちを観察。王妃の一人、緑髪の美人さんは光姫ちゃんのお母さんでまあ今回、彼女はいいだろうと視線を切る。
(この二人がエアの母親と親父さんか)
ストラージュの王は着こんだ装備の上からでも筋肉隆々としていて戦士と言われても納得しそうな見た目。眼の端に切り傷があるので実際戦っていたのだろう。
妃の方はおっとり系の女性。二人とも美男美女でエアと同じ水色髪の碧眼だった。
(ミアを創ったようには見えねえけど)
ゲームとはいえ親。子を思えばどんなことでもしてしまうものということなのか。
(酷えとは思う)
彼らの行為を肯定することはできない。ただ、彼らが動かなければミアは生まれてこなかった。そう考えるとどっちが彼女の幸せだったんだろうか。
(まあこんなの考えるだけ野暮か)
間違いなくミアが明るくなければ俺はきっとこの物語を楽しめなかっただろう。
「水龍様」
そんな彼らが水龍エゴの前で膝を折る。周囲も跪いたので俺も真似をしておいた。
「貴様が今代の王であるか」
「はっ!ベルハルトと申します。ストラージュの守り神様」
「うむ」
「それで……失礼ながら。これまで姿をお見せにならなかった貴方様が何故人の地に。まさかっ厄災が」
厄災の言葉にざわめきが起き、王の指示で兵士たちが黙らせる。それを見てから水龍は口を開いた。
「いや、そうではない。此度はそなた達に吉報をもって参ったのだ」
「吉報ですか?」
王は緊張気味だったが次の言葉に表情が和らいだ。
「うむ、龍脈が安定した。もう贄の必要はない。そなた達が竜贄の儀を行う必要はもうなくなった」
くらっと倒れ込むエアの母を王が手を貸し支えた。どっと歓声が沸く。
(そっか)
彼らはエアと偽りミアという変り身を龍に差し出した。それが露見し、逆鱗に触れホンモノを出せとでも言われると思っていたのだろう。涙を流す母と喜びを隠せない父。その姿を水龍はじーっと見つめていた。
「して我の元に送られた者であるが」
びくっと分かりやすく震え、恐る恐る竜を見る王と妃。それを見て水龍は苦笑した。
「あれは我の元で預かることにした。良いな」
一瞬、キョトンとしたがブンブンっと首を振る王。
「王よ今代の影姫を今一度見たい」
「それは……」
「何、とって食おうとはせん。龍の神に誓おう」
王は暫し悩んでいたが妃に囁かれ兵士に指示を出した。そして──兵士に連れられてエア姫がやってきた。彼女はまるで日を始めて見たかのように手で遮って、かなりの間籠らされていたのが伺えた。
「魔物の……聞こえる」
周囲からぼそぼそと彼女に向けられて陰口が囁かれる。そういえばそういう設定あったと俺は思い出した。
かなり雰囲気が違うので関わった俺からするとミアとエアが同じものとして見られるのはかなり違和感があった。
エア姫はチラっと俺──ではなく、アッシュに視線を送る。それを見て頷くアッシュに彼女は小さく顎を引いて応え水竜の前に立った。
「……先ほどは名を名乗れずご無礼を水龍様。エア・ストラージュと申します」
「うむ、先の竜贄の儀ぶりであるな今代の影姫よ」
二人は会っていないはずだが民が見ているため話を合わせているようだ。
「それで……その……貴方様の元で預かることになったとされる者のことなのですが、それはその者の意思なのでしょうか?」
「エアっ」
父たる王が無礼な娘を咎めようとするがそれを水龍が止めた。
「あれの意思だ。あれが我が傍で生きたいと申したのだ」
「では、どうかっどうかお願いいたします。水龍様どうかあの子の事を」
ぐっと深く礼をするエア。周囲はどういうことなのかと混乱しているが父親と母親、そして水龍だけは彼女の姿に魅入られたかのように固まっていた。
「……勿論だ。安心するがよい」
「はい」
エアと水龍はじっと見つめ合い。何かに負けたように水龍が目を逸らした。
「ストラージュの王よ!」
「はっ」
「我はこれより迷宮の邪気を収めにゆく」
「迷宮の邪気ですか?」
「そうだ。人の手には余るものでな。できれば人払いをお願いしたいのだ」
「わかりました。お触れを出しましょう」
「すまぬな。助かる。決して誰も近づけさせるな。よいな」
強い水龍の言葉。頷いた王を見届けてから水龍はエアに向き直った。
「影姫よ此方に」
エアが踏み出し水龍も前へ。龍が姫へと歩み寄り神話の光景のようで誰かの息を呑む音が聞こえた。
「龍脈の邪は払われ、竜贄の儀の役目は終わった。影姫よ、そなたが贄となる必要もなくなった」
「はい」
「そなたは自由となったのだ」
「自由……きゃっ!」
両手をじっと見ていたエアの肩を優しく水龍が指で弾く。それでも踏鞴を踏んだエアを彼女の両親が慌てて受け止めた。
「どうかお幸せに」
どこかもの悲しげな龍とそんな言葉がまさか水龍から放たれると思っておらず呆ける親子。別れと言わんばかりに羽をはばたかせて龍は舞い上がった。
「ヒトの子らよ!伝えよ!龍脈は安定した!竜贄の儀の役目は終わった!ストラージュは安泰である!」
わーっと歓声があがる。王族達のいる舞台では華やかな演出が行われ俺の耳にエンディング曲が流れ始める。
「お前を紹介しろとの声があるかもしれん。もう少し前にゆくぞ。おいっ聞いているのか稀人。おいっどこへいくつもりだ!」
人々が竜と対話した王族達を見ようと近づこうとしている。その流れに逆らってアッシュを振り切って俺は反対方向に突き進む。
上に上に階段を駆け上がって──俺はテラスに続くドアをバアンっと勢いよく開いた。
そして俺は見た。遠くストラージュの上空。まるで初めて飛んだと言わんばかりの拙い動きで懸命に飛ぶ竜の姿を。
「馬鹿野郎っ」
ストーリークエスト達成の調べを聞きながら、俺は彼女の背をただただ見送り続ける。龍は飛び去った。一匹の魔物がこの町にいた事実を消し去るように。




